第30話 ヤリサーの大学生、ふたたび

※ ニコニコ漫画さんでコミック連載中です。   小説版・コミック版共に白石が書いてますが、あっちはコミックとしての面白さを追求した脚本にしているので内容は大きく異なります。













 2週間後。


『兵は神速を尊びます』とのアカネの言葉で、サテュロスの里に和食屋とアイスクリーム屋がオープンした。


 店は大盛況で、猫耳族の里、鬼人族の里に続いての大流行らしい。


 しかし、アイスクリームは分かりやすい味だから大流行なのは分かるけど、どうして和食がこんなに流行るんだろうか?

 

 まあ、美味いから流行るんだろうけどさ。


 そんでもって、それぞれの里での利益も物凄いことになっていて、アカネたちの商売は今後更に手を広げることが予定されているわけだ。


 大森林の全ての里に店舗を広げて、将来的には人間の街……そして、他の国への進出まで目論んでいるらしい。


 なので、俺としても色々とレシピを提供する作業に忙しい。


 つっても、カラアゲと良くある定食関係をそのままコピペするだけなんだけどさ。


 と、それはさておき、商売を拡大させるには先立つものも必要なので色んなところから出資を募ったわけだ。


 手を挙げたメンツは……



・俺


・鬼人王


・猫耳族の族長


・ナターシャ


・サキュバスの風俗店の店長



 サキュバスの店長の参戦には驚いたが『貴方様は金になる木なので』とクスクスと笑って、金貨1万枚(日本円で1億)を出してくれたんだよな。

 サキュバスの貴族って話だし、あの店も流行ってたから、あの人は実は資産家だったりするのだろうか?


 んでもって、ナターシャも何も言わずに金貨3万枚の出資をしてきたし、本当にエリスとアカネの事業は金の成る木だと思われているようだ。


 ちなみに俺は暇なときに害獣駆除して、それを冒険者ギルドに売って、既に金貨1万枚ほどの資産があるので、これをほぼ全額突っ込む形だ。


 で、最後に鬼人王と族長はそれぞれ金貨5000枚ずつだ。

 この人たちも、実はかなり貯めこんでいるらしい。



 と、そんなこんなで日本円にして6億円を手にしたエリスとアカネは大忙しで、森の里を駆け回って出店する場所を決めている状況だ。


 で、それが軌道に乗れば、いよいよ人間の街へと手を広げるらしいな。

 その場合はナターシャとサキュバスの店長から更なる追加投資も確約しているし、俺もそれまでに魔物を狩って貯めこんでおかないとな。





 あ、それと、話は変わって福次郎に子供ができた。


 と、言うのも福次郎の嫁さんがウチの庭の巣箱で卵をいくつか産んだんだよ。


 今は嫁さんと交代で卵をあっためてて、なんだかアイツも充実してる感じだ。


 妊娠祝い……かどうかは分からんが、お祝いにサンダーバードの肉でタタキを作ったら嫁さん共々喜んでいた。


 福次郎は俺にとって家族同然だし、彼には是非とも幸せな家庭を築いてほしいものだ。







 で、更に話は変わって、ナターシャが猫耳族の里に来る頻度が激減した。


 二日に1回くらいのペースで通い妻になってたんだけど、「連日の共同防衛会議で忙しい」とのことで3日に1回くらいのペースになってしまったんだ。


 そのせいで、ウチに来たときは俺に甘えて甘えて……ベタベタしてきて仕方がない。


 つっても、ベタベタされるのは嫌じゃないけどさ。


『しかし本当に寂しいね。いつも一緒にいることができるエリスとアカネが羨ましいよ。ボクだって本当は毎日君と一緒にいたいのに』


『まあ、お前は森の王で重責だからな。その分、会えた時は甘えればいいさ』


『ふふ、やっぱりキミは良いね……大好きだよ。しかし、本当に連日の会議が恨めしい……そもそもどうしてボクが人間族の面倒を……』


 と、そんな感じで……まあ、通い妻にも苦労があるようだ。


 今度、街に行ったときに小物でも買って来てやろう。








 で、現在。


 猫耳族の里に人間の軍隊が100人ほどやってきた。


 報告を受けて、里の出入り口に出向いた俺とエリスとアカネは絶句することになる。


 と、言うのも前回、サテュロスの里に引き渡したはずのヤマカワが人間の軍隊を率いていたからだ。


「へへ、やっちまったなあ、おっさん? 何しろ……俺をボコボコにしちまったんだからな」


「しかしお前……どうしてこんなところに国軍が? お前は逃亡勇者のはずだろう? いや、そもそもお前は重罪者として国に連行されたはずだが……」


 俺の問いかけにヤマカワは「ハァ?」と、顔をしかめた。


「そこはアレよ、俺の必殺よ」


「必殺?」


「元々、俺ってば中学・高校と万引きのヤマちゃんと言われてたからな。それのおかげかどうかは知らんが、転移特典でスキル:トンズラってのがあったんだ。戦闘とかでヤバくなったら一人で使って逃げようと思ってたから、みんなには黙ってたけどな。まあ、うすのろのサテュロス共から逃げるなんてワケないぜ」


