第5話 繊細

 イカチ村の村長の話を聞いて、煙が上がってる近くで作業をしているという村人の様子が気になって見に来たカイル。

 木々がある方に向かうにつれて、煙が近くなっているのが分かった。

 開けた場所までたどり着くと、一人の男が作業をしていた。


「お前は誰だ? 村の人間じゃないよな?」


 男はカイルと少し離れた距離にいたのだが、カイルの存在に気づくと、持っていた斧を構えていつでも攻撃が出来るような体勢をとっていた。


「僕はカイル。ここの村の村長さんに用があって、近くの村からイカチ村に寄ったんだ。そしたら、煙が上がってるのが見えて、気になってここまで来てみたんだけど、迷惑だったかな?」


「いや、迷惑というわけではない。ただ、見たこともない人物がいて驚いただけだ。こちらこそ、怖い思いをさせてすまない。俺はタイロンだ。」


タイロンと名乗った男は、意外にも律儀にカイルに謝ると、構えていた斧を近くに置いてカイルの方へゆっくり歩いてきた。


「僕の方こそ、ごめんね。タイロンはここで何をしていたの?」


「この辺りある木を切り倒して、枯れ葉などを燃やしていた所だ。燃やしていたのは村の人達が俺がここで作業をしているのを確認してもらえるようにやっている。俺は一人で作業をしているから、何かトラブルがあったときに対処できないかもしれない。だがら、異変に気づいた人達がこの場所に来てくれるように作業をしている間は燃やしている。もちろん、火が他の木々に燃え移ることのないように気を付けて作業をしている。」


「そうだったんだね。」


 カイルは問題が起きたときに、狼煙みたいに上げれば良いのではとも思ったが、タイロンは一人で作業している為、狼煙を上げれない可能性も考えた。

 それにタイロンが言うには、作業を終えて村に変える際には、火の後始末はきちんとしているとのことだった。


「俺には、力しか取り柄がないんだ。イカチ村を出て、違う場所に行こうとも考えたが、それでも村長がこの仕事を紹介してくれたんだ」


「そうだったんだね。一つでも誇れるものがあるのは凄いよ! タイロンは偉いな。僕にも何か手伝えることがあるかな?」


「それなら、この木材を村まで運ぶのを手伝ってくれないか?」


 タイロンは、積まれた木材を軽々と担ぎ上げると、指示を出した。

 カイルは木材を引きずりながら、イカチ村の方へと歩きだした。

 

 とても重たく、本来であれば一人で持って歩くことすら難しいのに、平然と持ち上げて運んでいるタイロンの姿を見て、カイルは驚いた。


 イカチ村の入り口まで戻ってくると、タイロンが待っていた。


「待っててくれたの?」


「あぁ、そこの更地に置いておいてくれ。今は、そこが資材置き場になっている。」


「わかったよ。」


 置かれていた木材の近くに並べた。

 タイロンの運んできた木材は、目立った傷はついておらず、綺麗な状態で保っていた。

 

「これからどうするの?」


「村長に、今日の作業の報告をしに行く。」


「僕も行ってもいいかな? 実は、タイロンに会うのを勧めてくれたのも村長さんなんだよ。タイロンと会えたことを伝えたいんだ。」


「わかった。」


 二人は、村長の家を訪ねた。ドアが開くと、村長が中から出てきた。村長は二人を家に招いた。


「村長、切り倒し作業と運搬は予定どおり終了した。」


「そうか、ご苦労…… それで、二人は知り合ったのか?」


「あぁ、カイルが俺の所にやって来た。なかなか、面白い奴だ。」


 タイロンの言葉を聞くと、村長はカイルにも質問をした。


「お前さんは、タイロンのことをどう思った?」


「繊細な人だな……と思います。タイロンから力が自慢だというのを聞いて、大雑把な面もあるのかとも思いましたが、運んできた木材に傷をつけないように気を配ったり、初対面の僕に対しても、親切でした。」


 村長は、黙って何度も頷いた。

 そして、カイルに伝えた。


「実はな、ダグラスからの手紙には、仲間のことについて書かれておってな……」


「仲間ですか?」


「これから先、一人で進んでいくのは難しいじゃろうから、志が同じ者や、お前さんに力を貸してくれる者を見つける必要があると書いてあっての。わしは、タイロンが良いと思うんじゃが……」


 カイルとタイロンは、顔を見合わせて驚いた表情を見せた。

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