第10話 里でローションが流行しました。猫耳族の若い娘たちとも、嫁公認で家族になりました




 ズバリ、猫耳族の里でローションが流行った。

 前提条件を説明しておくと、猫耳族の女性は種族的・文化的な意味で男も女もどっちもイケる両刀使いが多い。

 ブラックドラゴンの関係で欲求不満の未亡人が増えているのもある。

 そういった背景で、10代~30代前半の女性同士の恋人の中で、俺が里にもたらしたローションが密かに大流行とのことだ。

 まあ、要は30代前半のマダムが10代半ばの娘をパクっといっちゃうという……そんな感じの禁断の百合の花がそこかしこで咲き乱れているらしい。

 ちなみに、ローションの代わりに山芋を使ったチャレンジャーもいたと聞いている。

 で、実はエリスの祖母は薬師も兼任していたりする。

 なので、デリケートゾーンが痒くなった娘に説教しながら薬を渡しているのを見たこともあるんだよな。

 あの時はさすがに思わず俺も苦笑してしまったが。




 そして、その日の晩飯のこと。

 家の外にできている若い娘の行列を見た後、不思議に思ってエリスに尋ねてみた。

「あの行列は何なんだ? また山芋ローションで肌がかぶれて薬を貰いに来てるのか?」

 それにしては人数が多いけどな。

 はてさて、どうしたことだろうと思っているエリスは首をフルフルと振った。

「遂に連中は家にまで押しかけてきたのですが……っ!」

「ん? 押しかけてきた?」

「ええ、彼女たちは発情しているんです。なので、旦那様の種が欲しいと……そんな感じで里中の若い娘たちが色めき立っているのですよ。全く困ったものですよね」

「発情? 俺の種? どういうことなんだ?」

「旦那様は今や里の英雄ですからね。ブラックドラゴンと黒鬼王(オークキング)を討伐し、更には不思議な発明の数々です。力も頭も良いとなれば猫耳族が発情するのも当たり前の話なんですよ」

「なるほど。それで強き種理論で街中の娘たちが発情しているということだな?」

「そういうことになりますね。もちろん、嫁である私が今まではシャットアウトしていましたが……浮気はいけませんからね」

「え? 浮気がダメだって? でも、エリスは重婚は全然オッケーって話じゃなかったの?」

「まあ結婚している相手であれば、誰と寝ようが100人嫁を作ろうが、1000人嫁を作ろうが問題ありませんけど。外にいる人たちはサトルさんとは結婚してませんからね」

 うーん。

 基準が分からん。が、これが猫耳族の恋愛観であり、結婚観なのだろう。

 と、そこで族長がリビングに入ってきた。

「しかしエリスよ、もう少し皆の衆に寛容になってはどうじゃ? このままでは猫耳族の里は滅んでしまうわけじゃし……なんせ、男が全然おらんのじゃからな」

 その言葉でエリスも思うところがあるのか、何かを考え始めた。

 そうして最終的には『ぐぬぬ……』と苦虫を噛みつぶしたような顔を作ったのだ。

「けれど、おばあ様……浮気はやっぱり駄目ですよ」

「いや、エリスよ。よく考えてみるが良い。英雄、色を好むという言葉もあるじゃろう?」

「確かにそうですけども」

「そもそも、お主は何を心配しておるのじゃ? 強き者が手あたり次第に女に手を出すのは自然の摂理じゃぞ? そんな小さなことを気にする女は猫耳族にはおらんはずじゃ」

「いや、おばあ様。それでも……特定の者同士で肌を重ね続けると、嫌でも情が移ってしまうでしょう? 例えば一緒に寝た女が旦那様に過剰に恋慕の心を抱いたら面倒なことになりますもん」

「まあ、それはそうじゃな。婿殿を好いておるあまりにエリスに攻撃などを仕掛けるかもしれん」

「そうなんですよ。まあ、後腐れの無い、一夜限りの無責任なセックスなら浮気にもなりませんし何の問題もないのですがね」

 問題ないんだっ!?

 っていうか浮気じゃないんだっ!?

 日本基準で考えると問題しかないように聞こえるんだけども。

 しかし、すげえな……。

 これがエロゲクオリティの恋愛観か。男にとって都合が良すぎる。

「それではエリスよ、こうすればどうじゃろう? 一人に情が移らんように……そうじゃな、10人以上で婿殿を囲み、皆で一緒に励むというルールにすればどうじゃ?」

「それなら問題ありません」

 問題ないんだっ!?

 いや、ここが日本であれば大問題にしか聞こえないんだけどな。

「ただし、里の娘たちを抱くのは週に2回までです。他の日は私の日ということにしますので」

「ならば決定じゃ! 婿殿にはこれから里の若い娘たちに種を授けてもらいますからの」

 ビックリするくらいに俺が蚊帳の外で話が進んでいくな。

 しかも俺の扱いは完全に精子タンクみたいになってるし。

 しかし、ここまで来ちゃうと俺としてもさすがに倫理的に思うところもある。

「婿殿、何かご不満ですかの? まあ安心なされよ。自分で言うのもなんじゃが、我が猫耳族の里は美人揃いじゃ。それにこちらも見目麗しい若い娘を厳選しましょうぞ」

「なんなら、サトルさんが相手を選んでも良いですよ?」

「いや、相手が美人かどうかとか……そういう問題じゃなくてだな……」

 と、そこでエリスは何かに気づいたように「はっ!」とした表情をして、俺に頭を下げてきた。

「これは申し訳ありませんでしたサトルさん」

「ん? 急に頭を下げてきてどうしたんだエリス?」

「旦那様は愛の無い一夜限りの欲望をぶつけるだけのふしだらな行為に抵抗があるのですね? これはウッカリしていました。人間と猫耳族の文化の違いも考えずに勝手に話を進めてしまいましたよ」

 いや、まあ、現代日本基準なら、それには抵抗があるという人が多いだろうな。

 そしてエリスは俺に再度こう尋ねてきたのだ。

「サトルさんに最終確認しますが、やはりサトルさんは後腐れの無い、一夜限りの無責任なセックスは無理なのでしょうか……?」

 無理かと問われれば、日本人の正常な男性としてはこう答えるしかない。

 なので、俺は心の底からの素直な気持ちでこう言った。


「全然無理じゃないです」 


 いや、まあ、本当に現代日本基準なら、それは抵抗があるという人が多いと思うよ?


 ――公な場での建前とかならな。


 しかも郷に入れば郷に従えと言う言葉もあるわけだ。ここで彼女たちの意見に賛同しない理由はどこにもない。

 と、まあ、そんなこんなで、俺は週5というハイペースで10人を超える猫耳娘と夜のモフモフランドに旅立つことになるのだった。


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