第8話 門番と職業習得者《ワーカー》と上級職業習得者《スキルワーカー》

「さて、問題はどの方角に進むかだな。」

森を抜けることを決め、教室の外に出た俺たちは今、進路を検討しているところだ。

「俺たちBパーティーは、東の結構奥の方まで進んだけど何も無かったぞ。」

そう言ったのはBパーティーの長剣使い、那珂優也なか ゆうやだ。

続けて、

「私たちDパーティーは、北をメインに戦ってたけど北も特に何も無かったよ。」

とDパーティーの回復士、鉾田月美ほこた るみ

「俺たちは、西をメインにしてたけど特に何も無かったな。」

俺も付け加える。

「となると、残りは南か。」

南はCパーティー、Eパーティーがメインにしていた場所だ。

「ほら美紅、何か見たって言ってなかった?」

Eパーティーの長剣使い、結城美紅ゆうき みくに尋ねたのは同じくEパーティーの回復士、羽島花蓮はしま かれんだ。

「お、美紅。何か見たのか?」

一也が聞くと、美紅は口を開いた。

「見間違いだったらあれなんだけど…。初めの頃に、森の奥まで行ったら街が見えた気がしたの。すぐにモンスターが現れちゃって、ちゃんと確認出来なかったんだけど…。」

街か。

「それが、長門が言っていた街かもしれないな。」

俺が言うと、一也も頷いた。

「じゃあ、進路は南!!いいかな?」

一也の声に異議を唱えるクラスメイトはいなかった。

てか、今「いいともー!!」とか言ったの誰だ。

緊張感がないな。おい。

笑ってしまった俺も大概だけど。


森を抜けるのに、大した苦労はかからなかった。

半年の間に磨きあげられた各自のスキルや、各パーティーの連携はそれはもう見事だった。

「ここは、Aパーティーが!」、「じゃあ次は、俺たちEパーティーが行く!」というように分担して出来たので、ほとんど疲労もない。

出発から約1時間半。

ようやく森を抜けた俺たちが目にしたのは、高い城壁に囲まれた街だった。


「とりあえず、あそこが門みたいだな。」

一也の指さす先には、槍を持った男性が立っている。おそらく、門番だろう。

「じゃ、行くか。」

歩き出そうとした三南人を、一也が制止した。

「いや、待て。あの街にも、犯罪者がいるかもしれないし、いきなりこの人数で行っては不審がられる。何人かで様子を探ってみよう。」

一也の意見に俺も賛成だった。みんなも異議はないようだ。

「誰が行く?」

俺が聞くと、一也は少し考えた後こう言った。

「万が一、あの門番と戦闘になった時のことを考えると、パーティーで行ったほうがいいと思うんだ。ここは、Aパーティーで行くのはどうかな?」

みんなも納得しているようだ。頷いている。

「あくまでも、目的はあの街がどういう街なのか知ることだから。あまり、殺気立たないように気を付けよう。」

一也の指示に従って、俺たちは500mほど先の門へ歩き始めた。


門まであと50mぐらいになって、門番も俺たちに気が付いたようだ。

こちらにじっと視線を送っている。

そして、俺たちは門番の前に辿り着いた。

「どうも。こんにちは。」

一也が門番に話しかける。

「あぁ。こんにちは。君たち、どの街から来たの?」

門番はにこやかに問いかけてきた。少なくとも、敵としては認識されていないようだ。

「えっと、街というかあの森を抜けて来たんですが…。」

すると、門番は驚いて目を見開いた。

「え?あの森を?でもあそこは、恐ろしい魔物がたくさんいる森だよ?そこを抜けて来たのかい?」

「はい。何とか。」

「それは驚いたな…。ひょっとして、君たちは職業習得者ワーカーなのかい?」

職業習得者ワーカー。初めて耳にする言葉だ。

職業習得者ワーカーって何ですか?」

一也が聞くと、門番は改めて目を見開いてみせた。

「え、知らないのか。あの森を抜けてきたって言うから、てっきり職業習得者ワーカーだと思ったのに。職業習得者ワーカーって言うのは、戦闘に適した6つの職業のどれか1つ、もしくは複数を習得した人のことだよ。初めて聞いたかい?」

