第28話 VS ヤリサーのヤマカワ &妖精さんのエッチなイタズラは無理ですか? それは流石に無理です その4


「俺が……攻撃に反応できなかった……だと?」



 そのまま、ヤマカワは鼻からドボドボと流れ落ちる血を見て、ただただ呆然としていたのだった。


 そこでヤマカワの目が驚愕に大きく見開かれた。


「なっ――っ!?」


 まあ、それも無理もないだろう。


 と、言うのも追撃でエリスの蹴りがヤマカワの顔面に放たれたからだ。


 ゴシャリと鈍い音が鳴って、猛烈な勢いでヤマカワは後ろに吹き飛んでいく。



 ――5メートルは飛んだだろうか。



 そのまま畑の大麦を薙ぎ倒しながらヤマカワは更に10メートルほど転がっていく。


 しかし、さっきエリスは涙目で俺に助けを求めていたはず……と、そこで俺はポンと手を打った。

 なるほど、さっきの涙目の訴えは、俺に助けを求めてたんじゃなくて……コイツ殴って良いですかっていう訴えだったのね。


 そうしてエリスとアカネが抜刀し、俺もミスリルソードを構えた。



「お、お、お前等……やるってのか!? もう頭きたぞっ! アーカムフェアリーっ!」



 ヤマカワの言葉で、大麦畑のそこかしこからフェアリーが飛び出してきた。


 その数は優に500を超えて、彼女たちはヤマカワを守るように、その周辺を飛び交い始めた。


「ははっ! オッサンがお人良しってのはリサーチ済みだ! 無理やり従わっているだけのフェアリーの盾を乗り越えて、俺に攻撃できるかなっ!」


 くそ、痛いところを突かれたな。

 エリスとアカネもこの言葉には苦虫を嚙み潰したような顔をするしかないようだ。

 

「どうしますかサトル殿? フェアリーを切り捨てるだけなら簡単ですが……」


 そりゃあそうなんだが、それをやるわけにもいかねーだろ。


 だって、フェアリーは女王を人質に取られてるだけなんだから。と、その時――




「あ、福次郎」


 


