第77話 初めてのお出掛け

色々と、想定外のこともあったが、レイナの車椅子の使用レビューとしては、総じて悪くないという結果であった。


忙しいらしく、「また今度ゆっくり、お話しましょうね」と、娘とその婚約者両名に告げてから去っていたレティシア様。


その台詞に、娘の方は嬉しそうにしながらも、どこか俺を取られまいと密かに手を握ってきたレイナと、こっそりと近づいてきて空いてるもう片方を握ってきたアイリスのどちらも可愛すぎてやばかったというのは、仕方ないことだろう。


「私を生んでくれた本当のお母様とお義母様は凄く仲良しだったみたいで、お義母様は昔から私のことを本当の娘みたい気にかけてくれてるんです」


レティシア様が去ってからそれを教えられたが、実の母を早くに亡くしたレイナにとって、レティシア様は本当の母親のような存在らしい。


本当に優しい子だ。


思わず頭を撫でてしまうが、レイナは嬉しそうにはにかんだ。


うん、この子には笑ってて欲しいね。


「わぁ……!景色が動いて面白いです……!」


そんな決意を抱きつつ、俺達はレイナの初めてのお出掛けを行うべく部屋から出てきたのだが……この時点でも初めての外の世界に、レイナのテンションが地味に上がっていた。


「レイナ様、楽しそうですね」

「まあ、初めてのお出掛けだしね」

「あの、エル様、レイナ様。後で私もレイナ様の車椅子を押してもいいですか?」


興味があるのか、そんなことを聞いてくるアイリス。


「俺は構わないよ。レイナもいいよね?」

「はい、勿論です。よろしくお願いしますね、アイリスさん」

「はい!お任せを!」


正統派癒し系美少女と、うさ耳癒し系美少女のコンボ……うむ、なんというか、目の保養になる。


「待てよ……ダーリンが、不慮の事故で動けなくなれば……全て私がお世話できる!」

「いや、本気でそれは止めて!というか、剣を抜こうとしないで!それ、不慮の事故じゃないよね!?」


後ろで、静かに夫婦漫才してる二人と比べると、なんとも和む空間だ。


というか、小声でありながら、聞こえてくるアホなやり取り……これでも、俺の護衛を普通にこなせてるのが凄いと思う。


一見、離れてアホやってる2人だが、俺やアイリス、レイナに何かしら危害が出そうになれば届く範囲には居るし、二人とも余裕で守れる間合いと状態なのだろう。


「ところで、エルダート様。騎士様のお二人はそういうご関係なのですか?」


こっそりといった様子で、そんなことを尋ねてくるレイナ。


昨日は紹介程度だったので、2人の様子から気になったのだろう。


「まあね。お互い好き合ってるけど、堅物なトールと、積極的なクレアで恋の駆け引きをしてるんだよ」

「まあ、そうなのですか」


正確には、好意はあっても順序を踏んで徐々に進展していきたい乙女なトールと、今すぐにでもトールを食べたくて仕方ないクレアの草食系vs肉食系の戦いとも言えるが……それは、そのうち気づくだろうし、黙っておく。


「でも、こんな風に外に出れるなんて……夢みたいです」


どこか、感慨深く呟くレイナ。


「これから、何度だって連れ出してあげるよ」

「本当ですか?」

「勿論、2人きりでも、アイリスと一緒でも……ね、アイリス」

「はい、でも、エル様と2人きりは羨ましいです」


微笑みながらも、さり気なくそんな可愛いことを言ううさ耳美少女。


「無論、アイリスとも2人きりの時作るから、そこは心配しなくていいよ」

「いいんですか?」

「当たり前だよ。二人共、俺の婚約者なんだし」


いきなり爵位と婚約が決まったが……俺なんかを好いてくれる女の子を優先するのは当然だろう。


そんな俺の言葉に嬉しそうに笑い合うアイリスとレイナ。


それから、後ろの2人がアホな会話をしながら護衛してるのに対して、主に3人で話すが出会って間もないのにアイリスとレイナはすぐに打ち解けていて、まさに親友のような様子を見せていた。


女の子って、もう少し仲良くなるのに時間かかるイメージだったけど……共通の話題とかあると、早いものだね。


……まあ、その共通の話題が俺なのは何故か知らないけど。


アイリスもレイナも、俺の事を異常に持ち上げてる気がするが、2人に誇れる自分でありたいものだ。


「……え!?そ、添い寝もしたのですか……?」

「はい、エル様凄く温かくて……レイナ様も今度どうですか?」

「そ、そうですね……少し、恥ずかしいけど……興味はあります」


チラッと俺を見てそんな会話をするアイリスとレイナ。


添い寝をご希望でしょうか?


オプションサービスでもふもふもお付けしますが……ん?レイナの場合うさ耳とかないから、どこをもふもふしたら……


そっと、俺は心を落ち着ける。


レイナの年齢は先月に9歳になったらしい。


もうじき7歳の俺とは二歳くらいの差しかないが……比較的小柄なためか、あまり年の差の影響は無いと言えた。


同年代の女の子をもふもふ(意味深)


婚約者でなければ、アウトなその単語だが、それまあ、置いておいて。


これはあれか?


ハーレム主人公定番の両手に花展開とかいうやつか?


うーむ、俺には手に余りそうだが、唯一安堵する点があるとしたら、婚約者2人がギスギスするようなタイプじゃない点かな?


姉妹や親友のような感じで仲良く出来てそうなので、そこは良かった。


俺の見てないところで、女のバトルするようなことも考えられなくはないが……2人の性格上、むしろそれは難しそうだなぁと思えてしまった。


まあ、どうせこれ以上婚約者増えることもないだろうし、3人で仲良くやれればいいよね。


そんなことを思いながら、レイナの車椅子を押して、アイリスと共に歩く。


なお、先程の添い寝希望の視線にはニッコリとばっちこーい!的な紳士の回答をしたのは言うまでもない。


美少女との添い寝……お金払ってでもしたいものだものね。
















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