第99話 アクアスライム

「――ふっ!」


俺の言葉と共に、バルバンが先制をかける。


いや、それは先制ではなかった。


「え――」


気がつくと、ゼーレという敵の女の首が宙を舞っていた。


そう、先制ではなく……決着であった。


能力を見ることも、何かをさせることもなく、バルバンは一撃でゼーレを仕留めた。


一切の油断もなく、殺意を刃に乗せて。


「――はぁ!!」


そして、続けて首を失った胴体を真っ二つにすると、宙を舞う頭を四つに切り裂く。


痛めつけて殺さない辺り、バルバンの本来の性格が見えて何より。


それらの肉片が下に飛び散ると、バルバンは何かに区切りをつけるように大剣から血を払うと、目を瞑ってその場に佇んだ。


そっとしておくのが良いだろう。


「おいおい、化け物だなあれは」


そして、俺とボスとの対決……こちらは、俺がボスの繰り出す攻撃を捌いてる途中であった。


あの激戦を見ながらだが、モーニングスターが迫るのは中々に怖いものだ。


しかも、それだけではない。


「これならどうだ」


そう言って、詠唱を手短にして、炎の魔法が飛んでくる。


どうやら、ボスの属性は火属性らしい。


それを同じく炎で相殺して、モーニングスターの回避に専念するが、身体強化と武器への魔力付与をしながら、合間合間に魔法を挟む……やはり、この男中々に強い。


闘気が出るまでは行かない領域でも、肉体的に恵まれてるからか、戦士としての動きにも迷いがない。


俺なんて魔法がなければ、本当に相手にならないだろうなぁ……


「逃げてないで、少しは反撃したらどうだ」


中々決まらない攻撃に、焦れてきたのか、隙を作れとそんなことを言ってくるボス。


うーむ、あんまり派手な魔法は使えないし、ここは楽で早く終わらせてトールの元に行くとしよう。


「じゃあ、ここは一つ、面白い魔法で」


風魔法で牽制しつつ、距離を取ると、ボスの方も風圧で少し下がった。


「無詠唱の魔法……やっぱり、ただのガキじゃないな。詠唱省略どころか、無詠唱なんて、どこの高名な魔法使いの弟子なんだ?」

「さてね」

「何にしても、それだけ魔法が使えるなら、生かしておいてもいいかもな。まあ、管理が面倒だし殺すのが手っ取り早いが……俺の下に着く気はあるか?」

「生憎と、守るべき人達が居てね、それを守るには君の下は世界が狭すぎるかな」

「そうか……何にしても、殺すに限るな」


そう言いながらモーニングスターを構えるボス。


でも、今の会話の隙に準備は整った。


「さあ、いつでも――っく!こ、これは……」


目くらましの光魔法で一瞬視界を奪うと、次の瞬間にはボスの周りには、ぷよぷよとした透明な丸い物体が無数に現れた。


「なんだ……スライムか?いや、だが、こんなスライムは見たことが……まさか、お前の魔法か?」

「御明答、『アクアスライム』俺のオリジナル魔法だよ」


スライムという魔物はこの世界にも居る。


最弱だが、魔物であり、属性ごとに種類もいて少し厄介だが倒せなくないような存在。


ウォータースライムという、水属性のスライムも居るらしいが……まだ会ったことはないので、今度是非とも会いたいものだ。


「どんな凄い魔法かと思えば……」


呆れたように、モーニングスターでアクアスライムを潰していく『狂犬』のボス。


「こんなもの、驚異になりえるか」

「さて、それはどうかな?」


そう、この魔法はそんなに優しいものではない。


むしろ、その恐怖は徐々に訪れることだろう。


10分、20分と経過する事に、ボスの顔は油断から焦りに変わっていく。


「くそ――倒しても倒しきれない……!」


潰しても潰しても無限に湧くスライムに、飛び散った水は冷水のように冷たく、俺の魔力の影響で触れると徐々にボスの魔力を消費させていく……まさに、受けのための戦法。


しかも、跳ねているスライムは狙いが付けづらく、顔や武器を狙うことでより大変になっていた。


じゃあ、本体に攻撃すればいいと思うだろうが……俺は大きなアクアスライムに包み込まれていて、攻撃は通らない。


アクアスライムの中は中々に快適だが、本当に水の中に居るのではなく、薄い魔力で表面をコーティングしており、それ越しの感触となっている。


いつかは、直に感じてみたいが、今は服が濡れても困るのでこれで我慢だ。


「しまっ――ぶぁ!」


と、そんなことを考えていると、アクアスライムが疲弊してきたボスの顔面に張り付いた。


抜け出そうと藻掻くが、顔に張り付いてるアクアスライムを剥がすには大変な集中力が居るので、身体強化で息をなんとか保っても難しい。


やがて、他のスライムが手足を冷やして力を削いで行くと、武器であるモーニングスターを手放して、徐々に大人しくなっていくボス。


追加で、体に水を流し込んだので、ダメ押しみたいなものだったが、数分もするとボスは完全にダウンした。


「うむ、やっぱり水属性はいいね」


この方法なら、魔力量の多い俺には多対一でも余裕で相手に出来そうだ。


そんなことを思いながら、笑みを浮かべていると、黒マントと戦ってるトールは「うわぁ……」という、引いたような視線を向けてきていたが……いや、この魔法良くない?


そんな感じて少し閉まらないが、呆気なく名目上の『狂犬』のボスは倒されるのであった。



















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