第47話 平原の楽しみ方

少しアイリスと戯れていると、いつの間にか休憩する頃合いとなり、俺達は馬車を止めて広い平原で一休みすることにした。


「おお、これはなかなか……」


適度に生えてる草の上に軽く寝転がると、なかなかの快適さに思わず感心してしまう。


服の汚れとかは後で魔法でも落とせるし、このくらいは気にせずやれたのだ。


「殿下、そんな所で寝ないでくださいよ」


馬から降りたトールがこちらに近づいてきて、そんなことを言う。


全く、真面目だな。


「トールも休んだら?気持ちいいよ」

「遠慮しておきます」


そうは言いつつも、隣に腰を降ろすトール。


寝たりはしないけど、座るのはありなんだね。


日当たりもよく、気持ちのいい風が吹き抜けることで、お昼寝したい気分になってくる。


近くで蝶々を追いかけてるアイリスを見てると余計にそんな気分になるくらいに平和だ。


「そういえば、さっきの商人らしき人は知り合いですか?」

「ん?なんで?」

「いえ、殿下に傅いていた気がしたので」


その場面の時は馬車はまだほとんどこちらを視認できてなかったはずだが……どんな視力をしているのやら。


「まあね。嫁いだレフィーア姉様の居るダルテシア王国の商人らしいよ。俺の昔の絵をレフィーア姉様が持っててそれで顔を知ってたらしい」

「まあ、殿下の場合分かりやすいですしね」

「その言葉をそっくりそのまま返そう」


ウチの家族や、アイリス、トールは例え昔の絵だったとしても本人だとすぐに分かるだろう。


俺も、白髪で真っ白な肌という特徴があるので分かりやすいが、ウチの家族には俺とは違う気品のようなものというか、雰囲気で分かりそう。


アイリスやトールは亜人という特徴もあるが、うさ耳美少女とうさ耳美少年は中々お目にはかからないので覚えられるのは早そうだ。


うん、これなら都会に行って迷子になっても見つけやすいかも。


「それにしても、さっきのゴブリンの中に弓を持っていた個体が居たように見えたのですが……」

「ああ、やっぱり気づいてたか」

「あれって、人為的なものですかね?前に読んだ本ではそんなことは書かれてなかったと思ったんですが」

「まあ、まず間違いなくそうだろうね。ご当地名物とかなら楽なんだけど」


まず、前提としてゴブリンやオークの知能はそこまで高いとは言えない。


群れで行動はしても、集団での戦闘では連携なんてとても無理だしそれを指揮するような個体も居ない。


更に、近接戦しか頭にない脳筋な彼らが弓なんかの遠距離武器を使いこなすことも早々ない。


そこまで頭が回らないし、本能で近くの獲物を襲って食べるのが基本的なゴブリンやオークの習性だ。


ところが、今回戦ったゴブリンやオークはきちんの連携を取り、遠距離攻撃まで拙いながらも成功させていた。


ハーレムパーティーの人達は見たところかなり上位の冒険者に思えたが、あの数で連携まで取られれば苦戦しても不思議ではない。


護衛という、守りの任務なら尚更だ。


しかも、迂闊に魔法使いに魔法を打たせないように遠距離から牽制するなんて、どう考えても普通の個体には不可能だ。


確実にそれらを実行させた者が居そうだが……残念ながら、ここは自国ではないので、それを考えるのは俺の仕事ではない。


ハーレムパーティーのリーダーの男性は、俺と同じ結論になっていたようだし、この事は上に報告されるだろうが……他の場所でも似たようなことが起こっていれば、何らかの大きな出来事が裏では暗躍してるのかもしれない。


「まあ、とりあえずの俺達の目的は無事にレフィーア姉様の元に辿り着くことだよ」

「ええ、分かってます。でも、念の為警戒は怠らないようにしておきます」

「うん、よろしく」


色々と考えてしまうが、物語の主人公のように絶対にその騒動に巻き込まれると決まっても居ないし、俺よりも強い人はこの世界にも沢山居るし無理に出張る必要はない。


俺たちに害を加えるようなら、何とかするまでだが、下手に藪をつついて蛇を刺激する必要性もない。


しかも、ここは自国でも、レフィーア姉様が嫁いだダルテシア王国でもないので、余計な動きはかえって向こうの迷惑になる。


餅は餅屋、自国の問題は自国で。


魔法というとんでもな力に加えて、騎士とか冒険者という戦力も居るなら前世よりも戦力的な意味での水準は高い。


ウチの国の騎士の練度を見てると、特にそう思う。


まあ、他国が同じかそれ以上なのかは分からないが、下回ってたらその時考えよう。


「にしても、トールくんや。魔物の群れに突っ込んだ俺に心配とか労りの言葉はないのかね?」

「いや、殿下が魔法を使って負けるわけないし、心配してませんよ。それに、そこまで疲れてないでしょ?」

「まあね」


一応聞いただけだが、あっさりとそんな返答を貰う。


信頼されてるのだろうが、冷たいヤツめ。


あそこで蝶々を追いかけてる無邪気な妹を少しは見習って欲しいものだ。


最も、トールが無邪気な顔で蝶々を追いかけてる図というのは中々にシュールだ。


美少年好きにはくるものがありそうだが、残念ながら俺には需要がなかった。


にしても……アイリスさんは何故にあんなに可愛いの?


ふーむ、俺ももう少し子供っぽく……しても、意味はないな、うん。


そんな感じで平原は中々に心地良い休憩場所でした。









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