第73話 モテるってなんだろう
「殿下、おめでとうございます」
「そのニヤニヤ顔はやめろや」
ここぞとばかりに、いい顔をするトール。
そんな顔でもイケメンなのが、尚俺に追い打ちをかけるが……これが東大クラスの顔面偏差値か……
「えへへ、エル様」
そして、兄とはまた別の良い顔をしているのは、妹のアイリス。
側室として娶りたいとの俺からの唐突なプロポーズを受け入れてくれた天使は、何ともご機嫌だ。
「しかし……なんで、レイナ様は俺なんかを気に入ったのやら……」
アイリスを愛でつつ、そんな疑問を口にする。
ダルテシア王国の国王陛下と、ジーク義兄様はお仕事があるとかで、俺の無事を確認するとすぐに部屋を後にした。
体調も万全になったし、魔力もフルに回復して元気になったので、とりあえず、家族への生存報告の前に、レイナと少し話をしたいと思って現在レイナの部屋へと向かっているが……国王陛下の話だとレイナが俺との婚約にノリノリとか言ってたけど本当なのかどうか。
嘘をつくような人じゃなさそうだけど、モテない俺からしたらそんな奇跡は何かの詐欺か錯覚に思えてしまうもの。
はて、本当に好かれるようなことしたかなと首を傾げると、トールが呆れたように言った。
「いや、そりゃ、絶望のドン底から救われたら誰だって惚れますよ」
「そうかな?」
「というか、倒れるまで真剣に自分のことを救ってくれた同年代の男の子……ここまで来て、惚れない人はそうは居ないかと」
「エル様はカッコイイですからね〜」
何とも、アイリスからの高評価が身に余る気がするが、嬉しいには嬉しいので、有難く受け取る。
「しかし、アイリスを無事娶ってくれることになって良かったですよ。これで、僕も少し安心できます」
「ええ、安心して私のモノになれますね」
「そっか、トールもようやくその気に……」
「お兄ちゃん、おめでとう」
「いや、そういう意味ではない……というか、その顔止めてくださいよ、殿下」
クレアの言葉に顔を引き攣らせながらも、俺のニマニマ顔にクレームをつけるトール。
全く、先程の自分の顔を鏡で見せてやりたい気分だよ。
ただのイケメンの絵面だけど。
「アイリスは、レイナ様と少し話したんだっけ?」
「はい、エル様が寝てる時に。とてもお優しい方で、仲良くなりました」
うーん、なら大丈夫かな?
正直、俺の正妻になる予定のレイナのことを、あまり知らなかったので上手くやれるか少し不安だったが……一番の懸念であった、側室のアイリスとは上手くやれるようなので、そこは少し安心できた。
「あ、そういえば、エル様のこと沢山聞かれました」
「俺のこと?」
「はい、それはもう色々と」
何を話したのか気にはなるが……まあ、俺の事をお気に召して頂いたようで何より。
「そういえば……レフィーア姉様の方は大丈夫だった?」
倒れて、少なからず心配をかけたのではと尋ねると、トールが頷いて答える。
「ええ、かなり慌ててましたよ。でも、アストレア公爵様に説得されて、お子の面倒を優先しておりました」
「なら良かった。でも、後でちゃんと会いに行かないとね」
とりあえず、甘いものでも帰りに買っていこうかな。
「にしても……殿下も爵位を貰うんですね。殿下じゃなくて、男爵様とか呼んだ方がいいすか?」
「うん?いや、今まで通りでいいよ。面倒だし。でも、まあそういう訳だから、俺の騎士はちゃーんと、嫁を迎えて、子供作ってね」
「任せてください!」
「なんでクレアが答えるの?」
「え?勿論、私がダーリンのお嫁さんだからだよ〜!」
「ちょ!だから、くっつくのは……」
俺の一言で、またしてもイチャイチャし始めるトールとクレア。
リア充だねぇ……でも、トールは俺の一番の騎士だし、貴族になってもそれは変わらない。
早めに嫁と子供を作ってくれると、色々と助かるが、それは俺が成人してからでも構わない。
その前にクレアがトールの子供を身篭るのが早そうだが……まあ、それはそれ。
その辺は2人に任せて、俺は俺で、面倒事が増えない程度にお仕事しながら、嫁を愛でるとしよう。
レイナに関しては、話を聞く限り、俺としても仲良く出来そうだが……まあ、火傷をしててもかなり美少女で、しかもどことなく俺の好みのタイプ……というか、アイリスとどこか似たような清楚さと愛らしさを兼ね備えていたように思えたので、俺という人間の好みのベクトルが同じなのだろうと、自分の単純さに苦笑してしまうが、まあ、優しい女の子なのは間違いないので、会うのは楽しみだ。
「えへへ、エル様エル様」
「うん?どうしたのアイリス」
「呼んでみただけです」
……にしても、アイリスがめちゃくちゃ嬉しそうなのが可愛すぎる。
そんなに俺との婚約が嬉しいのか……モテない俺にそんな反応されると、簡単に絆されるので、この子は本物の小悪魔さんなのだろう。
うん、俺がちょろ過ぎるというのも、一考の価値はあるけど。
そりゃ、人からの好意的な態度に慣れてないとね、ちょろーくなってしまうのよ。
まあ、ひねくれてるから、その好意を疑うこともあるけど……ここまで純粋な好意のみを伝えられるとそんな気は微塵もおきない。
うん、この子が側室になってくれて良かった。
そんなことを思いながら、アイリスで癒されるのであった。
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