第74話 正妻さん

「ここだね」


アイリスと戯れていると、いつの間にかレイナの部屋へと到着する。


コンコンと、部屋のドアをノックする。


すると、中からレイナの声が聞こえてきた。


「レイナ様、エルダートですが、よろしいですか?」

『……はい、どうぞ』


少し間があった気がしたが、割とすんなりアポが取れた。


中に入ると、そこには美少女がベッド上に居た。


俺が治した火傷跡が消えたことで、見えるようになった瞳の色は、翡翠色。


落ち着いていて、どこか安心感のある優しい瞳と、綺麗な長い金髪が見事なコントラストを描いており、正直かなりの美少女であった。


儚さ、清楚さ、可愛さ……そんな美少女っぽい要素を持っているその子は、3日前に倒れる前に見た時とは違い、雰囲気からも明るくなっていた。


ふむ……魔力も、生属性がきちんと馴染んでいるし、目も見えて火傷跡も無くなった。


大丈夫そうで良かったよ。


「えっと、レイナ様」

「エルダート様。この度は本当にありがとうございました」


俺が声をかける前に、そんな風に言われてしまう。


「いえ、出来ることをしただけですので」

「……いえ、エルダート様のお陰です。本当にありがとうございます。ただ……」


少し言い淀むレイナ。


足のことだろうか?


そのうち治せるように魔法の修練を頑張ろうと思っていますと、告げようとすると、レイナはどこか拗ねたように言った。


「私は、エルダート様の妻になるのですから、呼び捨てにしてください。喋り方も、アイリスさんと同じがいいです」


……えっと、足はいいのかな?


「分かった……レイナ。じゃあ、俺からも1つ謝らせて。ごめん、今の俺じゃ、レイナの足を動かせるようには難しいみたい」

「いえ、それは別に構いません」

「そ、そうなの?」


思ったよりもあっさりしてて、びっくりする。


「お父様が私を抱きしめてくれて、こうして目が見えるようになった……私は、それで十分です」


そう微笑むレイナ。


その笑みに不覚にもときめいてしまう。


美少女の微笑みとは恐ろしいなぁ……


そんなことを思っていると、レイナは少し不安そうに上目遣いで尋ねてくる。


「エルダート様は、こんな足の動かない欠陥品はお嫌いですか?」

「んー、それはないかな。レイナ可愛いし、優しいみたいだし、むしろ、俺なんかでいいの?」


別に、足が動かなくても俺としてはそこまで問題ないと思っている。


それはそれ、これはこれ。


子供が生めないとなると、他の貴族がうるさくなりそうだが……まあ、一応その辺は問題ないらしいし、仮にダメでも養子とかでも俺は構わない。


心優しくて、俺を慕ってくれる女の子が傍に居てくれるならそれでいいのだ。


逆に、レイナみたいな美少女が、俺なんかに嫁ぐのが本当に良いのかと疑問になって尋ねるが……レイナは頬を赤く染めて言った。


「エルダート様がいいんです。だって……私のこと、初めて触れてくれましたから」


……そっか、この子は死属性の魔力のせいで、これまでまともに人と触れ合えなかったのか。


そんな子に初めて触れて救った……なるほど、同い年の俺が好かれても不思議じゃないか。


「分かった……じゃあ、これからよろしく、レイナ」

「はい、エルダート様」


何とか、レイナと仲良くやれそうで良かった。


可愛い女の子に好かれる……その時点で、それはそのうちこの子に堕ちそうではあるが、まあ、アイリスと同じパターンのような気がしなくもない。


「ところで……その、エルダート様ってやめない?エル様とか、なんならエルでも……」

「ダメです。エルダート様はエルダート様です」


……うん、まあ、いいけどさ。


「それで、アイリスなんだけど……」

「はい、私と同じくエルダート様の婚約者になるんですよね。大丈夫ですよ。エルダート様に何人の妻が出来ても私が支えますから」

「わ、私もです!」


……気持ちは嬉しいけど、そんなにモテないよ?


しかし、何と言うか……美少女に少しお節介と余計なお世話をしただけでこんなに慕ってもらえる……なんかそのうち反動で大きな災厄とか起こりそうで怖くなる。


俺がモテるとか、天変地異の前触れじゃねぇ?


……自分で言ってて虚しくなるが、仕方ない。


だって、トールやマルクス兄様なら分からなくないけど……我ながら、魔法が無ければ本当にただの子供なのでモテ要素とは縁遠いと思う。


それが、純正の美少女とうさ耳美少女に好かれる今世に……世の中なにが起きるか分からないものだ。


にしてもあれだな。


後ろで空気になってるトールとクレアが地味にイラッとしてしまうのは、多分二人がニマニマとわざとらしい笑みを浮かべているからだろう。


そして、トールの隠れている尻尾を触ろうと空気に徹しながらも、恋の駆け引きをするクレア。


そのアグレッシブさは嫌いじゃないぜ。


そうして、レイナとアイリスと3人で話すけど、思っていた通りレイナは優しい女の子みたいで、俺のつまらない話にもしっかりと頷いてくれてたりする。


美少女は聞き上手って本当なんだねぇ。


アイリスもだけど、アイリスの場合はアグレッシブに話すことも多いので、レイナの感じはなんというか……安心感のある美少女って感じかな?


うん、なんかこの2人見てると和む。













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