第6話 お風呂

一日で一番幸せな時間は何か?


そう聞かれ時に俺はきっと2つまでは絞れる自信がある。


1つは、水を飲む時。


冷たい水を飲みすぎるとお腹を壊すから、冷たい水はある程度にして、少しだけ温くした水も飲むのだが、それはそれで美味しい。


オアシスの水が特に美味しいのだが、国の大切な生活資源でもあるものなので、そうガブガブとか飲めない。


そうなると、自身の魔法で水を生成することの方が多いのだが、オアシスに劣るとはいえ、流石はファンタジーの定番である魔法だ。


氷水なら、オアシスの水とは違った味わいを出せる魅力もあったりする。


そして、2つ目はお風呂だ。


そう――アレルギーが消えた今、今世はお風呂に入れるのだ!


これがどれほど俺に感動を与えたのか……おそらく、誰も知らないがその感動は言葉に出来ないほどのもの。


ゆったり湯船に浸かって、シャワーで汗を流して……あぁ、想像するだけで幸せになれる。


そして、風呂上がりの一杯!


牛乳とか、コーヒー牛乳、あとはフルーツジュースとかが鉄板かもだけど、その辺はこの世界での入手難度が高いので後回しだ。


牛乳は飲み飽きてるしね。


やっぱり万能は氷水ですよ!


あれされあれば、人は生きていけるね……うん、本気でそう思う。


風呂上がりの一杯とはなんと贅沢なものか。


そして、風呂とはなんと素敵なものなのだろうか。


そんな風呂なのだが、砂漠で水資源がオアシス便りのこの環境では、かなりの贅沢品だったりする。


まあ、そもそも、貴族でもないと入浴という習慣はなく、その貴族の入浴も体を清めることしか頭にない効率主義まっしぐらな邪道な入浴なので俺は推奨しない。


我が家にも一応、浴室はあったが、俺の5歳の誕生日に生まれて初めて父にオネダリをして頼んで俺専用の浴室を作って貰ったのが記憶に新しかったりする。


「ふんふんふ〜ん」


鼻歌混じりに、自分専用の浴室にて、浴槽にお湯を張る俺。


室内の風呂しか無いので、自立したら露天風呂作ってみたいかな。


無論、オアシスの水を使いたい気持ちはあるが、オアシスの水は大切なものだし、俺は自力で水を生成出来るのでそちらで我慢する。


「おや?またお風呂かい?」


ついでに、家族用のお風呂の水も張ろうと浴室を出ると、丁度通りかかったのか、マルクス兄様と出くわす。


相変わらずお忙しそうですね。


王位とは無関係な呑気な第2王子とは大違いだ。


まあ、でも、将来的には俺もマルクス兄様を支えていきたいかな。


放っておくと過労死しそうだしね。


これだけ大人びててもまだ12歳というのが不思議なものだが、この世界はきっとこういう人が多いのだろう。


俺?うーん……俺はまあ、反面教師かな?


「ええ、兄様はお仕事ですよね?お疲れ様です」

「今は休憩中だよ。それにしても、エルは本当にお風呂が好きだね」

「ええ、ゆったりするのに最適ですしね」


無論、長く浸かり過ぎればのぼせるし、逆に悪影響もあるだろうけど、お湯の中というのは本当に最高だ。


水にずっと触れられていられるという事実は、それだけ満たされる満足感がそこにある。


まだ俺には早いけど、好きな人とか出来れば一緒にお風呂で寛ぎたいものだ。


まあ、こんなんでも第2王子だし、多分政略結婚でどこかのご令嬢を貰うか、国元を離れて婿入りでもすることになるかもだけど、まだ6歳の俺はのんびりとしてればいいだろう。


「兄様もご一緒にどうですか?」

「そのうちね。まだ仕事が残ってるから、僕の代わりに――」

「エルー!お風呂入ろー!」


ダメ元で誘ってみると、やんわりと辞退された。


その代わりというか、タイミングよくフレデリカ姉様がやってきて俺をお風呂に誘う。


「姉様、訓練は終わりですか?」

「うん!エルこれからお風呂でしょ?一緒に入ろ!」


強引に俺の手を引いてお風呂場に向かうフレデリカ姉様。


それを見送るマルクス兄様は微笑ましそうにしていたが、少しだけ『ファイト』と、目線が告げていたのを俺は見逃さなかった。


向かう先は家族用の浴室……ではなく、俺専用の浴室の方。


俺専用と謳っていても、実際は女性陣が良く利用してるのを俺は知っている。


そして、遭遇すると100%一緒にお風呂に入れられることも。


まあ、家族の裸を見ても何とも思わないけど……もう少し大人になったらこういう扱いは遠慮して欲しいかもね。


そうして、その日はフレデリカ姉様とお風呂に入るが、思うに、1人風呂よりも、フレデリカ姉様か母様と一緒に入ることの方が多いかもしれない。


まあ、ひとりじゃないって、悪くはないけど……俺が好きな人と入れるのは何年先の話なのやら。












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