第100話 黒マントの正体
「さて、トールは……」
アクアスライムにより、敵のボスは倒した。
幹部らしき、バルバンの仇の女もバルバンの一撃にてこの世から旅立ち、残りはトールが相手をしてる黒マント一人。
視線を向けると、そこには奇妙な光景が展開されていた。
地面に潜るように、隠れると不意打ち気味に後ろから飛び出してくる黒マント、それを察知して対処するトール。
あれは影に潜ってるのかな?
魔法……では、ないな。
魔力の気配はないし、多分何らかの特殊な技なのだろうが、にしても凄いな。
神出鬼没に隠れては、姿を見せて不意をつこうとする黒マントだが、トールは有り得ないくらいの察知と反射速度で見事に対処していた。
俺が相手してたら、戦えていた自信はあまりないなぁ……というか、ボスやバルバンの倒した女とかの比じゃないくらいに強いな。
ふむ、ここは俺も手助けをしないと。
「トールくーん、ふぁいとー」
そう――声援である。
応援こそ、力になると昔スポーツ漫画で見たことがあるから、試してみた。
「……いやいや、援護してくださいよ!」
ダメだったらしい。
まあ、スポーツ漫画の話だし現実は厳しいのだろう。
仕方ないので魔法で援護でもと思うが、その必要性に関しては何とも言い難い。
トールでも頑張れば倒せそうな気はするけど、上手いこと立ち回ってる黒マントに有効的な一撃を与えられてるとは言い難かった。
だからと言って劣勢かと聞かれれば、答えは微妙としか言えない。
トールの方も、完全に不意をつかれることはなく、黒マントからの攻撃はほとんど受けてないからだ。
「助けないのか?」
どうやら落ち着いたらしいバルバンが駆け寄ってきてそんなことを尋ねてくる。
「うーん、なんだかあの黒マントに違和感を覚えて、迷ってるところ」
「えげつないな、あれ、ヴァンパイアの権能じゃないか?」
「知ってるの?」
思わぬ情報に顔を上げると、バルバンは思い出すようにして頷く。
「ああ、昔やりあったことがあってな。アイツらはああいう力があるらしい。魔法とかとは違う力っていうのが昔の仲間が見た結論だったな」
ヴァンパイアか……前世でも今世でも名前は知ってる存在だ。
ただ、前世は空想だったが、今世は実在するらしい。
とはいえ、その数は極めて少なく、目撃例もほとんど無いらしいので、ほとんどの人にとっては空想に近い存在のはずだが……いくら大きめの組織の『狂犬』とはいえ、ヴァンパイアがたかが人間の組織に協力するのだろうか?
上手いこと言葉巧みに操ろうにも、ヴァンパイアにとって人間は食料のようなものだし、食べ物の言葉に耳を貸すかと聞かれれば、難しいとしか言いようがない。
詳しい生態が謎なので、先の情報が本物でない可能性もあるが、だとしても、力のあるヴァンパイアが協力するにはあまりにもメリットが少ない気がする。
ボスや組織のメンバーに愛着でもあったのか?
いや、それはないか。
何故なら、既に撃破された2人を見ても一切気にした様子もなく、少なくともそれはない。
それに、恐らくあの2人どころか、『狂犬』で黒マントをヴァンパイアと知る人は居なかったのではと推察する。
「くっ……速くなってきた……!」
いつの間にか、分身まで使って翻弄し始めた黒マントに、少し手こずっているトール。
本気を出せば倒せないことはないだろうが、この閉所だと俺たちごと建物を崩落させかねないので、それを懸念してるのだろう。
「どうする?手を貸すか?」
バルバンのその問いかけに、少し考える。
ヴァンパイア……前世と今世で違いはあれど、似ている部分もあったはず……とすれば……
うん、ダメ元で試してみるか。
「バルバン、これから何しても止めないでね」
「よく分からんが、分かった」
その言葉に、俺はナイフを取り出すとそれで浅く皮膚を斬って血を出す。
痛い……けど、魔法で治せるし今はこれしかない。
滴る血を集めて、魔法で操るとそれをいくつかの塊にして浮かせる。
少しフラっとするが……うん、大丈夫。
斬った皮膚も既に治療したし、問題ない。
俺は魔法で浮かせた自身の血を黒マント目掛けて放つ。
黒マントなら余裕で躱せるだろうが……好物とあってはそうもいかなかったようだ。
バッと、反応したと思ったら全てをマントから顔を出すと、それらの血を全て口へと入れてしまった。
すると、そこで黒マントに変化が生じる。
先程まで、どこか違和感のあるような男のような風貌から一転、小柄な愛らしい女の子が何とも幸せそうな表情で俺の血を味わっていた。
「はわぁ……!美味しい……」
何とも幸せそうな表情……そう、あれは恐らく俺が水を飲んだ時と同じようなリアクション。
他にだと、アイリスが美味しいものを食べてる時に特に気に入ったものに向けるような様子に近いようなものに感じた。
突然の黒マントの変化に、戦っていたトールもバルバンも呆然としていたが、ただ一つ言えたのは、黒マントは男ではなく、可愛らしい女の子であったということであった。
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