第17話 新米騎士
「お、トールだ」
フレデリカ姉様に連れられて稽古場に来ると、騎士団長に扱かれてるトールを見かけた。
「エルが連れてきたあの子、なかなかやるわね」
「ええ、凄いですね」
加減気味とはいえ、騎士団長相手に立ち回れてる時点でかなり凄いと言えた。
「亜人って、本当に力強いし速いし、そのうち私も剣の腕を追い抜かれそうだわ」
「姉様も十分強いと思いますよ?」
「そう?」
割と本音を言うと、満更でもなさそうな我が姉。
なんというか、若干失礼な言い方をするとチョロ可愛い人だ。
……それにしても、トールの居る方から響いてくる音がおかしい気が。
なんか、訓練用の獲物なのに激しい金属音してるし、若干地面が抉れてるように見えるのだが……気のせいだろうか?
うーん、やはり俺には剣は向いてないな。
よし、トールにそっちは全部任せよう。
「じゃあ、こっちも始めましょうか!」
まあ、これから俺もフレデリカ姉様に扱かれるんだけどね。
「ええ、お願いします」
さてと、今日も運動頑張りますか。
「よし!少し休憩ね!」
稽古を開始して1時間半ほど。
そのフレデリカ姉様の言葉で俺は一息つく。
今日も今日とて、なかなかハードなメニューだが、姉様も同じメニューでまるで汗をかいてないのをみると、これでも温いのだと改めて実感されられた。
要するにいつも通りということだ。
「エル様、どうぞ」
「うん、ありがとう、アイリス」
冷えた水を貰って、一気に飲み干す。
味わわずに飲むのは若干マナー違反にも思えるが、水というのは度量が深いのでその程度のことは些末なことだ。
何より、喉を通る冷たい水の感触が堪らなく愛おしくて、尊い。
こうしてると、俺は生を実感できるものだ。
うん、生きててよかった。
「……お疲れ様です、殿下」
満足しながら浸っていると、いつの間にか訓練を終えたらしいトールが少々疲労気味に声をかけてきた。
「うん、トールもお疲れ様。騎士団長の稽古はどう?」
「……物凄くスパルタです。でも、強くなる実感があるので、嫌ではないです」
「それは何より」
アイリスからタオルを受け取って汗を拭う。
うむ、肌触りが良くて心地よい。
「……殿下は、何でそんなに頑張れるんですか?」
「ん?なんのこと?」
「剣の稽古です。僕とか騎士に守って貰うと言いながら、頑張ってるじゃないですか」
「ああ、そのことね」
魔法で水を生み出して、軽く肌に馴染ませてから顔を拭うと、また爽快感が増して心地よい。
うむ、やはり水は素晴らしい。
「まあ、単純に運動は嫌いじゃないからね。それに……」
「それに?」
チラッと視線をフレデリカ姉様に向ける。
「せっかく、姉様が毎回律儀に誘ってくれてるし、断る理由もないからね。俺との稽古を楽しいと思ってくれてるなら弟として付き合わないとね」
そのフレデリカ姉様は、俺の休憩中は別メニューをしてるのだが、先程までとは少し顔つきが違う。
先程までのが、遊びだとしたら、こっちはガチなトレーニングといった感じだ。
「でも、限界はあるから、何かあったら守れるくらいにはトールも強くなってね」
「魔法もある殿下が危険な目にあうのが想像つきませんが……」
「いいじゃん、アイリスのついでにでも守ってよ」
俺がトールを気に入ってる理由のひとつは、多分シスコンとして通ずるものがあったからだろう。
向こうは妹、こちらは姉という感じで上と下の違いはあれど、シスコンに悪いやつは居ない(1部除いて(偏見))という法則を俺は知ってるしね。
「……無論、そのつもりです。僕たちを引き取ってくれた殿下はちゃんとお守りしますよ」
「お兄ちゃん、頑張ろうね」
「ああ、そうだね」
なんとも兄妹仲良しだが、まあ、一応少しは信じて貰えてきてるようで何よりだ。
「おーい!そろそろ訓練再開……って、おお!殿下!」
「やあ、騎士団長」
ケモ耳兄妹の絆にホッコリしていると、トールを呼びに来たらしい、騎士団長が笑顔でこちらに近づいてきた。
大柄な戦士という感じの騎士団長は、この国でも一二を争うほどに強いので、俺もたまに指導を受けるが、指導中は普段のフランクな感じから想像がつかないほどにスパルタになるので、その変化は面白かったりする。
「今日もフレデリカ様と訓練ですかな?」
「うん、トールの指導ありがとうね」
「いえいえ!久しぶりに活きのいい若者を相手に出来て楽しいですとも!本当は私の後釜にしたいですが、流石に殿下から取れませんからね」
「ふふん、いいでしょ」
早い者勝ちというルールが使えるのが王族の良いところかもしれない。
ただ、ドヤ顔が様にならないのが少し残念かな?
なんか、ドヤ顔してもムカつかないような感じの表情になるらしくて、皆温かい眼差しを向けてくるんだよねぇ。
今のところ相手を煽るようなことはするつもりはないけど、そのうち会得してみせる!
「じゃあ、坊主お借りしますね」
「うん、じゃあ、トールも頑張ってね」
「ええ、頑張ります」
軽く疲れを軽減する魔法をかけてから、トールを騎士団長の元に送り出す。
「エルー!そろそろ続きするわよー!」
そして、時を同じくして、俺にもお声がかかった。
「じゃあ、行ってくるね」
「はい、お待ちしてます」
アイリスにタオルを返してから、満面の笑みのフレデリカ姉様の元に戻る。
もうひと踏ん張り、頑張るぞー!
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