第34話 ヤマカワ死す。デュエルスタート! 前編
そして翌朝――。
俺は普段は嫁全員と一緒に寝ている。
で、キングサイズのベッドには今日はナターシャもいるわけだ。
そうしてみんなでスヤスヤと幸せに寝ていると、ナターシャが物凄い剣幕でガバっと起きた。
そんでもって、服を着るや否やドアを蹴破らんばかりの勢いで外に出ていったんだよな。
何事だとばかりに、俺たちは慌てて服を着てナターシャの後を追いかけたんだけど……。
はたして、ナターシャは人間の国の大臣たちが宿泊している離れの家に向かったんだ。
そうしてナターシャは全員を応接室に集めたわけなんだけど――
「キミたち、どういうつもりなんだい?」
「どういうつもりとは?」
大臣の問いかけにナターシャは舌打ちと共に応じる。
「森の南端に人間の軍隊が来ているんだ」
その言葉で俺たちだけじゃなく、大臣たちの間にも動揺が走った。
「そんな馬鹿な! 我が国は森の民とは敵対するつもりはありませんぞ?」
「いいや、事実だ。ボクはこの森に敵意を持った存在を察知する能力があるからね。そしてその数――1万以上」
「我が国の……全軍では……ありませんか……それは本当に事実ですか?」
大きく目を見開いた大臣に「ふむ……」とナターシャは表情を和らげた。
「まあ、それもそうか。これが計画的な行軍なら、国の重鎮が人質に取られるような馬鹿な真似はしないだろう」
そうしてナターシャは瞼を閉じて、再度の舌打ちを行った。
「……不味いね」
「何が不味いんだナターシャ?」
「1万の軍隊……その先陣には太公望がいる」
☆★☆★☆★
と、まあそんなこんなで俺たちは森の中を走っていた。
メンバーは、俺、エリス、アカネ、そしてナターシャの四人だ。
それと、福次郎も夫婦で参戦してくれるらしい。
いや、本当に福次郎は俺のことが大好きみたいで、常に一緒にいないとダメみたいな感じで可愛いよな。
フクロウ愛好家の気持ちが、今なら本当に分かる。
こんなに可愛い生き物は中々いねえわ。いや、俺の中で犬や猫と並んだね。
と、それはさておき、実質的に森の同盟の決戦兵器級の戦力はここに全て揃っているわけだ。
この4人プラスに福次郎夫妻なら1万人程度の雑兵は余裕で蹴散らせるらしいんだが――
が、ナターシャ曰く……楽観視はできないらしい。
――そう、向こうには太公望がいる
と、そこまで考えて俺はちょっと笑いそうになった。
なんせ、太公望と言えばおっぱい丸出しだからな。
若干のシリアスな気分をその見た目で完全にぶち壊してくれるのは、ゲームでもリアルでも全く同じだ。
しかし……太公望と言えば本当に綺麗なんだよな。
何て言うか、可愛いと美人の良いところ取りみたいな感じ。
整えられた濃い眉毛は凛々しく、白を基調としたチャイナドレスも品の良い仕立てだったし。
目力も凄くて、見つめられるだけでドキッとしてしまうような……。いつもキリっとした表情で、凛とした冴えわたった美しさがある、そんな彼女。
――でも、おっぱい丸出し
再度、笑いそうになってしまったが、いかんいかん。
今はマジにならんといけない状況らしいしな。
――良し、気持ちを切り替えていこう!
