第11話 街と都と凶悪な犯罪者たち

「首領たちはそれぞれ、No.1からNo.15までの番号を持っています。私たちが把握している限り、番号が小さくなるに連れて戦闘能力が上がっていくということが言えます。」

つまりNo.1が最も強く、No.15が最も弱いというわけだ。弱いとは言っても、十分に強いのだろうが。

「ではまず、No.15から。悪政の街〈ゲラル〉を治める、ドニク・ヤンセンです。」

俺たち30人が一気にざわつく。

みんなが驚いた顔をしていた。

ドニク・ヤンセンといえばワウリーガという独立国で悪政の限りを尽くし、最終的に軍のクーデターで失脚。終身刑となっていた犯罪者だ。

その残虐な統治が、国際社会から激しい批判を浴びていた凶悪犯なのだ。

「みなさん、ドニク・ヤンセンを知っているのですか?」

シアンさんが尋ねる。

答えたのは美怜だった。

「はい。彼は私たちがここに来る前にいた場所でも、残虐な政治を行っていた犯罪者なんです。」

「そうでしたか…。ではもしかしたら、これから紹介する首領たちも既にご存知かもしれませんね。」

そうしてシアンさんが紹介したNo.3までの犯罪者たちは、そのほとんどが俺たちのよく知る凶悪な犯罪者ばかりだった。

No.14で作家の街〈ラルクル〉の首領、ジェラール・カガ。

世界的な推理作家として有名だったが、多くの凶悪事件のシナリオを書き、犯罪者たちにそれを売っていたことが発覚し逮捕された。


No.13で錬成の街〈ヒブート〉の首領、畑川源三郎はたがわ げんざぶろう

類まれな腕を持つ鍛治職人だったが、作った武器をとにかく高く売るために犯罪組織に売っていた。彼もそれが発覚し、逮捕されている。


No.12で怪盗の街〈ラパニエ〉の首領、ラフィア。

盗みの点では長門シャロンも敵わないとされた稀代の怪盗で、そう被害額はもはや計算不能と言われている。高い身体能力を持ち、警察から何千発狙撃されようとも1発も受けたことは無い。彼は未だに逮捕されていなかったはずだ。


No.11で詐欺師の街〈エクトリカ〉の首領、デノ・ユリアル。

巧みな話術と整った顔立ちで多くの女性を誘惑、世界中で多くの金品を騙し取っていた。確か日本で詐欺にかけようとした女性が婦警で、彼女に逮捕されていた。


No.10で戦犯の街〈ナバユナ〉の首領、アルベルト・ドレア。

さまざまな紛争地域で傭兵をやっていたが、一般人でも構わず殺すことや、戦闘スタイルがあまりに残虐であることから国際的な戦犯として死刑判決を受けた。純粋な戦闘能力でいえば最悪の犯罪者かもしれない。


No.9でスパイの街〈ステレス〉の首領の一人、M《エム》。

彼に関しては名前も素顔も一切分からない。ただシアンさんによると、No.10までのメンバーより上に位置していることから相当な強者に違いないらしい。


No.8でスパイの街〈ステレス〉のもう一人の首領、赤城修司あかぎ しゅうじ

FBIにスパイとして潜入するという、信じられないことをやってのけ一躍有名人となったスパイだ。しかしその後の必死の捜査で逮捕され、判決を待っている状況だった。〈ステレス〉は彼とMが治めているらしい。


No.7で暗殺の街〈アナクトフ〉の首領、ローズ。

「狙われたが最後、逃げる道はない」と言われていた暗殺者だ。殺した人の数は400近くと言われている。ほかの犯罪者たちが変な言い方だが現役であるのに対して、彼はもう6年ほど前に暗殺者を引退している。引退後は、ほかの犯罪者に暗殺の技術を教えているという噂もあったそうだが、本当のところは分からない。


No.6で組織犯罪の街〈アンデオ〉の副首領の一人、デノラ。そしてNo.5でもう一人の副首領、ゼレス。

2人は双子の姉妹で、「ブルーブラッド」という犯罪組織の副リーダーだった。妹のデノラは実践担当、姉のゼレスは頭脳戦の担当だったらしい。「ブルーブラッド」は少数精鋭の犯罪組織で、いくつもの犯罪組織を壊滅させてきた。各国にメンバーがいることから多くの国で被害が出ており、壊滅させるには国際的な連携が必要だとして各国が必死になっていたのを覚えている。


そんな犯罪組織の双子姉妹が慕うのがNo.4で〈アンデオ〉の首領、アドウィン・ケインズ。

一代にして「ブルーブラッド」を世界の犯罪組織の頂点に押し上げた、最強のリーダーだ。統率力が高く慕われており、逮捕された組織のメンバーが決して彼に関する情報をしゃべらないことも有名。組織に敵対するものに容赦することはなく、世界中で恐れられていた。


No.3で科学犯罪の街〈クレデオ〉の首領、デバラフ・ボルニカ。

危険な薬品や兵器を開発し、非人道的な実験を繰り返したことから学会を追放されたマッドサイエンティストだ。一説によれば、核を上回る最強の兵器を完成させたとも言われている。


「エグいメンツだな…。」

俺が言うと、一也も緊張した面持ちで頷いた。

「長門シャロンがただ者じゃないって言うから覚悟はしてたけど…ここまでとはね。」

「それに…シアンさんの話だと犯罪者たちも上級職業習得者スキルワーカーみたいだよ。」

朱莉も付け加えた。

地力が違う。違いすぎる。多少の職業やスキルでどうこう出来る差ではない。

「本当に死ぬ気でやらないと。これは本当にやばい。」

俺の呟きに、両隣りの2人が頷いた。


「では、続いてNo.2。」

そして、シアンさんが語った名前は予想外のものだった。

「罪の都〈アヴァレデオ〉の首領の一人、長門シャロン。」

俺たちが再びざわめく。ドニク・ヤンセンの名を聞いた時よりも、遥かに大きいざわめきだ。

「長門シャロンがNo.2…?」

「長門シャロンはNo.1じゃないの…。」

そんな呟きが、あちらこちらから湧いている。

そういえば、シアンさんは犯罪者たちをずっと「彼ら」と形容していた。

長門がNo.2なら「彼女ら」と形容するはずだ。

今世紀最悪の犯罪者がNo.2。

つまり、それを凌ぐ犯罪者がこの〈エクタデオ〉にいるということになる。


「そして最後がNo.1。罪の都〈アヴァレデオ〉のもう一人の首領。彼に関してもNo.9のMと同様、素顔、本名は分かっていません。ただ唯一分かっているのは、彼が『Phantom《ファントム》』と呼ばれているということです。」


Phantom…怪人か。素性が分からない上に犯罪者の中において最強。Phantomという名前により一層の不気味さが足される。

「以上が、各首領15人です。みなさんが彼らを知っていたのは驚きでしたがその分、彼らの凶悪さを分かって頂けるかと思います。」

俺たちのざわめきは収まらない。

実際に犯罪者たちの名を前にして、彼らが情け容赦のない存在であることを再認識した。

今俺の頭にあるのは、これはやはり「デスゲーム」なのだということ。多分、みんなも同じだろう。

シアンさんが咳払いをして、みんなの注目を集めた。

「今日会ったばかりの方々に、こんなお願いをするのはいかがなものかとは思いますが…。」

少し言い淀んだ後、切実な声で言った。


「どうか、15人の首領たちを倒していただきたいのです。」

そう言って、シアンさんは俺たちに頭を下げた。

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