第101話 ハーフヴァンパイア
黒マントは男の姿から、少女の姿へと変わった。
ライトグレーの短い髪と、黒い瞳の10歳前後の女の子。
少し発育が早いかどうかくらいのその子が、恐らく黒マントの正体なのだろう。
「……主、血をください」
そして、何故か俺はその少女に主呼びされて、血をオネダリされていた。
少女の名前は、セリィと言うらしい。
種族はヴァンパイアではなく、ハーフヴァンパイアで、母親がヴァンパイア、父親が人間だが、どちらも既に亡くなってるそうだ。
ヴァンパイアには寿命という概念がなく、他殺か、自ら血を吸わないことでしか命を途絶えさせることはないらしいが、その辺は何かしら事情がありそうなので、今は聞かなくてもいいだろう。
結果として、俺はこの吸血っ子に物凄く懐かれていた。
先程までの好戦的な態度から一転、フレンドリーに俺にじゃれてきているその姿に、戦っていたトールもそれを見ていたバルバンも何とも複雑そうな表情をしていた。
まあ、あれだけ手こずっていた相手の正体が少女で、しかもいつの間にか戦う雰囲気ではなくなったので困惑もあるのだろう。
「いいけど、死なない程度にね」
「……勿論、こんなに美味しい血は初めてだから、絶対失いたくない」
「そんなに美味しかった?」
「……うん、これまでの人生で1番」
なるほど、だから気に入られたのか。
「ところで、なんでこんな組織に居たの?」
「……血を貰うのに便利だったから。殺しとかはしてないけど」
聞くと、少女……セリィの専門は諜報で、情報を集めること以外は特に何もしてないらしい。
ただ、時に血を貰ったりはしてたそうだが……母親からの教えで、人間を殺すまで血を奪ってはいけないと教えられていたそうだ。
人間と結婚するだけあって、その辺はちゃんと考えられる母親だったらしい。
ちなみに、トールと戦ったのは亜人の血を飲んでみたいという好奇心で、少し血を貰ったら逃げるつもりだったそうだ。
やっぱり心配はいらなかったか。
「それで、殿下。その子はどうなさるのですか?」
「俺が私的に貰おうかなって」
「殿下……」
トール、その『また嫁を増やすおつもりで?』という呆れたような表情は止めたまえ。
「いや、諜報とか得意ならその手の仕事任せようかなって。とは言っても危険なことはさせないけど」
別に俺は英雄とかではないので、悪の捜査とかそういうのはお偉いさんに任せて、米とか味噌とかを見つけて貰ったり、泉の水とかの調査みたいなのをお願いできたら助かる。
「そんな訳で、俺の所に来ない?」
「……うん、一生側にいる」
誤解を招きそうな発言だが、まあ、可愛らしい少女のそんな言葉は中々に嬉しかったりもする。
例え、血が目当てでも。
回復魔法の中には、あまり増血の魔法とかはないのだが、俺は念の為に開発したので使えたりした。
なので、魔力と俺の体力が追いつく範囲でならこの子に血を分けてもそこまで支障は無かったりする。
「じゃあ、よろしくねセリィ」
「……うん」
「とりあえず前払いで少し飲んでいいよ」
「……いいの?」
「うん、なんかソワソワしてるし」
俺にベタベタしながらも、どこかお預けを食らってる犬のように見えない尻尾を振ってそうなセリィにOKを出すと、嬉しそうに俺の腕にかぷりと噛み付く。
少しチクリとした痛みはあるが、直ぐに血を吸われ始める。
15……いや、20秒ほどで、限界なのでポンポンと頭を撫でると分かったと言わんばかりに口を離すセリィ。
すると、さっきまで刺さっていた部分には傷一つなく、何となく生暖かい感触が残ってるのみであった。
「最高……」
恍惚とした表情でそんなことを言うセリィだが、そんなに美味しいのか?
そんなことを思いながら、少し目眩を感じつつも増血魔法で回復を計っていると、セリィは俺に抱きついて言った。
「……もう、主なしじゃ生きれない体になっちゃった……」
……トール、止めて。そんな目で見ないで。
バルバンも、やれやれと言わんばかりに呆れてないでよ。
「というか、そんなに良かった?」
「……うん、今まで人間の血が雑草なら、主のはドラゴンのお肉」
「ドラゴンって美味しいの?」
「……最高級らしい」
ふむ、なるほど。
というか、出回ってるドラゴンの肉とか食べたことないのでイマイチピンとこない。
「……例えると、魔物と人間の血で汚れた泥水と精霊の住む泉の水くらいの違い」
「なるほど、それは大きいな」
俺に分かりやすく例えてくれたセリィ。
というか、短時間で俺の嗜好まで把握したその観察眼が半端ない。
アクアスライムの時の様子から察したのだろうか?
何にしても、バルバン確保のための『狂犬』狩りだったが、バルバンだけでなく、セリィという優秀で可愛い少女も手に入れられたので、ある意味ではプラスと言えるだろう。
アイリスとレイナに何て報告をするかに関しては検討するしかないが……まあ、トールとバルバンもフォローしてくれるだろうと、視線を向けると見事に逸らされた。
薄情な奴らめ。
そんな二人とは対象的に俺に擦り寄ってくるセリィは中々癒しではあった。
まあ、何とかなるよね。
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