そうして、俺たちは以前にオーガキングを大量に討伐した森の草原に辿り着いた。
思えば、ここでアカネと出会って野営して……昼間っから結婚初夜を過ごしたんだっけ。
で、そんな思い出の地には、見渡すばかりの大軍勢が並んでいて、壮観な光景となっていた。
そして、俺たち4人と相対する向こう側から、男女が二人でこちらに歩いてきたんだ。
「おっさん、久しぶりだな」
「……ヤマカワ? お前は死刑になったんじゃないのか?」
「へへ、確かに縛り首になりかけたが、そんなもんはヨユーで回避した」
「お前の隣の女は……まさか……」
と、そこでヤマカワは下卑た笑みを浮かべたんだ。
「そうだ。この女こそが俺の真の最終兵器……泣く子も黙る太公望だっ!」
「しかし、太公望は……いや、仙人は全ての勢力に中立のはずじゃねーのか?」
「邪仙化だよ。なあ、太公望?」
コクリと太公望は小さく頷いた。
見ると、本来は目力が強いはずのその瞳は色を失い、俗にいうレイプ目というものになっていた。
ああ、こりゃあ正気を失っている感じだな……と、俺が思ったと同時に、ナターシャが「はっ」と息を呑んだ。
「妲己の腕輪だね?」
「ああ、そういうことだな」
「ナターシャ、妲己の腕輪ってのは何なんだ?」
「超古代……新魔戦争のアーティファクトだよ。どこかにあるとはボクも聞いていたが……まあ、要するに仙人の気を狂わせて、操ってしまう呪いのアーティファクトだよ」
その言葉を聞いて、ヤマカワは満足げに頷いた。
「そういうことだ。で、そのアーティファクトとやらは昔から王城の宝物庫にあったんだよな。俺としては……あの王様の一族もロクなもんじゃねえと思うぞ?」
なるほど。
強大な力を持つ太公望は、遥か昔からあの国の霊峰に住んでいるわけだ。
恐らくは王様の祖先が……時が来れば太公望を兵器として操ろうとしていて……妲己の腕輪を仕入れて保管していたということか。
で、それをヤマカワが横取りをしたというわけだな。
と、そこで俺は太公望に目を向けて……やっぱり笑いそうになった。
何だかシリアスな展開みたいだけど、どうしてもオッパイ丸出しなのが非常に気になってしまう。
「しかし、俺の言いなりになってる女の……このダイナマイトボディに手を出せないってのは本当にキツいな」
太公望の丸出しオッパイを眺めながら、自身の股間を抑えながらヤマカワはそう言った。
しかし、太公望も操られてるだけなんだよな。何とかならんのか?
と、そこで俺は、ああ、そういえばゲームでも似たようなイベントがあったな……とポンと掌を叩いた。
確か、その時は別の方法での洗脳だった。
それで、主人公たちがアイテムを集めて何とかしたんだよな。
で、そのイベントで、助けられた太公望は「異世界の勇者が危険な存在ではない」って、考えを改め始めたんだっけ。
まあ、ツンデレがデレる、分かりやすいターニングポイントってやつだな。
で、その時の解決方法は……確かエロいことをして恥ずかしがらせたら正気に戻るとかそんな感じだったっけ。
具体的に言うと、まずは太公望の動きを止めるアイテムを使って、その動きを止める。
そして、動けない太公望を縄で縛って木に吊るんだ。
そんでもって、卑猥な形の棒でお尻ペンペンタイムを施したら、恥ずかしがって正気に戻ったとか……そんな解決法だったような……。
うん、完全に色々と狂ってるシナリオだ。
普通はそんなことをされたら「異世界の勇者は危険な存在そのものでしかない」と思うはずだが……何故か、太公望は主人公たちを見なおして一目置いてしまうんだ。
まあ、そこにツッコミを入れても仕方ない。
――エロゲだからな
いや、馬鹿ゲーか。と、そんなことを考えていると、ナターシャが懐から魔法の短杖を取り出した。
「――術者を倒してしまえばそこで終わりだよ! 超大炎熱(バースト・バースト)!」
物凄い大きな炎の弾がヤマカワに向かっていく。
「――術者を倒してしまえばそこで終わりだよ! 超大炎熱(バースト・バースト)!」
物凄い大きな炎の弾がヤマカワに向かっていく。
が、ヤマカワは余裕の表情で指をパチリと鳴らし、太公望がコクリと頷いた。
「――八卦結界・極」
八卦模様の魔方陣がヤマカワの前に現れ、炎と接着した瞬間にナターシャの魔法が見る間にかき消されていく。
そこで驚いたのは、エリスとアカネだ。
「ナターシャ様の極大魔法を……かき消した!?」
「流石は、ナターシャ様をしてサトル殿と同格と評されることだけはある。太公望……何という強大な力なのだ」
で、そんな二人を見てヤマカワは「くっくっく……」と笑い始めた。
「おい、おっさん? これから起きる悲劇は全部テメエのせいだかんな?」
「俺のせい?」
「俺は王城から抜け出るのと妲己の腕輪を仕入れるのに命削ってんだよ。わんさか凶悪な魔物を呼び出して、その代償として寿命が20年縮んだらしいんだ」
「……それで?」
「だから、お前が守ってる森の住民をめっちゃくちゃにしてやる。女は犯して男は皆殺しだ。で、俺にそこまでのことをさせるのは、全部テメエのせいだからそこんとこヨロシクな」
「……本当にゲス野郎だな」
「ああ、あとな、お前はとことんまで延命させながら拷問してやるからな。で、テメエの目の前でテメエの女を犯しながら、俺のクソをテメエの女に食わせてやる」
もはや、問答の必要はない。
っていうか、さすがに俺もブチギレだ。
俺の嫁に手を出すだと? そんなこと……許すわけねえだろうがっ!
お前の息の根は……この場で確実に止めてやる!
「黙れヤマカワあああああああああっ!」
俺はヤマカワまでの距離を一気に詰めて、ミスリルソードを振りかぶった。
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