第8話 シャーベット

本日も晴天なり。


温暖どころか、熱帯な我が故郷は1年を通して暖かいが、夏場はガチで死ねるレベルだと思う。


そんな、身を焦がすような暑さの中で、フレデリカ姉様から課せられる地獄のようなメニューをなんとかこなして横になる瞬間はまさに天国とも言えた。


「エルはもう少し頑張れば、いい騎士になれそうね」


俺以上にアクティブに動いていたはずの姉様は涼しい顔でそんなことを言うが……騎士は俺には合ってない職業のように思えて仕方ないのだ。


異世界なのに女騎士という概念が低めのこの世界で、その狭き門に挑む姉様みたいな熱量をどうにも持てそうにないからかもしれない。


「騎士は姉様に任せます」

「そう?じゃあ、もう少し稽古しましょうか!」


ん?何故にそうなるの?


まあ、姉様の生態は地味に謎な部分もあるので、仕方ない。


「えっと、そろそろ冷やしておいたお菓子が良さげな頃合いなので、休憩にしませんか?」

「お菓子?何を作ったの?」

「今日は、隣国から取り寄せた果物を使ったシャーベットですよ」

「じゃあ、1回だけ打ち合いしてから食べよう!」


嬉しそうに俺の手を掴んで立ち上がらせるフレデリカ姉様。


このまま休むという選択肢は無理そうなので、付き合うしかないようだ。


まあ、何だかんだで、運動は嫌いじゃないし、嬉しそうな姉に水を差すような真似が出来る弟ではないので仕方ない。


「じゃあ、行くわね」


互いに構えると、先までの姉様とは打って変わって、凛とした鋭い殺気のようなものを感じるまさに、剣士といった雰囲気に変わる。


その変貌は何度見ても慣れるものではないが、俺も気を引き締めて意識を姉様に集中させる。


――と、その一瞬であった。


僅かな俺の意識の変化の隙を付くように、姉様は一足で俺の懐に飛び込むと、そのまま鋭い突きを喉元目掛けて放つ。


「――っ!」


咄嗟に身を捻って、躱すが逃がさないように追撃をする姉様。


これでも、かなり手加減してるのだから、フレデリカ姉様は底が知れないのだ。


辛うじて防いだり、避けたりするが、このスピードでも姉様のトップスピードから考えると止まってるレベルなのが恐ろしい。


魔法を使えば何とか対抗出来そうだが……


そんな事を考えつつも、俺は魔法は使わない。


無論、嫌な想像になるが、実践があれば迷いなく使うだろうが、姉様との稽古で魔法を使うのは何か違う気がするのだ。


剣の稽古なのだから、なるべく剣の技量を優先して磨くべきだろうし、魔法を使った訓練はどうせ放っておいても後々身体が出来てから姉様に付き合わされそうなので、それまで保留にしておく。


そうして、姉様に挑むことしばらく――何とか隙をついた一撃をあっさりいなされて、尚且つ剣を弾かれて本日の訓練は終了した。




「う〜ん!美味しい!」


先程までの凛々しさから一転して、無邪気な笑みでリンゴのシャーベットを食べるフレデリカ姉様。


「エルのは何味なの?」

「オレンジですよ」


そう答えつつ、程よく甘いオレンジのシャーベットを1口。


うん、材料が良いから、美味しいね。


「ねえ、そっち少し頂戴」

「ええ、いいですよ」


姉弟で仲良く半分こ……なんて、シチュエーションを今世で体験出来るとは思わなかった。


別に半分こにする必要はないのだが……まあ、シャーベットとかは食べ過ぎるとお腹壊すしね。


「うん!こっちも美味しい!」

「それは良かったです」

「エルは本当に天才ね!」


剣術以外では、こんな感じに無邪気になるので、何とも可愛い人だ。


この人が、普段の稽古で大人の騎士相手に無双してると言っても誰も信じないだろう。


俺への稽古以外にも、自分用に騎士団長や精鋭部隊との稽古もしてる姉様なのだが、1度覗いて見て格の違いに驚いたのは記憶に新しい。


いや、だって魔法で視力を上げないと目で動きが追えないんだもの。


しかも、稽古なのに真剣使ってるし……俺との稽古なんて姉様的には準備運動どころか遊びに等しそうな感じ。


でも、それでも、俺との稽古を楽しんでくれてるようなので、そこはまあ、少し嬉しいかも。


そんな感じに姉様とシャーベットを楽しんでいると、微笑ましそうな使用人さん達の視線を感じる。


うん、まあ、我ながら仲良し姉弟っぽいよね。


シスコンとブラコンの称号はそのうち受け取るとしよう。












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