第29話 フェアリーワールドへようこそ(意味深)


 で、そこから色々あった。

 執拗な尿道パンチを受けたヤマカワのダメージは甚大だった。

 その道のプロであるアーカムフェアリーでも、こんな酷い状態は見たことないという話で、今後……ヤマカワが子供が作れない可能性は9割8分ということらしかった。

 

 それで、ヤマカワの今後についてはナターシャに引き渡すことにしたんだよな。

 そんでもって、既に身柄は縄でグルグル巻きにしてサテュロスに引き渡している。


 流れとしては、サテュロス→ナターシャ→人間の国→裁判という感じかな?


 何でこの場でトドメを刺さずにそんな面倒なことをするかというと、一応は『勇者』扱いなので、色々と面倒らしい。


 とはいえ、森を荒らした重罪人ということなので、無罪放免とはいかないだろう。


 奇跡が起きて無期懲役、普通なら間違いなく死刑って感じらしい。


 まあ、フェアリーの女王を拉致監禁してたくらいだから、妥当なところだろう。



 ☆★☆★☆★



 そんでもって、その日の夜はサテュロスの里で祝勝会となった。


 大麦畑も取り返したし、この宴会はお礼の意味もあるという。


 フェアリーたちも参加して&里を総出での大宴会ってことで、まさに地域を挙げての超宴会だった。

 

 で、事前準備の段階でアカネが料理の腕を振るってくれたんだよな。


 サテュロスたちはアカネが料理をしようとすると『お客様にそんなことは……』って止めたんだけど、そこについてはアカネにも計算がある。


 今回の宴会は大規模な物で、後々に定食屋を開く都合上、先に和食を宣伝しておこうということらしい。


 と、そうなると当然エリスも動いてアイスクリームを作ったわけだな。それでみんなの反応はと言うと――


「美味い! 豚の生姜焼きは最高だ!」


「いやいや、鶏肉の味噌炒めが……っ!」


「干し魚のほぐし身のオニギリも美味しい!」


「いやいや、オニギリと言えば高菜漬けを一枚丸ごと巻いたオニギリが……っ!」



 これが男衆の意見だ。

 まあ、ガッツリ系の飯が好評だったみたいだな。で、女衆とフェアリーたちの意見は――



「冷たくて甘くて、美味しすぎるですよー♪」


「甘いのですよー! あまーいのですよー!」


「ぼ、ぼ、ぼくはオニギリが食べたいんだな」


「アイスクリームをクッキーに乗せると美味しいですね!」



 やっぱり一人……フェアリーの中に山下清画伯がいるけど、そこはスルーしておこう。


 で、俺たちと言えば商売関係なしに焼いたピザに下鼓を打っていたわけだ。


「なあエリス? 氷魔法でビールを冷やしてくれ」


「氷を直接お酒に入れるわけではなく?」


「ちょっと手間はかかるが……お願いするよ」


 言われたとおりにエリスはビールをキンキンに冷やしてくれた。


 どれくらい冷えているかというと、ここが地下帝国なら、カ〇ジ演じる藤原〇也さんがオーバーリアクションに「キンキンに冷えてやがる」と演技するくらいには冷えている。


 と、冗談はさておき、本当に冷えているな……と、俺は思わず生唾をゴクリと呑み込んだ。


 だって、目の前にキンキンに冷えたビールと、ピザがあるんだぜ?


 サラミとベーコンを爆乗せしてるやつで、チーズがさっきまでグツグツいってたような……そんな熱々のピザだぜ?


 で、俺はピザを口に放り込んで、ハフハフ言いながらビールを喉に流し込んだ。



「美味いっ!」


 これは美味い。

 文句なしに美味い。

 っていうか、ヤバい。


 こりゃたまらん、こりゃ止まらんとばかりに俺は次々とピザを口の放り込み、そしてビールで流し込む。


 それで、あまりにも俺が美味そうにしてるもんだから、エリスとアカネも続いてピザとビールを口に運んだ。



「美味しいです! 旦那様!」


「ビールとはこんなに美味しいものなのですね!」


 そうして俺たちはバクバク食べてグビグビ飲んで、サテュロスやフェアリーたちとの親睦会を終えたのだった。



 ☆★☆★☆★



 その日の夜――。


 グデングデンに酔っぱらって早々に眠りに入ったエリスとアカネとは違う部屋で、俺は一人でベッドにもぐりこんでいた。


 いや、ここ最近は夜の生活が本当にハードワークだったからな。


 エリスとアカネだけでも大変だっていうのに、2日に1回はナターシャも来る。


 それにモフモフランドの相手もしなくちゃならんし……やはりたまには相手のいない静かな夜も必要だ。


 ま、戦士の休息って奴だ。


 と、その時――窓から小さなバケツを10人くらいで持って、フェアリーが入ってきた。


 そして、次にフェアリーの女王が入ってきて、俺の前まで飛んでくると同時に小さく頭を下げた。


 続けざま、真剣な表情と共に、やっぱり小さな口を開いてこう言ったんだ。



「サトルさまー! サトルさまー! 助けてくれてありがとなんですー♪」


 女王はそう言うと、ニコリと笑ってバケツを指さしてこう言ったんだ。




「――卵に精子をかけて欲しいんですー♪」




「ど、どういうことなんだ?」


「サトルさまは強いのですー♪ サトルさまの強き種なら、私たちの子供も強くなるですよー」  


「お、お前等も……強き種理論の信奉者だったのか」


 しかし、この森のモテる基準って分かりやすすぎて若干引くレベルだな。


 そうして俺はしばし考え、フェアリーの女王にこう尋ねた。


「しかし、それって……俺に一人でしろってことだよな?」


 俺の問いかけにフェアりーはフルフルと首を左右に振ってこう答えた。


「お手伝いするですよー? 私たち……体の全部を使ってご奉仕するです!」


 女王がそういうと、他のフェアリーたちは一列に整列し、ヴィシっとばかりに俺に敬礼をしてきた。


「いや、でもさ、お前等さ……必殺技があるわけじゃん?」


 そう言うと、女王はフルフルと再度首を左右に振った。


「尿道パンチはありませんですよー♪」


「って言われてもなあ……」


 いや、実際問題、俺は尿道パンチのイベントをゲームで見たことあるしな。


 嫌いな相手じゃなくても、本当にイタズラ感覚でそういうことをしてしまうから、アーカムフェアリーは悪名高いんだ。しかも悪気もあんまり無い。


 なので、俺は何があろうとこいつらは信用しないと決めている。

 と、その時、俺の頭の中に言葉が響き渡った。




 ――スキル:老師が発動しました


 ――太公望のスキル:仙界の駆け引きが発動しました


 ――このフェアリー……どうやらウソはついておりません



 やっぱり便利だな老師! 

 

 ありがとうな! 最初役立たずとか言って本当の本当にごめんな!


 と、そこでフェアリーの女王は涙目で、俺に上目遣いでこう言ってきたんだ。



「うう……サトルさまは……悪戯好きの私たちが嫌いなのです? 無理なのです?」



「ったく、仕方ねえな」



 まあ、そんな感じで懇願されては仕方ない。


 と、いうことで俺は素直な気持ちでこう言ったんだ。




「全然無理じゃないです」




 と、そんなこんなで――。


 その日俺は、めくるめくフェアリーワールドに突入したのだった。


 感想は……まあ、新しい世界って感じで……とにかく凄かったと言っておく。


 前立腺パンチも尿道パンチもされてないけど……奴らは痛くない必殺技も持っていたんだ。


 詳細は語らないが、とにかくヤバかったと言っておこう。




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