第4話 小説

ジーッとした視線を後ろに感じながら、俺は1人執筆に勤しむ。


俺が書いているのは小説だ。


しかも、恋愛小説。


趣味の範囲ではあるが、絵本と小説は前世の時に書いてたのである程度心得はある。


書籍化もしたことがあるので、俺の数少ない特技の1つかもしれない。


とはいえ、世界が変わって文字も変わったので前世ほど速筆は難しくなったが、こうしてたまにリリアンヌ姉様の希望で書くことがあるのだ。


読書が好きなリリアンヌ姉様は、色んな本を読んでいるが、娯楽系の本が少ないこの世界なので、俺の書く物語を気に入ってくれたのだろう。


もうすぐ新作が出来るとお昼に言ったら、それからずっと俺の部屋で待機してるので、こうして見守られながら書いてる訳だ。


「リリ姉様、出来ました」

「……うん、ありがとうエル」


無表情ながらも、嬉しそうに受け取るリリアンヌ姉様。


ちなみに、リリ姉様というのは愛称だ。


長い名前だと、やっぱり愛称の方が楽だしね。


嬉しそうに俺の渡した原稿を読むリリアンヌ姉様。


ジャンル的には、俺は基本恋愛小説系を主軸にしているのだが、リリアンヌ姉様の好みとドンピシャだったらしい。


ちなみに、異世界物として、現代日本の話を書いた時にはマルクス兄様が食いついていた。


異世界ファンタジー風なこの世界からしたら、現在日本というのはある意味ファンタジーの世界なのだろう。


長編と短編とどっちも書くのだが、今回はリリアンヌ姉様がお気に入りのシリーズの最新作を書いてみた。


まあ、本当に趣味程度なので販売などはしてないが、何人かから売って欲しいとは言われてるそうだ。


王道な物語から、少し変わった物語まで、6歳児にしては色々と書いてきたが、こうして書いてると前世を思い出して微笑ましくもなる。


確かに苦しい前世ではあったが、全てが嫌だった訳ではないし、こうして物語を書いてる時は水アレルギーのことを少し忘れられて良かったとも思った。


創作というのは、やっぱり楽しいね。


人によっては、自分の創作を作るのは恥ずかしいのかもしれないが、俺はそれを形にするのが嫌いではないので今世でも趣味として楽しめてるのだろう。


パラパラと、俺の書いた新作を読むリリアンヌ姉様は、どことなく楽しげに見えた。


そんな様子を満足しながら眺めていると、読み終わったようでリリアンヌ姉様は瞳を輝かせて言った。


「……今回も素敵だった。特にリリアのピンチにベルが颯爽と現れるシーン」

「あそこは頑張りましたからね」

「……エル、続きは?」

「そうですね……そのうち書きますよ」

「……楽しみ」


俺自身に文才などがあるとは思わないが、伝えたい事が伝わるのが何より大切だろう。


楽しみにしてくれてるリリアンヌ姉様の為にもそのうち続きを書かないとね。


「……エルは将来小説家になるの?」

「うーん、仕事にはしたくないですね。あくまで趣味なので」

「……残念」


どうやら、リリアンヌ姉様的には仕事でもいい位に気に入ってくれてるようだ。


嬉しいけど、こういうのは趣味だからこそいいのであって、仕事にはしたくないのだ。


締め切りのプレッシャーや、読者の感想なんかを気にしてたら書けなくなるだろうし、好きなものを好きなように書くのが1番。


「……そういえば、あの話はどう?」

「えっと複製の件ですか?リリ姉様のお友達が欲しがってるんでしたっけ?」


何故かリリアンヌ姉様の友達が欲しがってるらしく、小説の複製を求めてきたのだ。


「……そう、皆エルの作品好きだって言ってる」

「うーん、構いませんけど、販売とかはしないで下さいね」

「……勿論。でも、売ったら絶対人気になると思う」

「まあ、それはそのうち気が向けばで」


世間の評価とかになって、酷評されたらへこみそうだし。


何より、締め切りにだけは追われたくない。


のんびり書くからこそ、楽しいのであって、決して仕事にはしたくないのだ。


まあ、お金に困って買ってくれる人が居るならいいかもだけど、現状そこまでお金に困ってる訳でもないしねぇ。


それに、元々はリリアンヌ姉様に読んで貰いたくて書いてるものなので、あまり事を大きくはしたくないと思ってしまっていたりする。


異世界にまで来て創作とは、俺も中々変わってるけど、娯楽物が前世より圧倒的に少ないこの世界で1番手っ取り早く作れるのは物語かもしれない。


まあ、あくまで俺の中の話だけど。


前世のようにインターネットなんてものは無いし、外で遊ぶか、チェスのようなゲームくらいしかないこの世界なので、こうして暇な時間に創作するのはそこそこ楽しいものだ。


そんな感じで、リリアンヌ姉様のために創作をしていたのだが……これが、後に何故か俺の知らぬ間に俺の作品のことが広まっていき、本気で書籍化が望まれるらしいのだが、無論この時の俺はそんな事は一切知らないし、本当にリリアンヌ姉様のためだけに書いていたので、知る由もないのだった。


それにしても、姉に恋愛小説を読んでもらう弟か……文字にすると凄いインパクトだよね。
















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