第6話 1人目

「ちょっと待ってくれ。いったい何の話をしているんだ?」


「カイルは、これから王国に行く用があってな。盗まれた剣を返しに行くそうじゃ。」


「剣? それがどうして、俺が一緒に行くことと繋がるんだ?」


 タイロンは村長に詰め寄った。

 訳もわからずに、こんな事を言われたのだから当然だ。

 村長は、諭すようにタイロンに話す。


「お前の本質を、カイルが見抜いたのが理由の一つじゃ。繊細さ、これに気付いた者はそうはおらん。お前の良さは、力だけでは無いんじゃよ」


「そんなことを急に言われても。俺は、村長や村の為に何も出来ていない。今でもあんたの期待に応えることで、恩を返したいと思っている!」


「わしの為……というのであれば、わしの親友のダグラスの願いを叶えることも結果として、わしの為になるのではないかの?」


 タイロンは、戸惑った様子だ。

 自分の気持ちを整理する時間を作るため、カイルにも話をする。


「カイル、お前はどう思っているんだ?」


「僕は、タイロンが仲間になってくれると心強い。でも、僕が無理に決めることではないと思うよ……」


 すると、タイロンは覚悟を決めて話す。


「俺は、今まで誰とも組んでこなかった。周りの人に避けられていたというのもあるかもしれないが、俺自身が敬遠していたからだ! でも、お前は俺と会った時に恐れなかった。今も、必要としてくれた……だから、俺が決める! お前の仲間にしてくれ!」


 タイロンの決意を聞いた後、カイルは笑顔で言葉を返す。


「もちろんだよ! よろしく、タイロン!」


 カイルに、初めての仲間が出来た。

 早速、これからの動きについて話し合うこととなった。


「村長さんは、これからどうしたら良いと思いますか?」


「王国に行くという明確な目的を持った上で、様々な場所に寄ってみてはどうかの? 新たな出会いや役立つ情報も入ってくるかもしれないしな。」


 カイルは、村長の意見を聞いてタイロンに尋ねる。


「どうする?」


「俺は、カイルの考えに従う。お前と居ることで、きっと多くの経験が出来ると思うからな。」


「じゃあ、王国に行くまでに通ることになるであろう村や街を訪れてみようか。」


「決まったようじゃな。今日はここで休んでいきなさい。」


 村長の家に泊まらせてもらうことになった。

 次の日の朝、タイロンは旅の支度を始める。

 タイロンは、カイルと出会った時に持っていた斧を持っていくようだ。


 村長が別れの言葉を伝える。

 タイロンに対して、少しの間沈黙が続いた。

 沈黙を破ったのは、タイロンだった。


「世話になった。まだ、恩を返せたとは思ってないが、俺の決意を尊重してくれて……ありがとう。」


「気を付けてな、頑張るんじゃよ。」


 タイロンは村長に別れの言葉を告げて、素直な気持ちを伝えることが出来た。

 その時、昨日と同じように木々が見える方向から煙が上がるのが見えた。

 そして、何人かの村人がカイル達の方へ走ってきた。


「タイロン、お前が村を出ることを昨日村長から聞いたぞ。」


「あぁ、そうだ。」


「みんなで話し合った結果、タイロンが行っていた作業をこれからは村の者達で協力して行うことにした。」


「わざわざ、俺に伝えに来たのか?」


「朝から少し作業をしただけだが、タイロンの凄さが分かった。任せてばかりですまなかった。」


「俺が任されていた作業だったから、気にしなくて良かったんだが。これからは村のみんなに任せる。」


 タイロンの言葉を聞いて、村の人達は頷いた。


 協力して作業をするという事は、少なくとも一人での作業では無くなったことにも繋がるのだが、煙を出してた理由をタイロンは聞かなかった。

 それは今まで作業を続けてきたタイロンを讃えるものと、タイロンが出発した時に遠くからでも煙が見えるようにエールを送り続けるという点からであった。


 二人はイカチ村を後にした。

 煙は高く高く上がり、二人の旅立ちを歓迎するかのように、ゆらゆらと揺れていた。

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