第16話 新米メイド

「エル様、どうぞ……」

「お、ありがとうアイリス」


落とさないように慎重にカップを俺の前に置くのは、新米メイドのアイリスだ。


うさ耳メイドって、もはや2次元の産物にしか見えないが、可愛いので目の保養になって良い。


「ふぅ……なんとか、お茶を零しませんでした……」

「そんなに気張らなくても大丈夫だよ。失敗も少なくなってきたし」


少し不器用なのか、この手の作業でドジもあったが、ここ最近は大分良くなってきた。


まあ、失敗と言ってもカップを割ったり、お茶を零したりとかはしてないけど。


する前に俺が魔法で受け止めるからね。


ミスする度にフォローしてるので、最近は前より魔法の精度も上がったような気がする。


「……うん、次の目標は砂糖の数を間違えないことかな?」

「うぅ……頑張ります」


少し甘すぎる紅茶を魔法で薄めて丁度良くして飲み干す。


「ここでの暮らしは慣れてきた?」

「はい、お腹一杯食べれて幸せです。それに、皆さん親切で楽しいです」


アイリスとトールを引き取って一週間くらい。


父の人徳が為せる技なのか、この国の人達の元々の気質なのか、王城の人間は割とあっさり2人を受け入れてくれていた。


「そっか、何かあったら遠慮しないで言ってね」

「エル様はお優しいですね」

「そう?普通だと思うよ」

「いえ、すごくお優しいです」


ぴょこぴょこと、うさ耳が揺れるのがなんか和む。


感情で耳と尻尾が揺れることもあるようだが、揺れてるうさ耳を見るとついつい触りたくなってしまう。


アイリスにやるとセクハラになりそうだけど、もふもふ具合が最高なのはアイリスの方なんだよなぁ……


トールの方も触ってみたが、少しだけ質が落ちる気がする。


男と女で毛艶に差が出るのだろうか?


まあ、トールは鍛えてるから耳とか尻尾も影響を受けてるのかもしれないね。


「さて、そろそろ魔法の練習でもしようか」

「はい!」


嬉しそうにうさ耳が立つアイリス。


俺の魔法の練習のついでに、実はアイリスにも魔法を教えているのだ。


アイリスは魔法の才能があって、しかも水と風の2つの属性を使えるようなので将来有望な存在と言えた。


その分、少し体を使うのが苦手そうだけど、それでも元々のスペックが高いからか、下手すると俺より力が強いかもしれない。


逆にトールの方は、身体強化の魔法以外は絶望的なくらいに魔法との相性が悪く、その分亜人としての身体的スペックは群を抜いていた。


なんとも、対照的な兄妹だけど、それぞれの性格にあってるように思えて俺としては好ましい限りだ。


「じゃあ、今日は水球を維持する練習ね」

「わかりました」


外に出て、真っ先に俺が教えるのは水の魔法の方だ。


風魔法もそのうちしっかり練習させるけど、水系統の魔法は俺の中で必須科目なので思いっきり贔屓して教えるのは常識とも言えた。


割と基礎的な部分はすんなり出来たので、今やってるのは他の魔法でも応用が効くようにする水球のコントロールの練習だ。


水球を維持するというのは、存外難しいもので、魔力のコントロールが乱れると一気に崩れてしまう、繊細さが必要な技とも言えた。


「あ……」


開始から20秒くらい、コントロールがぶれたのか、アイリスの水球は崩れてしまう。


「惜しいね、でも昨日よりずっと良くなってるよ」

「ほ、本当ですか?」

「うん、偉い偉い」


なんかついつい頭を撫でてしまうが、アイリスが満更でもないように照れてるので大丈夫かな?


「この調子でいけば、すぐに他の魔法も使えるようになりそうだね」

「えへへ……でも、魔法って楽しいんですね」


そういえば、こうして誰かと魔法の練習をするのは初めてかもしれないな。


なんか、人に教えてると新鮮な気持ちになれて良いね。


「エルー!稽古しよー!」


そうして、しばらくアイリスと魔法の練習をしていると、フレデリカ姉様がいつも通り俺を誘いに来た。


「じゃあ、今日はここまで。続きは明日ね」

「ありがとうございました」

「じゃあ、俺はフレデリカ姉様と稽古するからタオルとか水の準備お願いね」

「はい!」


本当は別に用意しなくても大丈夫なのだが、せっかくなのでメイドさんっぽい仕事を頼んでみる。


さて、じゃあ姉様との稽古に行くとしますか。





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