第12話 戦う決意と安堵の涙と学級会
「頭を上げてください。」
一也が言うと、議員たちは頭を上げた。
上げた顔から、その必死さが伝わってくる。
「何としても〈エクタデオ〉を再生したい」という強い願いを、俺は感じとった。
「俺たちが森を抜けてきたのは、他でもなくその15人と戦うためです。俺たちには、どうしても彼らを倒さなくてはいけない理由があります。だから、俺たちは戦います。俺たちのために。そしてこの〈ミラクド〉のために。」
「そうだよな」と一也が振り向くと、みんなが頷く。
その目には、まるでモンスターと戦っている時のような力強さが宿っていた。
さっきまでの、犯罪者たちの名を聞いて臆していた俺たちとは違う。
今まで俺たちは、「戦わなきゃ殺される」とか「戦わなきゃ帰れない」という、ネガティブな動機で戦っていたように思う。
ただ、そこに「〈エクタデオ〉の再生に協力したい」や「この人たちを助けたい」という、ポジティブな動機が生まれたのだ。
それを芽生えさせたのはシアンさんたち議員の必死な表情と願いであり、一也の「〈ミラクド〉のために」という言葉でもある。
今、みんなが戦意を灯している。
あとはそれを燃え上がらせるだけだ。
「シアンさん、議員の皆さん。そしてクラスメイトのみんな。」
俺は立ち上がって声を上げる。みんなの心を何として燃え上がらせるために。
そして、そのために必要なのは長い口上でも難しい言葉でもない。ただ、シンプルに。
「一緒に戦いましょう!!」
力強く、言い切った。
12人だけじゃない。
30人だけでもない。
みんなで。
この〈ミラクド〉の人たちも合わせて、みんなで戦うんだ。
レイヴィアさんが「ううっ」と声を漏らした。
出会った時のクールさは消え、子供のように泣いている。
その背中をさすっているリオリスさんの目にも、涙が見てとれる。
議員たちみんなが泣いていた。
身の毛もよだつ凶悪な犯罪者たちを相手に、わずかな人数で頑張ってきたのだ。ほっとした、安堵からの涙だろう。
涙を拭ったシオンさんが言う。
「本当に…本当にありがとうございます。私たちに皆さんのような職業はありませんが、出来る限りでサポートします。どうか、どうか。」
「〈エクタデオ〉をよろしくお願いします。」
再び議員たちが頭を下げた。
そして頭を上げた議員たちの顔には、さっきまでの必死さとは違う、希望を見出したような明るい表情があった。
俺たちは、もう一度力強く頷いた。
「歓迎と感謝の意を込めて、ささやかな夕食の宴を行いたいのですが…。よろしいですか?」
シアンさんの提案に俺たちはもちろん、「ぜひ」と答えた。
「寝泊まりできる場所はありますか?」
シアンさんに聞かれて気付いたのだが、教室で寝泊まりするために、毎日森へ入ってモンスターと戦うのは手間だ。
「どこか泊まれる場所がありますか?」
と俺が聞くと、シアンさんは議員ホールの3階を案内してくれた。
5,6人で寝泊まりできそうな部屋が10個ほどある。部屋の中央には、間仕切りなんかも設置されていた。
「ここは他の街から避難してきた難民が一時的に居住する場だったのですが、半年前ほどから難民が全く来なくなってしまったので今は使っていないんです。掃除だけはしてあるので、ぜひお使いください。」
半年前といえば、俺たちがここに転移した頃だ。
それと何か関係があるのだろうか。
この〈エクタデオ〉について分かって来たことも多いが、まだまだ分からないことも多い。
各自が色々疑問を持っているだろうということで、30人全員で話し合いの場を持つことになった。
会場は、シアンさんが会議室を使っていいと言ってくれたので借りることにした。
話し合いで決まったことはだいたいこんなところだ。
まず1つ目として、部屋は各パーティーで1つずつ使う。
これには「男女相部屋ってどうなんだ」って意見も出たが、パーティー内でより連携が取りやすいというメリットがあることや、「間仕切りあるし大丈夫でしょ」という意見が出て決定した。
決して、男子のやましい下心から決まったことではないので安心して欲しい。
2つ目に、どこかの街を攻略する際は必ず〈ミラクド〉に1パーティー残すということ。
モンスターや犯罪者たちに備えて教室に1パーティー残していたのと同様、〈ミラクド〉を犯罪者たちから守る意味がある。
3つ目に、戦闘に備えて各自トレーニングを怠らないこと。
当たり前のことだけど、大事なことだ。これからはいつ戦闘になるか分からない。武器の手入れも含めて、各自スキルの精度向上や基本的な戦闘能力の向上に務めることが確認された。
「零斗、どうかな?似合う?」
今俺たちは、話し合いを終えて部屋に戻りゆっくりしているところだ。
「おっ、良いね。似合うと思うよ。」
少しでも街に馴染めるようにと、シアンさんが街の人たちと同じ服を用意してくれた。それを着た朱莉が、くるっと一回転してみせる。
〈エクタデオ〉にはあまり気候の変動がない。
四季も無いため、年中同じ服装で過ごすことが出来る。
「零斗も着てみてよ〜。」
朱莉はとても楽しそうだ。
まさか、犯罪者たちと戦わなくてはいけない状況を忘れているわけではないだろうが。
「仕方ないなぁ。ほら、着替えるから向こう行ってて。」
「はーい」と言って、朱莉が間仕切りの向こうへ消えた。
すると、一也が言う。
「あ、そうだ。夕食はあと1時間後ぐらいだそうだぜ。」
「ん、了解。この服着て行くんだろ?」
俺が聞くと、一也は頷いた。
「せっかくだからね。」
「零斗着れた〜?」
間仕切りの向こうから朱莉の声がする。
「ちょっと待てよ。」
「は〜や〜く〜。」
朱莉の調子抜けした声に、俺と一也は思わず顔を見合わせて笑った。
一通りのファッションショーが終わり、夕食の時間になった。
シアンさんの案内でやって来たのは、街で1番という評判らしいレストランだ。何でも色々な種類の料理が楽しめる上に、どれも抜群に美味しいらしい。
「今日は予め歓迎の料理を用意させて頂きました。もし足りなければ、追加で注文してください。もちろん、代金はこちらで支払います。」
そう言うと、シアンさんは「宴会場」と書かれた部屋のドアを開けた。
中に入ると、テーブルにさまざまな料理が並んでいる。
黒豆や栗きんとん、煮物、お雑煮などなど…。
ん?んんん?
犯罪者たちの名前を聞いた時とは、また別のざわめきが広がる。
朱莉と俺は同時に呟いた。
「これって…」
「おせち…だよね…?」
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