第31話 ヤマカワ、棒の次は玉を潰される

 で、何故かエリスとアカネが「ふふん」とばかりに誇らしげに胸を張っている。


「だ、だ、だがな! 俺には最後の切り札があるんだ!」


「ん? まだ何かあるのか?」


「驚くなよ!? この森で最強の先生を……俺は味方につけているんだ」


 そう言うとヤマカワは森の奥に向けて、大きな声でこう叫んだ。



「お願いします! 先生! 今こそ森の平和を守る時です! 悪鬼を討ち取ってください!」



 で――。


 森の奥から「面倒くさい……」との呟きと共にナターシャがやってきた。


「あ、サトルだ! やっほー!」


 俺の顔を見てウキウキ気分になったナターシャに俺も「やっほー」と挨拶を返す。


 で、ナターシャがヤマカワのところまで歩いてきたわけだ。



「それで森を荒らす魔物ってのはどこにいるの? ボクは忙しいんだけど」


「それはコイツです! やっちゃってください、先生!」


 ヤマカワは俺を指さしてそう言ってるわけだけど……。


 ああ、そういえば最近、ナターシャは人間と防衛関係の会議してるとか言ってたよな。


 ひょっとしなくても……その会議って……このことなんだろうな。


「何を馬鹿なことを言っているんだキミは。この男はボクの旦那で、森を守る守護神だよ?」


 その言葉を受けて、ヤマカワは小首を傾げてこう言った。


「え?」


「え? だから、この人はボクの旦那様だよ」


「えーっと……先生? それってどういうことでしょうか?」


「ん? 良く分からないが……逆に聞きたいんだけど、どういうことなんだい?」


 お互いに「はてな?」と小首をかしげている。


「つまりだなナターシャ……言いにくいことなんだが」


「ん? どうにもサトルは状況を理解しているようだね。ボクに説明してほしい」


 そうして、かくかくしかじか……と、事情の説明を始める。


 すると、見る見る内にナターシャの眉間に皺が寄って、その顔が真っ赤になっていく。


「えーっと、つまり……ボクはこの赤髪の男の下らない嘘で公務に時間を取られていたと?」


「そういうことになるな」


「ボクのかけがえのない……サトルと一緒にいる大切な時間が削られた理由は……」


「まあ、ヤマカワのせいだな」


 その言葉を言い終えると同時、ナターシャから放たれたのは……無言でのヤマカワに対する裏拳だった。



「あびゅしゃっ!」


 

 鼻骨が一撃で粉砕され、ヤマカワは片膝をついた。

 そのままナターシャは崩れ落ちそうになるヤマカワの膝の上に足を置き、階段を駆け上がるように……否、膝を土台にしてヤマカワの顔面に向けて飛んだ。


 そのままヤマカワの顔面に繰り出されるは、戦慄の膝小僧だ。



「たうらばっ!」



 膝蹴りをまともに食らったヤマカワはそのまま後ろへと仰け反って吹っ飛ぶ。



 そうして、地面に落ちる寸前に、既にその場所に移動していたナターシャに蹴り上げられた。



「ぐむらんばっ!」



 そうして、宙に浮きあがり、自然落下してきたヤマカワに向けて、再度のアッパーカット。



「ぬりゅらばっ!」



 そんでもって、再度落下してきたヤマカワに、再々度のアッパーカットが炸裂した。



「ぎゃんっ!」



「ぎゅんっ!」



「ぎょんっ!」



 エゲつねえ……。


 アッパーカットの連打で地面に落としてもらえない。


 連打を……終わらせて貰えない。



「キミが……そんなくだらない理由で……」



「ゲビっ!」



「ボクは旦那様と一緒にいたいのに……」



「たわらばっ!」



 っていうか、全部が的確に鼻っ柱に入れられてるな。


 ヤマカワの鼻は既に原型を留めておらず、グロ画像みたいな状況になっている。


「ボクは怒ったぞおおおっ!」


 そうして最後に炸裂したのは、蹴り上げによる――金的。



「ほむうううううううううっ!」



 何とも言えない断末魔と共にヤマカワはそこでようやく地面にドサリと落下した。 


 エゲつねえ……。

 ヤマカワの棒の部分は既にフェアリーに破壊されているところに、更に追い打ちを仕掛けやがった。 


 と、そこでナターシャは満足気に頷いた。



「玉の完全破壊を確認ってところかな。これで、害悪遺伝子が世に広まることはないだろう」



 曇り一つない満面の笑みのナターシャを見て……俺は心の底に大きく刻み込む。


 つまり、ナターシャを怒らせると、タマを潰してくる。


 自分のだけでなく、他人の男の部分まで無くすことが可能とは……何と恐ろしいやつなんだ。



 この嫁だけは絶対に怒らせないでおこう。そういう風に――俺は思ったのだった。


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