第9話 議員たちと「再生の街〈ミラクド〉」とPhantom
門の前に、2年5組の30人が立っている。
すると、門が開いて先程の門番が出てきた。
「集まってくれたんだね。ありがとう。」
そして、一通りみんなを見回すと言った。
「申し遅れたけど、僕の名前はエルガ。この再生の街〈ミラクド〉の、門番をやってる。今から来るのは〈ミラクド〉の議員たちだよ。議長のシアンさんを含め、4人の議員が代表してやって来る。もうすぐ来るから少し待っててね。」
どうやら、この街の名前は〈ミラクド〉というらしい。「再生の街」というのは、どういう意味だろう。
俺が尋ねようとすると、門が開いて議員とおぼしき4人が現れた。
男性が3人、女性が1人。
先頭に立っている青髪の男性が、俺たちを見回して話し始めた。
「みなさん、こんにちは。私は、この街で議会の議長をしているシアンという者です。こちらは、議会のメンバー。まずはレイヴィア。」
唯一の女性議員が、前に出て一礼する。
この人がレイヴィアというようだ。
ロングの黒髪で凛々しい顔立ち。
クールな雰囲気が漂っている。
「そして、赤髪のこちらの男性議員がベルス。」
「どうも。ベルスといいます。よろしく。」
赤髪の男性が片手を挙げて挨拶した。
「そして最後がエシーティオです。」
残っていたのは、帽子を被った男性だ。
他の3人が20~30代くらいに見えるのに対し、彼だけは50代くらいに見える。
「エシーティオです。どうぞよろしく。」
彼は帽子をとって深々と一礼した。
一通りの紹介が終わると、再びシアンさんが話し出す。
「議会にはまだ他にメンバーがいますが、ひとまず代表してこの4人でやって来ました。目的は、大変申し訳ないのですが皆さんが不審人物でないかを確かめること。なにせ、30人の武器を持った集団が突然街に現れては住民も怖がります。そこのところは、ぜひご理解頂きたい。」
確かに、突然武器を持った集団が現れては怖いだろう。
さらに、俺たちと議員たちとでは服装も違う。門番のエルガさんは鎧で武装していたから分からなかったが、議員たちの服装は中世ヨーロッパの庶民を連想させるシンプルな格好だ。
対して俺たちは、転移した時の制服だったり、教室に予め置かれていた現代風の服装だったりする。
今の俺たちと議員たちでは、まるで別世界の住民のようだ。実際そうなのだが。
「ただ今こうして会ってみて、皆さんが決して不審な人物ではないことが分かりました。疑ってしまったことは、この〈エクタデオ〉の世界のこの状況を鑑みてどうかご容赦頂きたい。我々も街を守るために必死なのです。」
必死さこそ伝わってくるものの、まだこの街のこともよく分かっていない俺たちにはピンと来ない。
一也が切り出した。
「すみませんが、俺たちはまだここに来て日が浅く、この辺りのこともよく分かっていません。知りたいことがかなりあるのですが、お尋ねしてもいいですか?」
すると、シアンさんはしばし考えたあとこう言った。
「疑問には分かる範囲でお答えします。ただ、街の外で立ち話というのもあれです。街の中に、議会の大きな会議室があります。我々と一緒なら、住民も必要以上に警戒することはないでしょう。そちらでお話するのはどうですか?」
一也が代表して同意した。
「では、それでお願いします。」
「では、ご案内します。あ、最後に一つだけ。くれぐれも、街の中で武器を取り出したりなさらないでください。住民が怖がりますので。」
俺たちが頷くと、エルガさんが門を開けた。
「では、こちらへ。」
こうして俺たちは、再生の街〈ミラクド〉に入っていった。
街の中は、高さの違うカラフルな建物が間隔を開けずに並んでおり、ところどころの建物の屋根には煙突もある。
「ヨーロッパの観光名所にこんなところあったよな?」
俺が聞くと、一也が答えた。
「あぁ。デンマークのニューハウンだな。写真で見たことがあるけど、記憶の限りかなりそっくりだよ。」
「そうそう、それだ。俺も見たことあるけどほんとに似てるよな。」
「私たちが今歩いているのが、〈ミラクド〉を十字に走る道のうち南北に走る道です。もう少しでぶつかる東西に走る道がこの街のメインストリートで、市場やさまざまな店が並んでいます。わずかですが鍛冶屋なんかもありますよ。」
シアンさんが説明してくれる。その説明の通り、少し歩くと大きな交差点に出た。
「ここを右、東側に行くと市場やなんかがあります。会議室は左、西側です。」
メインストリートと言うだけあって、活気が溢れている。多くの店が立ち並んでいるが、売る側も買う側もとても楽しそうだ。
服装が違うこともあって時々視線を感じるのだが、議員たちと一緒だからかスムーズに進むことが出来た。
「こちらが、議会ホールです。会議室はこの中にあります。」
シアンさんが示す先には立派な建物がある。
ただ、他の建物がカラフルであるのと同様、議会ホールもパステルカラーのピンク色となんだかかわいい雰囲気だ。
実際、女子からは「かわいい〜」という声が上がった。元の世界なら、写真を撮って即ネットに上げているところだろう。
「どうぞお入りください。」
シアンさんがドアを開けてくれた。
30人でぞろぞろと議会ホールに入っていく。
全員が入ったのを確認して、シアンさんがドアを閉じた。
時は少し遡って、神栖零斗たちが〈ミラクド〉の街に入っていった頃。
「ふふっ、ようやくあの子たちが〈ミラクド〉に入っていったわね。」
ワイングラス片手に、モニターを見つめているのは長門シャロンだ。
ここは、長門シャロンが普段暮らしているとある建物の一室。中央には大きなテーブルがある。
神栖零斗たちの前に、モニター越しで現れた時とはまた別の部屋だ。
「やっとか。待たせやがって。」
ここにいるのは長門だけではない。
長門以外に14の影が、テーブルを囲んでいる。
そう、この世界で神栖零斗らが戦う相手。
15人の犯罪者たちだ。
「でもよぉ。まだ殺しに行っちゃダメなんだろぉ?」
一つの影が不満そうに声を上げた。
「ええ、そうよ。まずは、あの子たちがどこかの街へ攻略に出るのを待つ。そうだったわよね、Phantom《ファントム》?」
Phantom《ファントム》と呼ばれたその影は、少し間を置いて答えた。
「そうだ。まだ待つ。やつらが本気で俺たちを殺しに来るまでな。その時までは、この俺たちの天下を楽しもうじゃないか。」
「ククク」と、気味の悪い笑い声が上がる。
一つの影が言った。
「間違いねぇな。どの道やつらは俺たちの手で殺すんだ。遅かれ早かれな。」
別の影も声を上げる。
「この天下取ってる状況も悪くないしな。なかなか爽快だ。」
その姿を満足気に見つめると、長門シャロンは言った。
「さてさて、このデスゲーム。処刑戦線はもうまもなくキックオフよ。」
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