第35話 ヤマカワ死す。デュエルスタート! 中編
「黙れヤマカワあああああああああっ!」
俺はヤマカワまでの距離を一気に詰めて、ミスリルソードを振りかぶった。
「同郷のよしみだ、せめて苦しませずに終わらせてやる!」
そしてミスリルソードを振り落とした時、ガキンと金属音が鳴った。
「太公……望っ!」
「ヤマカワ様には触れさせません。我が――方天画戟(ほうてんがげき)の一撃を受けてみなさい!」
確かこれは、三国志演義で呂布が使ってたとされる矛だな。
そのまま太公望は俺に矛を振り落してきたので、ミスリルソードで受ける。
ガキン、ガキン、ガキン。
撃ち合うごとに火花が散り、手のしびれをビリビリと感じる。
しかし……俺がギリギリで反応できるほどの、目にも止まらぬ速度だと!?
ナターシャが俺と同格と言った理由が良くわかるし、事実そのとおりだ。
そして、不味いのが……ミスリルソードの刃がガリガリと刃が削られていっていることだ。
「力量は微かに貴方の方が上かもしれませんが――我が方天画戟には貴方の得物は釣り合わないようですね?」
まあ、そっちはこの世界で間違いなく最強クラスの武器を使ってるからな。
このまま撃ち合いを続けて長期戦化すると、ミスリルソードが折れてしまうことは間違いない。
けれど、俺の方が微かにスピードもパワーもあるみたいだし、剣が折れる前に何とか……なりそうかな?
と、そこで後ろからエリスの悲鳴が聞こえてきた。
「おいおいマジかよ? そりゃあ不味いぞ?」
見ると、そこには3体の黒い影が立っていた。
で、不味いことに黒い影はエリスとアカネとナターシャに襲い掛かっていたんだ。
「闘仙術:闘気体――早い話が私の影です」
そうしてナターシャたちも応戦し、影との交戦が始まった。
動きを少し見ただけで分かるが……向こうはどうやら劣勢も良いところのようだ。
まともにやれてるのはナターシャだけで、エリスもアカネもボコボコにされている。
そして、すぐにエリスが再度の悲鳴と共に、影に殴り飛ばされてその場に倒れこんだ。
ナターシャが助けに入ろうとするが、自分で手一杯の様子で対応できていない。
そうして影がエリスの頭を潰すべく大きく足を振り上げて――
――まずい、このままではエリスが殺される!
「よそ見をしている暇はないと思いますが?」
方天画戟(ほうてんがげき)の重たい一撃を、何とかミスリルソードで受ける。
くっそ……俺もすぐに助けに入りたいが、太公望を振り切って救援はできなさそうだ。
「クソ……クソっ……!」
まさかの展開だ。
こんな極端な……ストレスフリー異世界転移お約束世界で、こんな展開が来るなんて……っ!
で、俺は横目でチラリとエリスの様子を伺った。
うっし! 福次郎ナイス!
見ると、福次郎夫妻が、影に頭を潰されそうになっていたエリスを横から空中に攫っていったんだ。
が、すぐに影が発動させた風魔法で……エリスと福次郎は地面に叩き落された。
ああ、ダメだ! このままじゃエリス達はすぐに殺されちまう!
そもそもアカネもクソやべえ状況だ!
どうすりゃいい!?
どうすりゃエリスたちを救うことができる!?
と、そこで俺の頭の中で声が響き渡った。
――スキル:老師が発動しました。
――本当にお困りのようなのですので、提案に参りました。
そういえばこのスキルって元々は本当に困った時に発動するんだっけ。
いや……今まであんまり困ってない時にも出てきてた気もするけどな。
で、どうなんだ? この状況を何とかできんのか?
――回答:親愛度ボーナスの使用を推奨します
親愛度ボーナス?
それって……ひょっとして……。
――回答:当該システムは男性はヤればヤるほど強くなります
――度重なる夜の営みにより、プレイヤー:サトルの未使用親愛度ボーナスを一定量確認しています。
――条件達成につき、プレイヤー:サトルを覚醒させますか?
「覚醒!? それ、俺にもできるの!?」
――ただし、覚醒の副作用としてプレイヤー:サトルの寿命が縮みます。
くっそ、少年漫画とかで良くある、力と引き換えに魂よこせみたいなアレかっ!
ヤマカワも寿命と引き換えに力を使ったとか言ってたし……だが、ここで迷うようなことは何一つない!
「応えはイエスだ! 命をかけて嫁を守るのが男ってもんだっ!」
そう答えると、俺の体が突然輝きだした。
で、何か良く分からんが――
―― み な ぎ っ て き た あああああああっ!
「おおおおおおお!?」
エリスとアカネも覚醒の時は叫んでたが、その気持ちが良くわかる。
体中の細胞が歓喜し、力に満ち溢れ、そして活性化していく。
最高にハイな気分で、叫ばずにはいられない!
と、そこで、俺の頭の中で老師の声が響き渡った。
――プレイヤー:サトルは覚醒しました
――なお、覚醒の代償としてプレイヤー:サトルの寿命が一日縮みました
代償の寿命……えらい短いな!?
ってか、やっぱりこの世界ってそういうノリじゃねえかっ!
てっきり、シリアス展開になるかと思って損したぜっ!
――覚醒の恩恵としてスキル:アーマーブレイクを覚えました
ん? アーマーブレイク?
なんだか良く分からんが、とにもかくにも今はエリスを助けるんだ!
「行かせませんっ!」
太公望が俺の眼前に立ちはだかるが、方天画戟(ほうてんがげき)の一撃をひらりとかわし、俺は地面を思いっきり蹴って、エリスへと向けて跳躍した。
「そんな……っ!? 突然……スピードが上がったですって!?」
そんな声を背中に受けて、俺は地面に転がっているエリスと福次郎に襲い掛かろうとしてた影に向けて――ミスリルソードを一閃。
「さすがです! 私の旦那様!」
真っ二つになってドサリと倒れた影を横目に、今度はアカネのところに跳躍する。
これも大上段から切り落として、真っ二つにする。
「サトル殿――お見事っ!」
で……ナターシャは一人で任せて大丈夫そうだな。最初は互角だったが、今は優勢のようだ。
そうして俺は太公望に向けて剣を構えて、ゆっくりと歩み寄る。
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