第46話 じんわりする気持ち

「エル様!お怪我はありませんか?」

「うん、大丈夫だよ」


馬車に入ると、アイリスが心配そうに声をかけてくる。


外のゴブリンやオークを見て、流石に心配になったのだろう。


「それなら良かったです……」

「心配かけてごめんね」

「いえ、エル様が無事なら良かったです。でも、あんまり無理なことはしないで欲しいです」


少なからずアイリスに心配をかけてしまったのは、申し訳ないな。


俺としては、そこまで無茶をやったつもりはないのだが……まあ、普通に考えてあの数の魔物に突っ込むのはいくら魔法が使えても若干無謀な気もしなくはない。


ましてや、まだまだ子供の俺だし、戦闘が本職の人達と比べればやはり経験や技術、とっさの状況への対応力なんかは圧倒的に欠けてるのでその辺は考慮するべき点でもあったかもしれない。


それにしても、心配か……思えば、前世でそれをされた事はあんまり無いかもしれない。


俺がアレルギー反応を起こしても、両親は基本的にスルーだったし、「またかよ」みたいな面倒そうな様子で病院に運ぶ優しさはあったのだろうが、世間体が無ければ俺を施設とかに預けたくて仕方ないとも話していたのを聞いたことがある。


両親からしたら、俺という人間は生まれて来なければ良かったのだろう。


極力関わらず、出費を抑えて、ある程度の年齢になったら家から追い出す……それが、両親なりのせめてもの優しさだったのだろう。


イタズラで俺に水を浴びせて、アレルギー反応を起こさせたクラスメイトも、俺を気味悪がりはしても、心配はしてなかった。


唯一、心配に見えたのは、前世で最後にドッキリと称して、俺を海に突き落とした高校の友人達の様子が辛うじてそれに近いかもしれない。


海に落とされて、酷いアレルギー反応を起こして動けない上に、意識が混沌としてる俺を海から引っ張り出した時にそう見えたのだが、生憎と初めての海の心地良さとこれまでの比じゃない酷いアレルギー反応であまり良くは覚えてない。


そもそも、アレルギーのことは説明してあったし、本人達も分かっていたはずだが……まあ、本当の意味では理解出来てなかったのだろう。


やらないと、やれないの違いが区別できてないような感じ。


泳がないと泳げない、届けないと届かない、眠らないと眠れないのような、細かいようで大きな違いのある言葉の隔たりを理解してなかったのだろう。


向こうで彼らが今どうなってるのか……法律なんかはそこまで詳しくないが、両親のことだし大事にならないように示談で纏めてそうだなぁとは思う。


まあ、俺の死でその元友人がその後奮起すると神様は言ってたし、あの苦しみに悩む人を救ったのなら俺にはそこまで文句はない。


今世が本当に幸せだから、そんな気にもならないのだ。


そして、そんな前世とは打って変わって、こうして心配してくれる人がいる。


些細なことにも思えるが、そんな気持ちが嬉しくもあり、どこか心にじんわりとくるものがある。


「うん、今後は気をつけるよ。でも、アイリスが危ない時は守れないかも」

「むぅ、私よりエル様の方が大切です」


頬を可愛らしく膨らませて、そんなことを言うアイリス。


ちなみに、トールの方はそこまで心配はしてない。


トールは強いし、何より俺は俺の騎士を信じてるから。


本当に危ない時以外は守ってもらうよ。


なお、トールが女性から狙われて性的な意味で襲われて危ない時は助ける気は無かったりする。


それはそれで、なんか面白いし、それにあのイケメンはその程度なら軽く受け流しそうだしね。


マルクス兄様といい、トールといい、一体あのイケメン達にはどんな女の子が隣に立つのやら……なかなかに興味が尽きないところである。


「まあ、良い運動にはなったよ。次の休憩まではゆっくりしようかな」

「はい、そうしてください」


膝枕とかを強請りたくなるが、まだアイリスとそういった関係にはなってないので控えることにする。


これが母様や姉様なら遠慮はしないだろうけど……というか、フレデリカ姉様に関してはむしろ俺が膝枕することになりそうだが、それはそれ。


膝枕くらいなら、今の好感度でも問題はなさそうに思えるが、この純粋なうさ耳美少女は本当に初心なのでやり過ぎると、色々と歯止めが効かなくなりそうだし自重する。


ゴトゴトと、馬車が進む中で先程の魔物の死骸の山が遠ざかると、何となく平穏になった気がする。


うん、やっぱり俺には戦闘は向いてないね。


魔法が使えても、戦闘のためにはほとんど使ってないし、自衛がせいぜいか。


さっきのハーレムパーティーの人達がさっそくゴブリンやオークの後始末をしてくれてるようだが……あの量ならそこそこの金額にはなるかな?


解体の手間をかけてまで俺は欲しいとは思わないけど、使っていた武器もそこそこ上等そうだし、彼らからしたら良い儲けなのだろう。


と、そんなことを考えていると、アイリスが俺の肩にそっと、頭を寄せてきた。


「……少しだけ、いいですか?」

「うん」


甘えてもいいと、前に言ったのは俺だったな。


そう思ってそのまま受け入れる。


この子なりに心配してくれて、安心して甘えたいのだろう。


そうして、休憩までアイリスと寄り添うけど……やっぱりアイリスは柔らかくて心地よいのでうとうとしてしまったのは仕方ないとも言えた。


うん、もふもふには勝てなかったよ。











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