6つの職業。おそらく、短剣使いとか空間移動士とかのことだろう。職業習得者ワーカーという単語は初耳だが、そういうことなら俺たちは立派な職業習得者ワーカーだ。

「単語自体は初耳ですけど、そういった職業なら俺たちは持ってます。」

俺が答えると、門番は納得したように頷いた。

「やはりそうか。職業習得者ワーカーでもない限り、あの森は抜けられないよ。それにしても、職業習得者ワーカーが初耳だなんて君たちはどこの街の出身なんだ?」

そう尋ねた後、門番は慌てて付け加えた。

「あ、いや。嫌ならいいんだ。そういうルールになってる。少し、デリカシーが無かったね。すまない。」

なぜ謝られたのか分からない俺たちは、困惑してしまった。

まさかこの状況で、「異世界転移して来ました。」などと言っても信じて貰えないだろう。

どう答えるべきか迷っていると、美怜が言った。

「私たちは、森のもっと北の方の街から来ました。なので、この辺のことがよく分からなくて…。」

上手く誤魔化せただろうか。

「北の方…。ひょっとして、君たちは上級職業習得者スキルワーカーなのか?いや、上級職業習得者スキルワーカーなんて言っても分からないか。えっと、何かスキル、特別な能力みたいなのを持ってたりしないかい?」

スキル…ってあのスキルのことだろうか。

「多分、持ってます。」

俺が言うと、門番は目を輝かせた。

「そうか、やはり君たちは!あ、いや、すまない。興奮してしまった。軽くでいいから、スキルを何か見せて貰えないかな?」

「どうしよっか。」

俺たちは相談する。

「俺の防御破壊ガードブレイクや、美怜の閃煌せんこうはモンスター相手じゃないと使えないし…。朱莉の分離セパレーションならいけるんじゃないか?」

「私でよければやるよ。」

と朱莉。

「よし決まりだな。」

朱莉が弓矢を準備している間に、俺が門番に説明する。

「じゃあ朱莉、弓矢を持った彼女がスキルを披露します。」

門番は興味深げに、朱莉を見つめている。

「彼女は狙撃手なのか。」

「ええ。そうです。」

朱莉が振り向いて言った。

「準備、出来たよー。」

「いつでもどうぞー。」

俺の声に頷くと、朱莉は弓を構えた。

そして城壁の反対側、森の方へ軽く矢を放つ。

矢が10mほど飛んだところで、あかりがスキルを発動した。

分離セパレーション三角形トライアングル!」

以前の正方形スクエアと違い、今度は矢が4本に分離する。

初めの矢を中心に綺麗な正三角形を作った矢は、そのまま200mぐらい飛んで地面に落ちた。

朱莉が戻ってきて門番に言う。

「軽く放ったのであんまり距離は飛んでないですけど…。どうでした?」

見ると、俺の横にいた門番はこれ以上無いほど驚きが顔に表れていた。目をこれでもかと見開き、口もあんぐり空いている。

人間、驚いたら本当にこんな顔になるんだなと思わず感心してしまった。

門番は、はっと我に返るとこう言った。

「いや、驚いたよ…。これだけのスキルなら、あの森を突破するのも余裕だっただろう。これだけのスキルを見たのは久しぶりだ。いや、見事だった。」

朱莉が照れたように俺を見てきた。

「よかったよ。」

俺がそう言うと、朱莉は満面の笑みで「うん」と頷いた。

「君たちのほかに、まだ仲間がいたりするかい?」

門番の問いに一也が答える。

「ええ。クラスメイト…じゃなくて仲間があと24人います。」

すると、門番は急に真剣な表情になって言った。

「合計30人か。やはり。議会に報告せねばいけないな。」

「議会だって。私たち、何かしたかしら?」

柚杏が囁きかけてきた。不安そうな表情だ。

「いや、朱莉のスキルも喜んでくれていたし…。何も、怒らせるようなことはしてないと思うよ。」

俺も囁き返す。

「その仲間全員をここに連れてこられるかい?こちらも、街の代表者に報告して来てもらう。是非とも、君たちの力を借りたいことがあるんだ。」

門番の表情は、今までと一転して深刻そうだ。

「分かりました。では、仲間を連れてきます。」

一也が言った。

「ありがとう。こちらも、代表者を呼んでくる。先に着いたら、この門の前で待っていてくれ。」

そう言うと、門番はいそいそと街の中へ入っていった。

「じゃあ、俺たちもみんなを呼んでこよう。」

一也が歩き出す。

俺たちも後を追った。

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