第6話 涙と決意と職業選択
真っ暗になったモニターの前で、俺たちはしばらく立ちつくしていた。
沈黙を破ったのは一也の咳払いだ。
みんなの視線が一也に集中する。
軽く上を見上げたあと、一也は話し始めた。
「まぁ…正直信じられない状況だし、俺自身もすごく怖いけど。」
一つ一つの言葉を、慎重に選びながら話しているのがよく分かる。
「この場合では、職業を選んで外に出てみるしかないと俺は思う。」
俺はじっと黙って、一也の声を聞いている。
中には、おそらく泣いているのだろう、肩を震わせて俯いているクラスメイトもいる。
「何でこんなことに…。」
誰が発したか分からないその呟きは、まさに30人全員の気持ちを代弁したものだった。
「一度、座って落ち着いた方がいいんじゃないか?」
俺は声を上げた。何せ、長門がモニターに現れて以来ずっと立ちっぱなしだった。その間、ずっと明確に生死を意識させられる話を聞かされていたのだ。身体的な疲労ももちろんだが、精神的な疲労が圧倒的に激しい。
「零斗の言う通りだね。そうしようか。」
一也の一声と共に、全員が腰を下ろした。
「まずは、今の時点での問題点を整理するところから始めるのがいいんじゃないかな?」
美怜の声に一也が頷く。俺も同意見だ。
「問題点ならもう分かりきってるだろ。俺たちが殺人しなくちゃ帰れないってことだ。」
三南人が吐き捨てるように言った。
「やはりそこだよな。」
誰しもが認めたくない。だが事実だ。一也の声色も明らかに暗い。
「何とか…何とか殺さないで帰る方法は無いのかな?」
朱莉が声を上げた。確かに出来ることならそれが一番だ。しかし、
「多分厳しいんじゃないかな。相手は何人も殺してきてる犯罪者だよ。その相手が殺す気で来てるのに、俺たちがなんとか殺さないで勝とうなんて考えで戦ったら確実にやられる気がする。」
俺も、自分で言っていて思わず吐きそうになった。今の発言は、間接的に生きるための殺人を肯定したと同じだ。
「悔しいけど、零斗の言う通りであることは間違いないね…。」
一也の声色はより暗くなっていた。
「クソが。」
三南人が呟いた。その顔には、やり場のない怒りがこれ以上ないほどよく表れている。
誰かがすすり泣く声が聞こえた。
座った時に離れた朱莉の手は、再び俺のワイシャツをより強く握っている。
その手は明らかに震えていた。
朱莉の目からも、涙がこぼれ落ちている。
朱莉に微笑みかけようとしたが、上手く出来ない。とても、笑顔を作ることは出来なかった。
再び、30人の間を悲痛な静寂が流れる。
今度その静寂を破ったのは、美怜だった。
「正義の味方とやらになってやろうじゃん!!」
立ち上がり、大粒の涙を流しながら。
震える声で、しかしはっきりと。
美怜はそう叫んだ。
そして続ける。
「本当に殺さなきゃ生きれないのかとか、殺されたら死ぬのかとか、そんなの実際なってみなきゃ分かんないよ!もしかしたら、殺して生きても後悔するかもしれない!でも、それでも!」
「私はみんなと元の世界に帰りたい!またみんなでカラオケ行ったり、授業受けたりしたい!!」
そう言って上げた美怜の顔は、涙でもうぐしゃぐしゃだった。肩で息をしている。
その美怜の必死さは確かに、俺も含めた全員の心を打っていた。
「俺もだ!俺もみんなと帰りたい!」
「私も!みんなで帰ろうよ!元の世界に!」
美怜の決意がクラス全体に伝染し、気付けば全員が立ち上がっていた。
みんなが涙を流している。
俺もいつの間にか泣いている。
でもそれは、絶望の涙ではなかった。
俺のワイシャツを握る朱莉の手はもう震えていない。
代わりに握る力がより強くなったのは、必ず帰るという覚悟の表れだろう。
さっき作れなかった笑顔も、今なら作れるかもしれない。
俺が朱莉の方を見ると、これまた涙でぐしゃぐしゃの顔をした朱莉が微笑みかけてくる。
自然と俺も笑顔になった。
「決まりでいいかな。」
一也がみんなに問いかけた。
全員が力強く頷く。
今俺たちは、この世界から必ず30人全員で脱出することを誓ったのだ。
「それじゃあ、開けるよ。」
ドアに手を掛けた一也がみんなに確認する。
覚悟を決めた俺たちは、それぞれ職業を選択した。6つの職業にそれぞれ5人ずつ。
俺が選択したのは短剣使いだ。
例のスマホから短剣使いを選択すると、スマホの時と同様に目の前に短剣が現れた。
俺は今それを、両手に1本ずつ持っている。
「カチャ」という音と共に、ドアが開いた。
外から光が射し込んでくる。
「特に何もいないみたいだな。出ても大丈夫そうだよ。」
顔だけ出して外を見回した一也の声で、みんながぞろぞろと外に出て行く。
俺も朱莉や美怜、竜二と共に外に出た。
朱莉は弓道部だったことから狙撃手の職業を選択し、弓矢を持っている。
外の空気は、すぐそばにモンスターのいる森があるとは思えないほど清々しく、気持ちが良かった。
空気自体は明らかに元の世界より綺麗だ。
ただ、確かに目の前には大きな森が広がっていた。
「帰れるよな。」
いつの間にか隣に来ていた一也が呟く。
「帰らなきゃな。」
俺たちは顔を見合わせてにっこり微笑んだ。
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