「……だが、お前は逃亡勇者だろ? どうしてこんな軍隊を率いているんだ?」


「魔法師団長に「やっぱり俺が間違ってました」とか適当なこと言って頭下げたフリすりゃあ一発よ。俺みたいなワルが心を入れ替えたエピソードって、オッサン連中にはウケ良いしな。日本でこの方法で落ちなかったバカは今までいねえ」


「お前……」


「まあ、ギャップ萌えって奴? 暴走族とかが子猫を大事にしてるだけで、実は優しくて良い人に見えちゃう現象ってやつの応用よ。暴走族やってるようなのが優しくて良い人なワケねーだろっつーのな? ギャハハっ!」


 しかし、本当にビックリするくらいのカスだなコイツ。


 エリスもアカネも開いた口が塞がらないようで「ダメだこりゃ」とばかりに呆れている。


「ってことでオッサンは終わりだ。こっちは100人からの人数率いてるんだからな」


「いや、しかし、お前が王国に戻ったのは分かったが、この人数は一体?」


「そこはアレよ。俺が森で放浪中に……とんでもない魔物を発見したことにしたんだよ」


「……何言ってんだお前?」


「要は、これは改心した俺が正義の心に目覚めて、悪の魔物使いのオッサン……つまりはテメエをやっつけるっていうシナリオな。ま、お偉いさんたちを説得するのに時間食っちまったがな」


 うーん。


 今まで俺はどんな人間にでも価値はあると思ってた。


 いや、もっと言えば全ての人間は覚醒する可能性があるってことな。


 例えば、親のスネばっかりカジってる非生産的なニートでも、いつか覚醒して凄いことをやりだすかもしれないし。


 そもそもニートってのは蓄積されたパワーと暇が無限にあるから、何かをやりだしたら本当に凄かったりしそうだ。

 そういう意味では、可能性とポテンシャルを感じたりすることもあるわけなんだよな。


 でも、今思うのは……生きてる価値の無い人間ってのは本当にいるんだなってことだ。


 他人の足を引っ張ることしかできないとか以前に、ヤマカワの場合は……存在そのものがほとんど災害だ。


 他人に迷惑をかけるという無駄な方向に行動力を発揮するというかなんというか。

 生きているだけで迷惑って、本当にこんな奴いるんだな。ビックリするわ。


「ってことで、国軍率いてリベンジしにきてやったぜオッサン。まずは土下座しろ」


「何で俺が土下座しないといけねーんだよ」


「こいつらは冒険者ギルドで言えばCランク~Bランクの猛者揃いだ。そして、それを率いるのがAランク冒険者相当のこの俺ってことだ」


「だから?」


「テメエ等には勝ち目は……」


 と、そこで森の中に二つの人影が縦横無尽に駆け巡った。


「ぐひゃ!」


「うぎっ!」


「ぬわらばっ!」


 国軍の人たちは人影の攻撃を受けて、次々と倒れている。


 うん、エリスもアカネも空気を読んで……武器を使わずにちゃんと当身で気絶させているな。


 そうして、ものの数分で100人からの国軍は気絶して、その場で倒れたんだ。


「な、な、な、な――っ!?」


 驚愕の表情のヤマカワだったが、すぐに「コホン」と咳ばらいをした。


「ま、ま、まあ……俺をボコボコにしたお前等だ。これくらいは想定していたさ」


「顔色が真っ青だが大丈夫か?」


「へへ、調子こいてられんのも今の内だぜ?」


 そうしてヤマカワは懐から宝玉を取り出して、何やら呪文を唱え始めた。



「転生特典の最後に残った……虎の子の宝玉だ! モンスター召喚っ!」



 地面に魔方陣が描かれ、そして現れたのは――




「はは、見て驚いたか!? これが討伐難度SS――鬼獣王だ!」



 よいしょっとばかりに俺はミスリルソードを振って、鬼獣王を一刀両断にした。


「え……? あ……? えーっと…………え?」


「これなら前に倒したことあるぞ?」


「……え?」


「いや、だからお前が召喚してたんだろ? 鬼獣王とか鬼鳥王とか、他にもオーガキングをたくさんな」


「……つまり?」


「それ、全部殺ったの俺なんだよ」


「……マジで?」


「うん、マジで」


 その言葉でヤマカワは大きく目を見開き、大口をあんぐりと開いた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る