第38話 走り続けて

「入れ。案内する。」


 見張りの兵士の言葉で奥に進んでいく。

 銀色の鉄格子がいくつもあり、捕まっている者もいた。

 その者達の牢獄の前を横切っていくと、兵士が立ち止まる。


「ここだ。入れ。」


 押し込めるようにして2人を中に入れる。

 どうやら、カイルとタイロンは同じ牢屋のようだ。

 一通りの確認をした後、見張りの兵士は入り口まで戻っていった。


「そういえば、ミーナはどこに居るんだ?」


「実は、タイロンが対決をしている間に逃げてもらったんだ。王国の人達の態度が気になったからね……」


「そういうことだったのか。だから、居ないのか。」


「上手く逃げることが出来ていれば良いけど。僕達を助けに来るのは、難しいかもしれないね……」


 ミーナのことについて話し合っている2人。

 現状は、ミーナ頼みとなってしまった。


 その頃、ミーナは闘技場を後にして、顔を隠すようにしながら走っていた。

 とは言うものの、どこに向かえば良いのかが分からなかった。

 人目につかないような場所を探しながら、なんとか逃げている状況であった。


「そろそろ、タイロンの対決が終わった頃でしょうか? 兵士に勝利することが出来ていれば良いですけど……」


 走り続けているからか、ミーナも疲れているようだ。

 いつ来るかも分からない、兵士にも神経を集中させている。

 少しだけ、休もうと座り込んだ。


「あの……」


 突然、ミーナが話しかけられた。

 もしかして、兵士に見つかってしまったのだろうか。

 そんなことが、頭によぎった。

 ゆっくりと、後ろを振り返ってみる。


「あの、大丈夫かしら? 体調が優れないように見えたのだけど……」


 どうやら、兵士ではないようだ。

 もし、兵士であるのであれば、体調を気にかけることはないだろう。


「お気遣いありがとうございます。大丈夫です。走り続けて、少し疲れてしまっただけですから。」


 リッチ王国にも、優しい人が居るのだなと感じた。

 思わず、自分の状態を伝える。


「少し良いかしら?」


 女性は話すと、ミーナの腕を触ってきた。

 当然、ミーナは驚いて腕を振り払う。


「突然、何をするんですか? やめていただけませんか!」


 ミーナは、怒った態度を見せる。

 女性も慌てた様子で、話しかける。


「ごめんなさい! 急にそんなことをされたら、誰だって嫌よね。これでも私は、医者なの。少しでも役に立てるかなと思ったのだけど……」


 女性の態度から悪気はなかったと分かった。

 そして、ミーナは冷静になった。


「こちらこそ、理由も聞かずに怒ってしまい申し訳ありませんでした。」


 どうやら、誤解も解けたみたいで良かった。

 女性もほっとした表情を見せた。


「大丈夫そうで良かったわ。でも、無理をしては駄目よ。」


 女性の優しさが伝わった。

 ミーナのことを心配してくれた。


「はい、分かりました。あの、医者であると話されていましたけど、もしかしてホープ村の方ですか?」


「そうよ。どうして知っているの?」


「ここに来るまでに、訪れたのです。医療が進んでいる村だと村長さんに伺って……もしかしたらと思ったのです。」


「なるほど、それで分かったのね。それより、あなたの顔を見たことがある気がするのだけれど、どこかで会ったことがあるかしら?」


 ミーナはアルメスク王国の王女であるため、知っていてもおかしくはない。

 この女性は、悪い人というわけではなさそうなので話してみる。


「私は、アルメスク王国のミーナです。」


 女性は驚いた様子だ。

 そして、あたふたしながらも話をする。


「無礼な態度をとってしまい、申し訳ありませんでした! ユイと申します。」


「そこまで丁寧に話さなくても大丈夫ですよ。それより、あなたがユイさんですか……やっと、会えましたね!」


「私のことをご存知なのですか?」


 丁寧に話さなくて良いと言われても、すぐには無理だった。

 だが、ミーナに言われた通り少しずつでも、話し方を元に戻そうとする。


 ユイを知っている理由について話す。

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