第27話 VS ヤリサーのヤマカワ &妖精さんのエッチなイタズラは無理ですか? それは流石に無理です その3



 と、まあそんなこんなで――。


 俺たちは大麦の生産地帯に入った。


 そこは森を抜けたところにある平原で、相当な広さの大麦畑が広がっていた。


「しかし、こりゃ酷い……な」


 と、いうのも、大麦畑の中央が……何かの発掘現場のように掘り起こされていて、大麦畑の総面積の3分の1くらいが無茶苦茶になっていたんだ。


 と、その時、俺たちの周囲に10体くらいのフェアリーが飛んできた。


 それは桃色の髪に、半透明の羽を持った小人だった。


 ツインテイルやサイドポニー、みんな髪をどっかしらで括っているんだが……まあ、共通して髪型は少女趣味で可愛らしい。



「むむー! 人間さんなのですー!」


「むむむー! 大麦畑に入っちゃいけないと言ったですのにー!」


「ダメなんだぞー! 入ってきちゃダメなんだぞー!」


 そうして全員がニコリと笑ってこう言った。



「必殺技をお見舞いするですよ?」



 いや、それだけは勘弁してください。


 しかし、可愛らしい見た目に反して、何という凶暴な種族なんだ……と、俺は身震いする。



「どうしますかサトル殿? このフェアリー……切り捨てますか?」


「旦那様、私の魔法で焼き払っても良いですが……」


「いや、ちょっと待ってくれ」


 と、そこで俺は懐からクッキーを取り出した。


「俺たちは敵じゃない。お前等も元々はサテュロスと仲良くやってたんだろ? 一体全体何があったんだ? 詳しく教えてくれよ」


「サトル殿……エサで釣るつもりですか?」


 小さく頷いたところで、エリスが懐疑的な表情でこう言った。


「しかし、いくらなんでも古典的な……」


 そうして俺がクッキーを差し出すと、アーカムフェアリーたちは円陣を組んで審議タイムに突入した。




「どうするですー?」


「クッキー欲しいですよ」


「でも、女王様が捕まってるのは言っちゃダメって言われてるですよ?」


「ぼ、ぼ、ぼくは……クッキーが欲しいんだな」


「でも、やっぱり女王様が悪い人間さんに捕まってるのは言っちゃダメですよー」


「バレちゃうと女王様がクビチョンパなのですー」


「でも、クッキーは欲しいですよ……」





 うん。

 大体の事情は分かった。


 アーカムフェアリーの中に一人だけ山下清画伯が混じっていたようだが、そこについてはスルーしておこう。


 しかし、このエロゲって色んな所に分かりづらい小ネタ挟んでくるよな。



「分かった。お前等は何も言わなくて良いから、とりあえずクッキーだけ食っとけ」


 そうしてクッキーを与えると、ニコニコ笑顔でアーカムフェアリーたちはその場でクッキーを食べ始める。


「しかしサトル殿……女王がさらわれているとは……」


「一度出直して、女王誘拐事件を調査しますか……旦那様?」


「ああ、大人しく帰るならアーカムフェアリーも攻撃はしてこないだろうしな」


 と、その時、後ろから俺を呼ぶ声が聞こえてきた。



「あ、オッサンじゃん? 生きてたんだ?」



「えーっと……お前は……ヤマカワ?」


「いやー、久しぶりだなオッサン」


 この赤髪は……間違いなくヤリサーの大学生の一人だ。

 確か、一番最初の時は、今どき流行りもしないダボダボの服を着ていて、50人斬りの転移ボーナスで賢者適正とを持ってた奴のはずだ。


 で、今は賢者のローブを着てるんだが、頭の悪そうなツンツンの赤髪に絶望的に似合っていない。


 で、ヤマカワは聞かれてもないのにペラペラと喋りだした。


「いやさー。あれからみんなは帝都にいっちまってさー」


「帝都?」


「俺ってば賢者適正じゃん? みんなの中でイマイチな職業じゃん? で、戦力的に仕上がった奴から転移者は帝都に送られるらしくってさー。なんせ転移者って100人からいるみたいじゃん? 1軍と2軍と3軍に分かれてて、俺って3軍みたいなんだよね」


 ん? どういうことだ?

 そんなメジャーリーグみたいな制度はエロゲには無かったはずが……。


「そんで先にみんなが2軍に上がっちまってさ、俺ってばチョー寂しいわけよ。この世界の人間って日本の話とかできないじゃん? 俺ってばチョーホームシックみたいでよー」


「……」


「だからオッサン生きてて良かったわ。今度一緒に合コンしよーぜ」


 バカすぎてそんな感情はないと思ってたが、こいつにもホームシックっていう感情があるのか。


 俺が生きてたことに喜んでるし、ひょっとしたら反省の気持ちでもあるのかな?


「あ、合コンの話だけど、オッサンが年上なんで……俺と女の子のサイフ役……ヨロシクなっ!」


 前言撤回、反省なんてしちゃいねえ。

 

 っていうか、そもそもコイツ等……俺を殺しにきてたよな?

 少なくとも死んでも良いとは思ってたよな?


 だから、あんな森に俺を置き去りにしたわけだよな?


 それを開口一番「合コンいこうぜ」なんて……こいつは人の命をなんだと思ってやがるんだ。


「で、お前はここで何やってんだ?」


「いやー、マナを集めるために大事でよ。龍脈っつーの?」


「マナを集める? 何言ってんだお前?」


「いやさー、俺って賢者職で何でもできんじゃん? でも、王国の魔法師団長は俺に攻撃魔法と回復魔法を勉強しろってウルサイのよ」


「賢者だったら普通はそれじゃないのか?」


「はは、オッサンってば冗談ばっかだな。攻撃魔法や回復魔法っつったら、前線で戦うわけよ、危ないわけよ」


「……」


「だから召喚系で行こうと思ってさ。なんかしんねーけど、俺って転移の特典で超レアな召喚の宝珠ってアイテム持っててさ、それで鬼獣王とか鬼鳥王とかオーガキングとか償還したんだけどよ」



 ん?

