第7話 かき氷
シャリシャリシャリ。
ふんわりとした、雪の結晶は美しい。
それを器に乗せて、自作のシロップをかけて一口……うむ、美味しい。
ガツガツと食べると、頭がキーンと痛くなる。
「あー……幸せだなぁ……」
無論、ただの頭痛でそんな感想は出てこない。
俺が作ったのは、定番中の定番……かき氷である。
前世では食べる機会が無かったが、この砂漠の暑さの中で食べるかき氷は反則的なまでの美味しさであった。
かき氷をさらふわにするのも好きだが、ガリゴリしてるのも悪くない。
水が凍ると更に美味しくなる……俺はまた、水の万能さを発見してしまったのかもしれない。
おいおい、俺をどこまでたらしこめば気が済むんだい?
前世からメロメロなのに、今世でこんなに誘惑してくるとは……なんとも、罪な奴だ。
「あら、美味しそうなもの食べてるわね」
そんな風にかき氷を楽しんでいると、俺の後ろからぬっと、母様が顔を見せてくる。
「母様も食べますか?」
「ええ、頂くわ」
甘味が大好きな母様は、こういう風に1人で俺が自己満足のために作ったものを嗅ぎつけてやって来ることが稀にある。
フレデリカ姉様もタイミングが良いのだが、甘味は母様の方が早いかもしれない。
「美味しいわね」
イチゴのシロップをかけた俺とは違い、母様が選んだのは葡萄のシロップだ。
それも自信作なので、ちょっと嬉しい。
「エルは、本当に便利ね」
「物じゃないよ?」
「ふふ、分かってるわよ」
お茶目な母様だが、普段人前では王妃様っぽく、凛としているので凄いと思う。
そういえば、フレデリカ姉様も人前では大人しいかもしれない。
その辺はやっぱり王女様だからだろうか?
人前が苦手という点においては、多分俺とリリアンヌ姉様に勝てる人はウチには居ないだろう。
大人しいリリアンヌ姉様は元より、俺もあまり人前が得意ではない。
全てアレルギーのせい……とまでは言わないが、三割くらいは責任転嫁してもバチは当たるまいて。
え?残りの七割?
ふふふ……きっと性根に染み付いた陰キャ体質のご加護だろう。
「エルは、将来どうしたいか考えてる?」
己の内側に染み付いた性根にため息をつきたい気分だが、その母様の質問に少し考える。
「うーん、出来れば人の役に立てることが出来ればと思ってます。あと、父様の跡を継ぐマルクス兄様のお手伝いが出来ればなぁ、と」
「エルらしいわね」
思うに、前世ではアレルギー持ちで周りに迷惑ばかりかけていたので、少しでも人の役に立てるような……少しでも自分を誇れるような人間にはなりたいとは思ってたりする。
まあ、便利に使われるのはごめんだけど、困ってる人に親切できる程度には優しくなりたいものだ。
それと、将来過労死しそうな我が兄の様子を見てると支えたくなるのもまた事実。
まあ、せっかく手に入れた自由だけど、適度に労働して適度に休めれば文句はないかな?
「でも、父様が決めた家に婿入りが現実的ですかね?」
「あの人はそれを強要したりはしないわよ。エルもやりたいことがあれば、ちゃんと言葉にして伝えるといいわ」
「ですか……分かりました」
さり気なくお代わりの催促をする母様に俺もさり気なく氷を作って削ってお代わりを用意することで答える。
2杯目のかき氷を食べると、母様も仕事があるのかその場を跡にするが、タイミングを見計らったように姉2人もやって来たので、俺のかき氷作りはしばらく続くのであった。
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