第5話 カレー
6歳児である、俺なのだが、ここ数年密かにとある料理を作ることに苦心していた。
そして、とうとう……
「ふふふ……出来たぞー!」
俺の異様なテンションに首を傾げる料理人達。
鍋から香るのは誰もが頬を緩ませる魅惑の香り……そう、カレーです!
前世において、カレー=インドというイメージの人がそこそこ多かったのは俺の気のせいではないはず。
とはいえ、俺はあまり口にする機会は少なかったが。
汗が出やす食べ物なんかは、出来るだけ避けてたし、自身の汗でさえ水アレルギーの症状が出ることから、辛いものや熱いものを自分から進んで食べることはしなかったのだ。
テレビなどで、大食いの人がカレーの合間合間に水を飲むのが羨ましくて、スパイスからカレーを作ることにしました!
……いや、勿論カレーも好きだからだよ?
決して、カレーの合間に飲む水が美味しそうという理由だけじゃないからね?
「殿下、これは何ですか?」
俺のお世話係のメイドさんであるメルが、カレーを見て首を傾げる。
そう、俺がスパイスから作ったのも、この世界にカレーが無かったからだ。
無駄に知識だけはあったから、暇つぶしがてら作ってみたが、スパイスからだと予想の何倍も難しくて、少し時間が掛かったのだ。
「カレーっていう料理だよ」
「不思議な香りですね」
「食べてみる?」
「……では、少しだけ」
小皿によそってあげると、メルは上品にカレーのスープを飲む。
少し辛口にしてみたので反応が楽しみだったのだが、メルは涼しい顔で微笑んだ。
「少し辛味がありますが、美味しいですね」
「なら良かった……」
あんまり辛くなかったのかな?
この身が6歳ということで、味覚が変わってるから大人と違く感じてるとか?
うーん、まあ、仕方ないか。
「エルー!って、いい匂い!」
料理長にも味見をして貰うつもりで声を掛けようとすると、厨房の入口から元気な声が聞こえてきた。
そこに居たのは、我が姉であるフレデリカ姉様。
本日もショートの黒髪が麗しい姉君だことで。
木刀持ってるし、稽古に誘いに来たのかな?
「フレデリカ姉様、こんにちは」
「何か作ったのー?」
「ええ、新しい料理ですよ」
「私も食べたい!」
「勿論ですよ、どうぞ」
予想通り興味を示したので、カレーをよそってあげると、フレデリカ姉様は口に入れてから、辛かったようで少し涙目になっていた。
「姉様、お水です」
俺から水を氷水を渡すと、勢いよく飲むフレデリカ姉様。
あー、そういう感じで飲むのも良さそうだなぁ、なんて思っていると、フレデリカ姉様は落ち着いたのか一息ついて言った。
「びっくりした……でも、結構美味しいわね!」
「なら良かったです」
「お母様達にも後で持ってきましょう!きっと喜ぶわ!」
スーッと、あっという間に居なくなるフレデリカ姉様。
凄いね、速すぎて本当に消えたように思えたよ。
身体強化系の魔法使ってなくて、日常レベルでこの速度って、人間という生き物の凄さを目の当たりにしてる気になるよ。
多分、姉様が別格なだけだろうけど。
「あれ?フレデリカが勢いよく出てきたと思ったら、エルが居るね」
そんなフレデリカ姉様と入れ替わりで、厨房に入ってきたのはマルクス兄様。
本日もイケメンな兄君でございます。
「おや?いい香りだね。何か作ったのかな?」
「カレーです、兄様」
「カレー?新しい料理かな?エルは多才だね」
「兄様程ではありませんよ」
「そうかな?僕はそうでもないよ。まあ、それはそれとして……僕も味見いいかな?」
「どうぞ」
兄様の反応も気になるので、当然よそってあげると、兄様はメル同様涼しい顔でスープを飲んで微笑んだ。
「うん、美味しいね。香草か何かを使ってるのかな?凄く深い味わいだね」
ちなみに、この後、父様と母様とリリアンヌ姉様も味見に来たのだが、リリアンヌ姉様はあまり辛いものは好まないようで、水を要求されることになった。
まあ、それでも美味しかったようだし、別で辛さ控えめを作れば食べれるかな?
父様や母様は涼しい顔で食べていたので、大人は普通に食べれるレベルなのかと思ったが、厨房の他の料理人や使用人はそこそこ辛かったようなので、父様達が別格なだけだと判明した。
ウチは辛党が多かったのだろうか?
まあ、俺としては「辛っ!」って言いながら水を飲んで口の中を冷やすのをやりたかっただけなので、これ以降は中辛付近に調節することにしたが、父様や母様、マルクス兄様は俺の作った辛さのカレーが美味しかったようで3人と俺とリリアンヌ姉様とフレデリカ姉様の3人は別々でカレーを作ることになるのだった。
その辺は、俺よりプロの料理人の方が凄いのでお任せすることにしたが、後に、出入りの商人を通じてウチの国からカレーが爆発的に広がって、俺にその恩恵としてお金が入るようになるのだが……動機が動機なので、あんまり自慢出来る気はしなかった。
ただ、牛乳とかヨーグルトの方が辛かった時に良いという意味はなんとなく分かった。
まあ、氷水をアレルギー反応なく飲めるだけ幸せなので、そんなことは言わないけどね。
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