 ちょっと待てよ……?

 そのモンスターの名前はこれまでに色々と聞いてきたような……。


「そしたらよ、魔法師団長にそんな危険な魔物を街で飼うなーて言われてよ。とっとと逆召喚魔法で消せって言われてさー」


「……それで?」


「いや、超レアな宝珠を使って鬼獣王とか呼び出したっつーのによ。そんなの帰らせるワケにはいかねーじゃん? もったいないし」


「……まさかお前……ひょっとして……」


「そそ、こっそり大自然に帰したワケよ。その気になれば王都にも呼び戻せるみたいだし……隠し戦力っつーの? いや、俺ってばマジ天才!」


「えーっと……その魔物たちは人を襲ったりするんじゃないのか?」


「ハァ? 襲うに決まってんじゃん。戦闘以外の普段の生活では俺の言うこと聞かねーし。そもそもエサやりとか面倒なこと……俺は無理なんで。そこんとこヨロシクな」


 こいつ……っ!


 と、俺は呆れた口が塞がらない。


 実際問題、オーガキングの異常発生で交易路が一時期吹き飛んでたんだぞ?


 大討伐隊とかも組まれてたし、被害も出てたみたいだし……。


「様子見が終わって状況が固まったら俺……バックレ決め込もうと思ってたんだよ。そもそも異世界の勇者と意味わかんねーし、命張って戦う理由もねーしな。召喚した魔物は俺よりも何倍も強いし、山賊団とかで贅沢なハッピーライフ送れるんじゃね? とか思ったりするしさ」


 ああ、こいつはもうダメだ。

 これは……カス中のカスだわ。

 何をどうやったら、今後の生計の立て方に山賊団っていう方法が浮かぶのか俺には全く理解できん。


 異世界勇者の仕事に思うところがあるなら、せめて、用心棒とか冒険者とか色々あるだろうに……。


「そしたら、なんか俺の鬼軍団が超凄腕の冒険者に退治されたらしくてよ、それで魔法師団長も『お前逆召喚してないじゃねーか』ってことでカンカンでさ。マジで俺ツイてなくね? かわいそうじゃね?」


「もう一度聞くが……魔物が放たれたら誰かの迷惑になると思わなかったのか?」


「あ? 迷惑になるんじゃね? でも、そんなの俺に関係なくね?」


 ダメだ。

 分かってたことではあるが、言葉が通じない。


「それから王城も追い出されてさ、宝珠もなくなったし仕方ねーんで龍脈っつーの? 俺はもう一回……召喚魔法で軍団を形成すべく、今ここでマナをため込んでるんよ」


「で、そのためにフェアリーの女王を人質に取って好き放題やってると?」


「まあ、そういうこったな」


 何て言う……ゲス野郎なんだ。


 と、そこでヤマカワはエリスとアカネを見て「ひゅう」と口笛を吹いた。


「ところでオッサン? 良い女連れてんじゃん? ねえ、そこのお姉さん? こんな素人童貞よりも俺と遊ぼうぜ!」


「……」


 見ると、二人はドン引きを通り越して……汚物を見るような目でヤマカワを見つめていた。

 ってか、生理的に無理のレベルに嫌悪感が達しているらしく、二人の肌に粟が立ってる。


 と、そこでアカネが刀の柄に手をやりこう言った。


「サトル殿……この人間の皮を被った鬼畜……今すぐ斬り捨ててもよろしいでしょうか?」


「気持ちは分かるが……さすがにそれはちょっと待て」


「しかしオッサンもすげえな。どうやってこんな美人と仲良くなったんだ? 実は俺……昔から猫耳には目がなくってよ。それも特上の上玉ときたもんだ」


 そうしてヤマカワはエリスの手を掴んで、ニヤリと笑ったんだ。


「へへ、お前も冴えねえオッサンよりも若い俺のが良いだろ? 俺はアッチもすげえんだぜ?」


「辞めてくださいっ!」


「おいヤマカワ! 嫌がってんだろうが! その手を放せ!」


「あ? オッサン? ひょっとして俺に逆らうつもり? クソ雑魚のインポが? 素人童貞が賢者の俺に逆らう? はは、冗談キツいぜ!」


「あの……本当に辞めてください!」


「良いじゃん、ちょっとだけだ。そこに俺のテントあるからよ、そこで酒でも飲もうや」


「本当の本当に辞めてください!」


「良いじゃん良いじゃん、ちょっとだけだからさー」


「本当に無理です!」


「あ? なんだよてめえ? こっちは和姦で済ませてやろうって言ったんだよ。殴ってボコって無理矢理やっちまうぞ? こちとら冒険者ギルドで言えばAランク相当の凄腕だっつーの! 女を無理やりやるのなんて簡単だっつーの!」


 エリスが涙目をこちらに向けたので、俺は小さく頷いた。


 そうして俺が握りこぶしを作ってヤマカワに飛びかかろうとしたところで――。



「あぎゅぶしっ!」 



 俺じゃなくて、エリスの拳がヤマカワの顔面に突き刺さった。

 鼻骨が粉砕されたのか、ゴリュリと嫌な音が鳴る。

 そうしてヤマカワの膝が折れて、地面に膝をついた。


「俺が……攻撃に反応できなかった……だと?」


 そのまま、ヤマカワは鼻からドボドボと流れ落ちる血を見て、ただただ呆然としていたのだった。


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