第2話 無敵になりました


 チャイナドレスの胸部だけに布が無く、形の良いふっくらとした乳の先端には桜色の蕾が咲いている。

「おっぱい丸出し仙人だと?」

 あまりの光景に俺はフリーズする。

 が、フリーズするのも無理もないだろう。なんせ丸出しだもん。

 もう一度言うが、おっぱい丸出しなんだ。

 そうなんだよ。形の良い美乳がぷるんと丸出しなんだよ。

 しかも他の所はちゃんと服を着てるんだ。

 それに恐ろしく美人だ。何て言うか、可愛いと美人の良いところ取りみたいな感じ。

 眉毛は凛々しく、チャイナドレスも品の良い仕立てだ。

 美術品のような整った顔立ちで年の頃なら10代後半ってところだろう。

 ともかく、非の打ち所がない……いや、一種の威圧感すら伴う美少女だ。


 ――でも、おっぱい丸出し


 その事実だけで、彼女の持つ芸術的なまでの美的要素の全てを台無しにしてしまっている。

 しかし、この漂うネタ感なんなんだろう?

 おっぱいが丸出しなだけで、ここまでネタっぽい感じなるものだろうか?

 と、それはさておき、確かこの娘の名前は太公望だ。

 確かゲーム内では重要な位置づけのキャラだったはずだよな。

 設定上、この娘は悲しい過去を背負い、魔の勢力と人間の勢力との狭間でずっと悩んでいたんだ。

 中立を旨とする仙界の掟で人間に側にも立てないし、魔物の側にも立てない。

 けれど、彼女はいつも人間を気にかけて心配していたんだ。

 だけど仙界の掟には逆らえない……それが彼女のゲーム上の立ち位置だ。

 が、最終決戦では人類救済の為に彼女は決意する。

 そう、仙界の掟を破り中立を破棄して立ち上がるような熱いキャラなんだ。

 で、主人公たちのピンチに駆けつける天を舞う戦乙女。

 最強クラスの仙人は戦場に降り立ち、開口一番こう告げるんだ。

「この太公望、もはや迷いはありません! 現時刻をもって、私は魔を払う人類の矛となりましょう!」

 専用のシーンの一枚絵まで用意されていて、決め顔でそんなことを言ったりする本当に熱いシーンだよな。

 だけど、やっぱりチャイナ服の胸の部分だけは無いんだ。

 どんなにカッコイイこと言っても、どんな時でも……そう、今、俺が見ているとおりにいつでもどこでも彼女は――


 ――おっぱい丸出しだ


 えーっと……それは良いとしてさ。

 確か、初期の太公望は色々と面倒なキャラだったよな?

 彼女は異世界勇者は世界を滅ぼしかねない力を持つってことで危険視しているはずだ。

 その関係で、太公望は幾度となく問答無用で主人公に襲い掛かってくるキャラなんだ。

 俺が置かれているこの状況で一番不味いのが、彼女はべらぼうに強いってこと。

 そして、俺もゲームの主人公と同じく異世界勇者なのだ。

 もしも太公望が俺をゲームの主人公と同じように認識してしまったらどうなるだろう?

 そんなものは決まっている。太公望は間違いなく俺を殺しに来る。

 ゲームでは太公望とのバトルというか負けイベントの後、口を挟んできた龍王の顔に免じてもらったり、魔王の横やりが入ったりで、何度も主人公は首の皮一枚で助かっていたけどさ。 

 でも、今の俺はそういう状況にはなく、これはマジでヤバい状態だ。

 恐怖に全身に鳥肌が立つのを感じながら、俺は太公望のおっぱいにマジマジと視線を送る。

 どうやら、向こうはこっちに気が付いていないようだ。

 っていうか、そもそも寝てるみたいだしな。

 しかし、本当に美乳だな。こんな綺麗なおっぱい見たことない。

 と、命の危機にもかかわらず俺が太公望のおっぱいを凝視していたその時―― 


 ――プレイヤーに対する全年齢版の上限レーティング:キス以上の刺激を確認しました


 何だこの声は?

 これはひょっとすると、異世界モノで噂に名高い神の声か?

 これはいよいよ本格的に異世界転移っぽくなってきやがったな。

 と、そこで神の声の様子がおかしくなりはじめた。


 ――親愛度ボーナスにより太公望のスキルをらららラーニングし、し、しします

 ――プレイヤー:サトルは全年齢版の壁を、をを、を突破し、を突破し、突破し、突破し、突破突破突破突破

 ――どうしte諤i匁悶縺弱k蜉ゥ縺蜷梧悄逕溘

 ――突破突破突破突破突破突破突破突破突破突破突破突破突破突破突破突破突破突

 ――遯∫?エ遯∫隲、i蛹∵じ邵コ蠑ア?玖怏?ゥ邵

 ――縺ゥ縺?@t隲、i蛹∵じ邵コ蠑ア?玖怏?ゥ邵コ陷キ譴ァ謔??墓コ

 ――縲?閾ェ霄ォ縺ョ蜉帙?閾ェ隕


 え? 何これ怖い。

 なんかめっちゃ文字化けっぽい感じなんだけど、のっけから大丈夫か神の声?

 と、そこで俺は何となしの予感と共に、ステータスプレートを取り出してみた。




・飯島悟

 レベル1


 HP 縲?閾ェ霄ォ縺ョ蜉帙?閾ェ隕壼コヲ??5/100竊?5/100

 MP 縲?繧ッ繝ェ繧ケ繝?ぅ繝シ繝奇シ茨シ托シ先ュウ?

 魔力 縲?繝ャ繝吶

 筋力 縲??ィ?ー縲?


「なんじゃこりゃ?」

 思わずそう呟いてしまったのだった。

 おいおい、ステータスプレートが文字化けするなんて聞いたことがないぞ?

 これは物凄い気になる現象だが、ここはともかく……。


 ――逃げることが先決だ


 俺の記憶が確かなら、本気出した太公望とまともにやり合うには最低でもレベル70でパーティーを組む必要があるからな。

 人間軍と魔王軍以外の第三勢力筆頭幹部クラスの強キャラだし……ここは36計逃げるが勝ちって奴だ。

 そうして、俺はそそくさとその場から立ち去ったのだった。

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