第5話 脱出条件と職業と外の森
長門は、俺たちがこの絶望的な状況を明確に認識したか確かめるように、じっと俺たちを見回した。
そして、再び話し始める。
「分かってくれたかしら?まぁ、どの道あなたたちが私たちに殺されることは、目に見えているのだけれど。」
そう言って「ふふっ」と笑みをこぼす。今度は誰も何も答えなかった。
「ただし、もしあなたたちが私たちを全員倒すことが出来れば。」
その口調から「まぁありえないけどね。」という、長門の思考が伝わってくる。
「その時生き残っていたメンバーは、元の世界に帰還させてあげる。それが、あなたたちに課せられたこの世界からの脱出条件よ。」
そして、空になっていたグラスにワインを注いで喉に流し込む。
長門は、本当に負ける気がないのだろう。
だからこそ、このとてつもなく重大な説明もどこか気だるげに、そしてどこか楽しそうに、酒を飲みながらやっているのだ。
「ただし。」
ワイングラスを再び空にすると、長門は続けた。
「今のあなたたちがいきなり向かってきたところで、私たちには敵いっこない。それは分かるわよね?」
悔しいが、その事実は認めるしかない。
俺は小さく頷いた。
「そういうわけで、せっかくなので異世界らしくあなたたちに力をあげちゃいまーす。」
力…。炎の魔法とかそういうことだろうか。
「まずは、各自の身体能力の一定数の向上。どれくらい高くなったかは、後で外で試してみてね。それから、6つの職業を選択させてあげる。それぞれの職業に応じて特殊な能力が身につくわよ。」
なるほど。まずはそれぞれの基礎的な力を高めた上に、特殊な能力で上乗せするというわけだ。
「6つの職業は、次の通り!」
長門の声と同時に、モニターの画面が切り替わった。
今画面に映っているのは、プレゼンなんかで使われるスライドのような画面だ。
声だけになった長門が説明する。
「1つ目は長剣使い。文字通り長剣を使って戦う職業で、筋力と敏捷性がさらに向上。攻撃系の特殊な能力、まぁスキルみたいなのが身につくわ。」
「2つ目は短剣使い。短剣2本を使って戦う職業で、敏捷性と瞬発力がさらに向上。攻撃系のスキルや回避系のスキルが身につくわ。」
「3つ目は盾使い。盾を使って戦う職業で、一応短剣も配布されるわ。ただし、短剣は1本だけ。筋力と持久力がさらに向上し、防護系のスキルが身につくわ。」
「4つ目は狙撃手。弓を使って戦う職業で、筋力と瞬発力がさらに向上。これは、その名の通り狙撃系のスキルね。」
「5つ目は回復士。これは戦うというより、味方の回復をメインにする職業ね。体力と敏捷性が向上。回復系のスキルよ。」
「6つ目は空間移動士。味方や自身、アイテムや武器なんかを自在に移動できる。これはちょっと超能力っぽいかしら。持久力と敏捷性が向上。スキルによって、短い距離で正確に移動させたり、とにかく長い距離を移動させたりと色々幅があるわ。」
6つの職業の説明が終わると、画面は長門の姿に戻った。
「以上、6つの職業の中から好きなのを選んでいいわ。ただし、一度決めてしまうと変更は出来ないので注意してね。あ、そうそう。」
何かを思い出したかのように呟くと、長門は「パチン」と指を鳴らした。
すると俺たちそれぞれの前に、スマートフォンのような端末が出現する。
「異世界もデジタル化ってことで、みんなにスマホをあげるわ。これでそれぞれ連絡を取り合えるから。あ、もちろん、元の世界との連絡は取れないけどね。」
ここまで来ると、異世界というよりVRMMORPG感が強いが、召喚した本人(と思われる)長門が異世界というのだ。異世界なのだろう。
スマホの画面をタッチしてみると、先程の6つの職業が表示された。
「職業が決まったら、それに入力してね。それで決定になるから。命に関わる決定なんだから、慎重にするのよ。」
その一言で、「盾使い」を選ぼうとしていた隼翔が慌ててスマホの電源を切る。
おい。もっと慎重になれ。
「とりあえずは、森の中に色んなモンスターを用意したからそれと戦ってみるといいわ。私たちと戦う準備が出来たら、森を抜けた先にある街に行きなさい。私たちと戦うのは、それからよ。」
つまり、窓の外から見たあの森はレベル上げ用のクエストのようなものだということだ。
ますます、ゲーム感が強くなっている。
「じゃあ、最後に一つだけ。あんまり、待たせ過ぎないでね。準備に時間をかけ過ぎると、痺れを切らして殺しに行っちゃうかもよ。」
そして、不敵な笑みとともにモニターの映像は途切れた。
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