第60話 レフィーア姉様
目立ちながら進むことしばらく、王都の北側の大きな一角にその屋敷はあった。
貴族街の中で最も大きく、広いであろうその屋敷こそ、我が姉であるレフィーア姉様が嫁いだアストレア公爵家であった。
「エルダート様ですね。お待ちしておりました」
事前に先触れとして騎士さんを向かわせていたこともあり、すんなりと中に入れた。
流石は名門公爵家というべきか、目立つ俺や亜人のトール、アイリスを見ても誰一人として驚いたりはせずににこやかに出迎えてくれた。
所作の一つ一つも凄く綺麗だし、何より顔面偏差値が高すぎて自分の場違い感が半端ない。
とはいえ、そんな理由で帰るわけもなく、よそはよそうちはうちと割り切っておく。
「お足元お気をつけ下さい」
そんな風に少し考えていると、小さな段差があり、それを知らせてくれる執事さん。
凄いな、マジでレベル高い。
ウチの国の使用人さん達も凄いが、やはり他国の公爵家もレベル高くて半端ない。
「エルー!」
そうして、屋敷に案内されると、真っ先に俺に駆け寄ってきた女性。
その姿は、俺には2年ぶりくらいになるだろうか?
黒髪褐色のウチの国の特徴的なその人は、しかして、圧倒的に昔よりも美人になっていた我が姉、レフィーア姉様であった。
「姉様、お久しぶりです」
「わぁ!本当に大きくなったね!うんうん、可愛い〜」
ギューっと、物凄く抱きつかれる。
アイリスやトールの前なので少し恥ずかしいが……久しぶりに会った弟である俺を可愛がってくれるのは嬉しいので素直に受け入れる。
「遠いのに来てくれてありがとうね!」
「いえ、姉様やアストレア公爵にも会いたかったですし、それに……初めて出来た甥に会うのも楽しみです」
「自慢の息子だからね!」
ドヤ顔で言うレフィーア姉様。
まだまだ赤ちゃんのうちに自慢の息子と呼ばれるとは……末恐ろしい子だ。
「でも、大丈夫そうで良かったです。出産というのは大変だと母様から聞いてたので。体調は大丈夫ですか?」
「もちろん!元気だよ!」
何とも健康そうに動き回るレフィーア姉様。
前世ほど医療が発達してないので、出産の難易度というか危険度は高めなはずのこの世界だが、魔法というものもあるので、お金を出せる金持ちだったらそこまで大変でもないらしい。
まあ、そうは言っても、前世だろうと今世だろうと出産というのは一つの命を産み出すものだし、大変じゃないわけが無い。
母子ともに無事なのは何よりと言えた。
「あれ?メルが居ないね。あと、何か可愛い子が増えてる!」
俺との再会の抱擁をしながらも、キョロキョロと近くを見渡すレフィーア姉様。
そして、俺の専属メイドさんだったメルの代わりにアイリスやトール、クレアといった知らない人が増えてるのに驚いていた。
「メルは赤ちゃんが出来たそうで、今回は連れてきませんでした」
「おお!メルもついにお母さんかぁ……それで、それで?」
「それで、代わりに俺の専属侍女になって貰ったアイリスと、俺の騎士のトール。そして、そのトールの奥さんのクレアです」
その紹介にトールがギョッとしたような表情をしてから、俺に向かって鋭い視線を向けてくるが……俺はそれを華麗に無視する。
「そっか、はじめまして!エルのお姉ちゃんのレフィーアです。えっと、アイリスちゃんに、トールくんに、クレアちゃんね」
「は、はい!よ、よろしくお願いします……」
ガチガチに緊張しているアイリス。
その後に続く形で不本意な表情ながらも礼をするトールと、先程の俺の紹介が嬉しかったのか満足気に微笑むクレア。
そんな三人をジーッと見てから、レフィーア姉様はアイリスに視線をロックする。
「ねえねえ、アイリスちゃん」
「え……あ、はい!」
「エルのこと好き?」
「ふぇ!?」
いきなりぶっ込んでくるレフィーア姉様。
そんなレフィーア姉様の問にアイリスは照れつつも何とか答える。
「えっと、その……お、お慕いしております……」
……なんか、俺まで照れそう。
照れつつもマジなトーンでそんなことを言われると俺としてもかなりくるものがある。
そんな俺とアイリスの反応を見て、レフィーア姉様は嬉しそうにアイリスの手を取った。
「素敵素敵!私は応援してるわ!頑張ってねアイリスちゃん!」
「は、はい……」
その後、弟を置いてけぼりで、レフィーア姉様はアイリスに色々と質問をする。
主に俺関連だが、照れつつもアイリスが素直に話すものだから余計に俺は居ずらくなる。
いや、だって、目の前で俺の好きなところか、カッコイイところとかを上げられると自然とそうなるでしょ?
俺との出会いとか、これまでのあれこれとか……まあ、流石に真夜中にニラせんべいを食べた時に泣いてるアイリスを抱きしめた話は出なかったけど、アイリスが素直に俺の良いところとか優しいところとか上げるから本当に照れくさい。
そんなアイリスと俺の様子を楽しむレフィーア姉様。
弟の恋バナがそんなに面白いのか、根掘り葉掘り聞かれるが……転移で帰って今すぐ布団に潜り込みたいくらいには恥ずかしい。
その後、トールとクレアにも矛先が向くが……奴が同じ目にあってる間は俺はアイリスと目を合わせられなかった。
向こうもそうなのか、恥ずかしそうに視線を逸らす。
この空気どうしでくれるの……
そんな感じで、俺は久しぶりに姉と再会したのだが……弟は姉には勝てないは真理だったんだね。
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