第46話 気を遣う
カイルらは、一緒に逃げ出した人達の元へ報告をしに行くことになった。
リッチ城に着くと、兵士達を含めて皆にこれまでの経緯が伝わるように話す。
「マネースキー王を捕らえました。王国審査会にて、話し合いが行われると思います。兵士の皆さんも、これ以上戦わなくて大丈夫です!」
周りの人達は驚いた様子であったり、喜んでいる者もいるなど様々な反応を示した。
とりあえず、争いは止まったみたいだ。
兵士達は、輪になって話をする。
話をするというよりも、合図を送っているみたいであった。
話を終えると、一列に並んで頭を下げる。
カイル達が状況を変えてくれたことに関する感謝の気持ちと、マネースキー王に仕えている立場から、頭を下げることが精一杯の反応だったようだ。
兵士達は居心地が悪かったのか、その場を離れていった。
これからは、乱暴な言葉や態度をとることはないだろう。
その後、逃げ出した人達が入れ替わりに近づいてきた。
「ありがとうございます。あなたが逃がしてくれたから、ここまで来ることが出来ました。」
まず、逃げる勇気をくれたタイロンに対して、お礼を言う。
「俺は、何もしていない。ただ、きっかけを与えたに過ぎない。」
「皆さんは、これからどうされるのですか?」
カイルは、先のことについて気になったので聞いてみた。
「まだ、決まっていませんが……嫌な思いをしたので、ここをすぐに離れる人もいれば、リッチ王国に残ろうとしている人もいるようです。」
今の時点で、リッチ王国に残る選択肢を持った人がいることに驚いた。
「皆さんの助けもあって、上手く行動に移すことが出来ました。リッチ王国に残ろうとしている方々が、今度は安心して滞在できることを願っています。そして、この場所を離れる人には僕達が旅を続ける中でまた再会することが出来れば良いなと思います。」
カイルも、感謝の気持ちを伝えた。
すると、ユイがタイロンの元に近づいてきた。
「どうした? 何かあったのか?」
タイロンが話しかける。
カイルとミーナも不思議そうにしている。
「お腹を見せてくれないかしら?」
「突然、何を言い出すんだ。」
タイロンは、驚いている。
急におかしなことを言われたのだ。
当然の反応だ。
「ユイさん、どうされたんですか? タイロンに何か気になることでもあったのですか?」
すかさず、カイルが間に入って話を聞く。
「彼、怪我しているわよ。さっきから無意識に手をあてているわ。きっと、痛さで我慢出来ないのだと思う。」
ユイの医者としての観察力の高さを目の当たりにした。
タイロンは、下を向いた。
気付かれてしまったといった様子であった。
「タイロン、ユイさんの話は本当なのですか?」
ミーナも心配をしている。
「あぁ、闘技場で兵士と対決をした時にちょっとな。だが、これくらい大したことない。」
タイロンは心配をされたくないのか、あまり話をしようとしない。
もう話を終わらせようとしている。
「先を急ぐ用事が無いのであれば、私が治療をしてあげるわ。」
タイロンの態度を見て、ユイが提案をする。
「俺なら大丈夫だ。心配しなくて良い。」
頑なに断るタイロン。
「私も報告しなければならないこともありますので、まだ先に進むことは出来ません。なので、タイロンもユイさんの治療を受けてください!」
「先を急ぐ用事はないから、タイロンも治すことを優先してよ!」
ミーナとカイルも理由を考えて、滞在することが出来るように説明をした。
「気を遣わせてしまってすまない……治療を頼む。」
気を遣わせてしまったという認識があるようだ。
2人の言葉を聞いて、ユイに治療をお願いした。
「分かったわ。治療をしましょう。」
ユイも了承した。
タイロンは、リッチ王国で治療をすることになった。
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