 長らく失踪していた福次郎が遠くの空に見えたんだ。



「羅刹鳥……だと? まさかオッサンの……使役鳥なのか?」



 驚愕の表情のヤマカワだが、今はそこはどうでも良い。


 この場合問題なのは二つだ。一つは――



「旦那さま……福次郎のツガイっぽいのがいますね。お嫁さんを見つけて帰ってきたのでしょうか?」


 どうやら、そんな感じらしいな。


「しかし、どういうことなんだ? モンスターテイムのスキルはサカリがついたら解除されるんだろう?」



「スキルの効果ではなく、福次郎は純粋に旦那様を気に入ったということでしょう」



 そんなことを言われると、余計に福次郎が可愛く見えてくるな。


 と、それはさておき、問題の残る一つは――


「サトル殿? 何故に福次郎がフェアリーを掴んでいるのですか?」


 そうして福次郎は俺の方に飛んできて、本人が右肩、お嫁さんが左肩に止まった。


 二人して俺の頬をスリスリしてきて本当に可愛いんだが……福次郎の爪に挟まれているのは、間違いなくアーカムフェアリーだった。


 で、福次郎の瞳は「食べ物を獲ってきたから褒めて褒めて!」とばかりにランランに輝いていて、俺にスリスリしてくるわけだ。


 ちなみに福次郎は獲ってきた獲物は絶対に殺さず、俺に褒められてからトドメを刺すという習性がある。


 更にちなみにで言うと、攻撃能力を持たない小動物の時は、ほとんどの場合が獲物を無傷の状態で持ってくるわけな。


 で、福次郎に捕えらえたフェアリーを見て、ヤマカワの周辺に飛んでいたアーカムフェアリーたちが騒ぎ出し始めた。


「女王なのですー」


「女王の帰還なのですー♪」


「やったのです!」


 なるほど。

 どうやら、そういうことらしい。


「福次郎! コレは食べ物じゃないからな! 食べちゃダメだぞ!」


 俺の言葉で福次郎はコクリと頷いて、女王が解放されると同時に、瞬く間にヤマカワの近くからフェアリーたちがこちらに飛んできた。


「え? え? えええ!? おいおい、最後の虎の子のオーガキングを護衛につけてたんだぞっ!」


「これで人質もなしだ。どうするヤマカワ?」


「フェアリーが使えないとなっても、所詮……オッサンはオッサンだ。仕方ねえから俺が相手してやんよ」


 そうして、賢者の杖を構えてヤマカワは叫んだ。


「かかってこいや、おっさん!」


 で、言葉が終わる前にヤマカワの攻撃魔法が飛んできた。


 炎の弾だったが、エリスの魔法に比べると子供だましみたいなシロモノだ。


 そもそも、俺が抜ける前の転移勇者パーティーって大体A~Bランク程度の実力だったんだよな。


 無論、俺の敵じゃない。


「よっこいしょっと」


「炎を……いや、魔法を斬っただとっ!?」


 驚き狼狽うろたえるヤマカワ言葉通りに、俺は炎弾を剣で切って、そのまま間合いを詰めて背後へと回る。


「な、消えた――っ!?」


 俺が出した速度はバフ加算前のアカネの8割程度ってところか。


 この程度で見えていないなんて、やっぱりこいつは全然大したことねえな。


 そのまま俺はヤマカワの周囲を回って、杖を剣で切り落としたんだ。


「なっ……何だ……と?」


 落ちた自身の杖を見て、信じられないとばかりにヤマカワはその場で呆然と棒立ちになった。


「いや、ありえねえ……女やこんなオッサンが強いだなんて……断じて有り得て良いことじゃねえ……そ、そうだっ! これは幻術か何かに違いないっ!? おいオッサン! 汚ねえぞ!?」


 何か勘違いしてるらしいが、そろそろ終わりにしようか……。


 と、そう思ったところでアカネが俺の肩をポンと叩いた。


「サトル殿……ここは私に任せてもらえないでしょうか? 私は……コイツに言わねばならぬことがあるのです」


「言わねばならないこと?」


 並々ならぬ決意の眼差しに俺は気おされ、小さく頷いた。


 するとアカネは自身の刀をヤマカワの前に放り投げた。


「その刀を使え」


「どういうつもりだ?」


「幻術だのまやかしだのと……言い訳ができないように完膚なきまで叩き潰してやるということだ。こちらは丸腰――文句はあるまい?」


 そうしてヤマカワは刀を拾って、下卑た笑みを浮かべた。


「へへ、後悔しやがれ! こう見えても俺は昔剣道やってたんだ――え?」


「遅い」


 背後に回ったアカネがヤマカワの背中に肘鉄を食らわせた。


「ごぎゅばっ!」


 そうしてヤマカワは地面に崩れ落ちると同時、アカネは冷たい声色でこう言った。


「落ちた刀を拾え」


「て、テメエ――あびしゅっ!」


 アゴに突き刺さったのはアッパーカット、そしてアカネが崩れ落ちたヤマカワに再度冷たい声色を浴びせかける。


「刀を拾え」


「て、て……てめえ……たむらばっ!」


 で、そこから先は酷かった。


「拾え」


「ぐぎゃああっ!」


「拾え」


「たむりしゅっ!」


「拾え」


「あむるばっ!」


「拾え」


「あんじゃっ!」


「それとな、貴様に一つ言っておくことはある。旦那様がクソ雑魚だと? インポだと? 私のサトル殿は――」


 そうしてアカネは重心を深く落とし、その拳を腰だめに構えた。



「――ちゃんと勃起するっ! 人の旦那を侮辱するなっ!」



「ぐぎゃああああああっ!」



 とりあえずヤマカワはアカネの正拳突きで吹っ飛んだわけだ。


 が、アカネの言いたいことってそれだったのか……何という下らないことなんだ。


 いや、でもここはエロゲ世界だからな。そういうことは大事なのかもしれない。


 そうして、地面に転がりピクピクと痙攣するヤマカワに向けて、アカネは溜息と共にこう言った。



「お前……私がその気なら既に20回は死んでいるぞ?」



「く、く、くそ、なんだお前!? なんなんだよお前等!?」



「どうにも……まだ元気らしいな」



 そのままアカネは、どこから持ってきたのかは不明だが、縄でヤマカワの手足をぐるぐる巻きにした。


 そして、アーカムフェアリーたちに向き直ったんだ。


「おい、妖精たちよ」


「何なのですかー?」


「お前等は……やられっぱなしで良いのか?」


 その言葉を受けて、妖精たちは口々にこんなことを言い始めた。


「そんなことないですよー」


「でも私たち弱いですよ」


「人間さんは強いですよー」



 そうしてアカネはクスリと笑って刀を拾う。


 続けざま、シュオンと風斬り音と共に宙を斬ると……何故かヤマカワの下半身の服が切れる。


 そうして、ヤマカワはトランクス一丁の状態となったのだ。



「聞け、妖精たちよ! 貴様たちには――戦う力があるのではないのか? 人に与えられた勝利に何の価値がある? 勝利とは――自らつかみ取るものだ!」



 アカネの言葉にフェアリーたちは色めきだった。



「そうなんです! そうなんです!」


「私たち、戦う力あったです!」


「あるですよ! 必殺技あるですよ!」


「一人一発ずついくですよ!」


 沸き立つ妖精たち。


 訪れるのは、惨劇の予感。


 そうして妖精たちはヤマカワの股間に我先にと飛んでいく。そして――




「うぎゃああああああああっ!」




 と、そんなこんなで尿道パンチが小一時間に渡って行われたのだった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る