140字小説 5、6月
晴れ時々雨
第1話
歩いていると地面が波打って人魚が顔を出した。危うく踏むところだったので注意すると彼女は歌いながら謝った。やっぱり人魚って歌うんだ。でも今は歌われる気分じゃないから口に人差し指をあてた。アスファルトの海を頭だけ出した人魚は黙って泳いでいく。涙の粒もなんとなくアスファルトぽかった。
人魚の定義 6/22
夜は眠らない。傍らに眠る胸の喘鳴に耳を澄まし灯火を確かめる。風のない岬で揺らぐ灯台のランタン。草を踏みしめる南極鳥は抱卵をやめ歩いて海岸をめざす。僕らはまるで親を知らずに孵った。家が何故脆いのか炎はいつ消えるのかも知らずに繰り返す胸の膨らみを数え夜の止まらなさをみていた。
140字小説 嵐 6/22
一生日の目を見ることはないと諦めていた。昔はそれがやり切れなくていじけていた。しかし僕にも年季が入ってきたのだろう。膝の裏という僕は注目されることがないとわかるとそれを誇りに思うようになった。膝と違って滑らかなのだよ、僕はいつまでも。だが見つかってしまった。この男は僕を舐める。
6/13 140字小説 女の膝の裏
横たわるあなたの上で箱庭をつくる。すずらんの間ににょきにょきと花を揺らすナガミヒナゲシが可憐に庭を彩る。今年はもう少し土を足して小さい薔薇を植えようと思う。土中の根を増やして、あなたがこのまま起き上がらないように植物の鎖を借りて縛るの。死んでもいいよ。花は咲くから。
5/3 自慢の庭
死にさらばえていると、左足が持ち上がる感じがした。死んでるのに感じもへったくれもあったものではないから気の揺らぎと言うほうが近いかもしれない。
それはハイエナだった。さすがに目敏く、死肉を喰らうのは本当だった。ハイエナは私の大腿骨に齧りついて力ずくでもぎ取り、咥えて去って行った。
140字小説 命の循環 5/9
宿のそとのせせらぎを聞きながら、声を押し殺さなくてもいい、と思った。感じるままに喉を迸る声を川の水音がやんわりかき消す。聞かせたくないわけではなくて、ちゃんと届けたいと望みながら、半分だけ遮蔽する音に紛れて心がほどける。しかも雨じゃない。雨はいや。雨宿りはどこか言い訳めいていて。
5/11 140字小説 せせらぎの宿で雨宿り
何故たんぽぽはそこらじゅうに蔓延らないのだろう。あの種子の付き方を見たことがあるかね。一見花に見えるあの綿帽子が一本一本の綿毛で、更に種子で根元に繋がっている。しかも息で飛散する。それは容易く風に乗りすぐに目で追えなくなるほど遠くへ飛ぶ。なのにだ。綿毛たちの死体は如何ほどの物か。
5/5 140字小説 みたらふーする
140字小説 5、6月 晴れ時々雨 @rio11ruiagent
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