第33話 王国の人が詫びにきました





 猫耳族の里でナターシャと昼間っからイチャイチャしていると、ヤマカワの所属している人間の国からの使者が来た。


「む、使者と言うことならば服を着なければいけないね」


 そうしてナターシャが下着を履いた瞬間にモッコリしたので、「ははは……」と俺は苦笑する。


『大きさ調整できるなら、普段からショタサイズくらいにしたらどうよ?』


 と、一度提案したことがあるんだけど、そこは頑なにダメだと言われた。


『どうしてダメなの?』


『ボクは森の王だからね。威厳は大事というわけさ』


『……威厳?』


『ああ、見た目は大事だからね』


 何一つ理屈は分からなかったが、とにかく謎の説得力は凄かった。


 ちなみにナターシャは下着丸出しを辞めて、ピチピチのショートパンツを履くようになった。


 何でピチピチかっていうと……まあ、そこも威厳のためだろう。


 と、それはさておき、族長の応接室にはエリスとアカネ。

 で、人間の国の使者が10人くらいで……全員土下座してたんだよな。


 何事だ!? と、思ったので俺はエリスに尋ねてみた。


「どういうことなんだ?」


「それが、この里の責任者に許しを請うまでは土下座のままにさせてくれって言って聞かないんですよ」


 で、仕方ないので俺は使者たちに直接聞いてみることにした。


「俺が責任者です。しかし、土下座なんて……一体全体どういうことなんですか?」

 



「ま、ま、まっ……誠に申し訳ございませんでしたあああああああーーー!」




 と、服装が一番豪華なリーダーっぽい人が、そう絶叫したわけだ。


「いや、頭を上げてくださいよ。いきなり土下座って……」


 そうして、リーダーっぽい人の隣にいた人が、地面に頭をこすりつけた。


「私がヤマカワの教育係の魔法師団長です! この度は森の皆様方には大変なご迷惑を……」


 ああ、そういうことね。


 とりあえず詫びに来たってことなんだろうけど……。



「ともかく、我が国の外交大臣としては森の皆様方には正式なお詫びと賠償を……っ!」



 あ、一番偉い感じの人は大臣さんだったんだ。


 しかし、大臣さんも大変だよな。


 どこの馬とも知れない異世界からの勇者の行動に責任を持たないといけないなんて……。


 でも、ヤマカワ個人が悪いわけであって、そこまでこの人たちは悪くないんじゃないのかなと思ったりもする。

 そりゃあ監督責任とかもあるんだろうけど。


 そもそも元々は、ヤマカワは自国民ですらないからな。

 魔王討伐とかいうワケ分かんない仕事の一環でやってるわけで、それは王国としても全世界を救うためにやってるわけで。


 と、それはさておき、俺は使者たちにこう言った。


「とにかく頭を上げてください。話がしにくいです」


 そう促すと全員が頭を上げたんだけど、魔法師団長は俺の顔を見て呆けた表情を作ったんだ。


「……君は?」


「ご無沙汰しています、師団長」


「むむ……? ヤマカワたちの報告によると魔物に追われて森の奥に一人で逃げて行方不明ということだったが……どうして里の責任者になっているんだ?」


「まあ、色々ありましてね。ナターシャと結婚して、猫耳族と鬼人族の責任者……今はそうなっています」


「色々って……」


 そこで、何かに気づいたように師団長は「はっ!」と息を呑んだ。


「ひょっとして、君が行方不明になった理由……ヤマカワたちに何かされたんじゃないのかい?」


「まあ、そんなとこです」


「ははは……」と笑うと、魔法師団長は再度「申し訳ない」と頭を地面に擦り付けた。


「いや、だから辞めてくださいって」


「そういうわけには……」


 と、その時、横にいたエリスがニコニコ笑顔で口をはさんで来たんだ。


「そうですよ。そんなことをする必要はありません」


 そうしてエリスは更にニッコリと笑ってこう言葉をつづけた。



「幸いなことに負傷者は出ていません。賠償金はオリハルコン通貨1000枚(日本円で10億)。それで全て水に流しましょう」



「おいおい……エリス」


 さすがにボリ過ぎだろうと、口を出そうとしたんだが、エリスは「はてな?」と小首を傾げた。


「アーカムフェアリーの女王が拉致監禁されていますからね。これくらいは当然です。あの子たちにはオリハルコン通貨900枚を後で届けることにしましょう。残り100枚は私たちへの詫びということで」


 まあ、言われてみればそりゃあそうか。


 でも、ヤマカワが支払うべきであって、この人たちに支払わせるのは……いや、でもやっぱ監督責任もあるしな。


 相手も賠償金は払うと最初に言ってたし、そういうもんなんだろう。


 そうしてエリスは更にニコニコとして言葉をつづけた。


「ささ、皆様方。早く顔をお上げになってください。ああそうだ、お食事の用意もさせてくださいませ。おもてなしをしますわ」


「いや、おもてなしなど……とんでもないことです」


「そういうわけにはいきません。食事でもしながら各種交易の懲罰的条件を決定しなければなりませんので」


 










 と、そんなこんなで――。


 色々と無茶な条件を飲ませたところで、最終的な手打ちになった。


 普段は大人しくて優しいエリスだが、どうやらその優しさは俺にだけ無条件に与えられる性質のもののようだ。


 っていうか、普通に商売が上手いってことなんだろうな。


 アイスクリーム屋で、アカネの定食屋よりも利益出してるくらいだし。


 

 で、契約書類にサインをした瞬間に、本当に全てが水に流された。


 人間の国の使者たちは本当にもてなされて、里を挙げての盛大な大宴会となったのだった。


 まあ、宴会の原資は人間の国からの賠償金なんだけどな。

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