第76話 車椅子

翌日、朝早くから知らせを貰って、俺達はダルテシア王国の王城へと来ていた。


頼んでいた、レイナの車椅子が完成したらしい。


まさか本当に一日で作るとは……ダルテシア王国、恐るべし。


「おお!来たなエルダート」

「おはようございます、陛下。それで、例のものは?」

「完成しとるぞ」


ニヤリと笑ってから、使用人さんが持ってきたのは木製の車椅子をベースに、少しお洒落と乗り心地の良さを求めた結果生まれたオーダーメイドの一品。


上質な動物なのか魔物か不明な素材ので、クッション性は高そうであり、乗り心地も中々悪くなく長時間の外出も苦にならないように、思っていた以上の完成度になっていた。


うん、やっぱりこの人娘大好き過ぎだね。


あと、俺のアイディアで魔道具としても使えるように魔物から取れた魔石も取り付けてある。


主な使用方法は、魔力を流すと車輪が回転するというもので、要するにレイナが1人でも動かせるように考慮したのだ。


あと、万が一操作をミスってぶつかった時に、障壁を展開したりという安全装置も兼ねている。


レイナは、死属性の魔力から生属性の魔力へと魔力が変化したが、微弱な魔力を纏っているということには代わりないので、それを用いて操れるように作ってもらったのだ。


「素晴らしいですね。一日で完璧に仕上がってます」

「うむ、我が国一番の職人と魔道具研究家に協力ささせて徹夜で作らせたが、悪くない出来だ」


徹夜……まあ、この国王陛下のことだし、それ相応に金銭とかの褒賞とそれ以外にも何かしらでフォローしてるのだろうが、それにしてもプロとは凄いものだ。


「じゃあ、早速レイナに試して貰いますか。あ、その後出来れば出掛けてきていいですか?」

「構わないぞ。ただ、娘のことはしっかりと守るように」

「無論です」


そうして、車椅子を持ってレイナの元に向かうが……凄いな、押してても重さをほとんど感じない。


木製なので、揺れるかと思ったがそれもそんなに無い。


魔石によるアシストのお陰かな?


設計上、レイナの纏う魔力を微妙浴びれば機能する仕組みだが、外部からの魔力供給によるストックも可能らしい。


念の為、俺の魔力を補充しておくが……余程高位の魔物から入手した魔石なのか、魔力のストックの限界が物凄いので、この様子なら1回の補充で相当持つだろう。


三度目ともなると、慣れたもので、スムーズにレイナの部屋へと辿り着くが、感知魔法にレイナ以外にも反応があるのに気がつく。


来客かな?


とりあえず、ノックをして俺だと告げるとすぐに嬉しそうな返事を貰ったのでドアを開ける。


すると、そこには俺の来訪に笑みを浮かべるえらく素敵な美人さんが居て、俺に微笑んでいた。


「エルダート様ですね。初めまして。レイナの義母で、一応この国の王妃のレティシアです。娘のこと、本当にありがとうございました」


……王妃様だったよ。


なんでここにと思ったけど……まあ、レイナとの関係で言えば義母にあたるだろうし、義娘のレイナの様子を見に来たのかな?


実の母親は亡くなってるようだし。


「初めまして、エルダートです。こちらこそ、娘さんのこと任せて頂きありがとうございます。あと、レイナ、こんにちは」

「はい、エルダート様」


嬉しそうに微笑むレイナ。


そんな娘の様子に微笑ましそうにしてから、レイナの義母であるレティシア様は言った。


「本当に娘に好かれてますね。でも、確かに娘が気に入るのもわかる気がします」

「そうですか?」

「ええ、なんというか、明るくて優しい雰囲気がしますので。それに、可愛らしいですし」


可愛らしいねぇ……


「お義母様、エルダート様は私の婚約者ですよ?」

「分かってますよ。取らないから心配しないで良いですよ」

「もう……」


よしよしと頭を撫でるレティシア様、撫でられるレイナは少しむくれつつも、義理の母親からのスキンシップに嬉しそうだ。


そうだよな……治す前はこうして触れることすら難しかったんだし、こうして親子のスキンシップが出来るのは本当に良いことなのだろう。


「それで、エルダート様。そちらが?」

「うん?ああ、そうだね。これが、レイナのためにレイナのお父さんと協力して作った車椅子だよ」


和んでいると、とりあえず区切りがついたようで、尋ねてきたレイナに車椅子を見せる。


すると、興味深そうに車椅子を見るレイナとレティシア様。


「ここに座るんですね……後ろの方の取っ手は押すのでしょうか?」

「あら、じゃあ、レイナと一緒にお出掛け出来るようになりますね」


その言葉に嬉しそうに微笑む美人母娘。


直接の血は繋がってないが、仲の良さが伺える。


なんとも微笑ましい光景ではあるが、とりあえずは試して貰わないとね。


「ええ、とりあえず座ってみて貰いたいけど……少し失礼するね」

「エルダート様?えっ……ひゃ!」


自分で乗ることも、不可能ではないだろうが、俺が居る時は俺がやりたいので、レイナをお姫様抱っこすると車椅子へと丁重にエスコートする。


年齢に比べても、やはり軽すぎるレイナ。


身体強化の魔法を使わずとも持てるほどに軽いレイナだが、突然のことに顔を赤くして戸惑っていた。


そして、俺の後ろではアイリスが少し羨ましそうな表情をしていたのだが……後で同じことをしたら喜んでくれるのだろうか?


うん、試してみよう。


そうして、レイナを車椅子に載せるが、少し大きめの車椅子ではあるが、十分にレイナの視界を遮ることなく機能美に優れてそうなのでひと安心する。


「レイナ、乗り心地はどう?」

「…………」

「レイナ?」

「え?あ、は、はい……あ、うぁ……とっても、カッコよかった……です……」


物凄く照れつつ、そんなことを言われる。


うん?

車椅子の話をしたのだが……何故にカッコイイという感想が出てきたの?


あ、もしかして、お姫様抱っこに反応したのかな?


えらく初心な反応をされてしまうが……なんというか、その反応で俺まで少し照れてしまいそうになる。


うん、なんか、こういう可愛い所は嫌いじゃないな。


そんな俺たちを優しく見守るレティシア様だったが……義理の母親の前で今のやり取り見られたこともあってか、それに気づいたレイナがますます照れて頬を赤く染めて、それを可愛らしく隠そうとしたのは、なんとも可愛らしかった。












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