第2話 理科室とモテ女と火災報知器

クラス全員が集まっての歓迎会(兼カラオケ大会)のおかげで、俺はすんなりとクラスに溶け込むことが出来た。


元々、クラス全員が男女分け隔てなく仲良しであったことや、俺自身も仲良くなってしまえばかなり喋る方だったことが幸いし、4月、5月と、とても楽しい学校生活を送ることができた。




そして迎えた6月の第2水曜日。今は理科室への移動中だ。


「いやぁ…暑いねぇ…。」


一也の弟、高松竜二たかまつ りゅうじがボヤく。


ちなみに高松家は、三男の高松三南人たかまつ みなとを含めた三つ子だそうだ。初めて聞いた時は驚いたが、あまりにそっくりなので納得してしまった。


「おまけに、工事の音うるさいしね〜。」


笠間隼翔かさま はやとが付け加える。


俺は一也や竜二、隼翔なんかと移動することが多い。


隼翔の言っている「工事」とは、今週から始まった火災報知器の交換工事のことだ。


なんでも、今VRMMORPG開発の最先端を行く企業「Magic Games」が先日買収した「石川工業」の最新製品だそうで、大規模な試験運用をするにあたって北浦高校が選ばれたそうだ。


「でも理科室を真っ先にやってくれたおかげで、三木先生の授業が受けられるな。」


三木先生は物理の男の先生で、実験を多く取り入れた楽しい授業をするので人気がある。


「まぁそれは良かったよな。」


俺の言葉に竜二が同意する。


「物理の実験は潰されたくないしね。」


隼翔も頷いた。




理科室に着くと、三木先生が実験用具の準備をしていた。


「おはようございま〜す。」


俺たちが挨拶すると、三木先生はこっちを振り向いて挨拶を返してくれた。


「おはよ〜。」


そして準備室に入っていく。


俺たちもそれぞれの席に着いた。




授業が始まって5分くらいが経った。


今は各班で実験の準備をしているところだ。


「零斗〜。これ持ってった?」


ビーカーを片手に聞いてきたのは城里朱莉しろさと あかり


同じ班の女子で、クラスの女子の中でもよく喋る方だ。


「あ、持ってきてないや。持ってきて〜。」


「オッケー。」


朱莉からビーカーを受け取ると、他の実験用具を取りに行っていた美濃風優みの ふう桜川美怜さくらがわ みれも戻ってきた。


風優は名前も見た目もすごく女の子らしいのだが、純然たる男子。いわゆる「男の娘」みたいな感じだ。


美怜はクラスの中で一也に次ぐ頭の良さで、テニス部のレギュラーという漫画の主人公みたいな女子。それでも性格も良くて、勉強を教わることもある。


「それじゃあ、始めようか。」


美怜の声で俺たちは実験を開始する。


今日の実験は何も難しいことは無いらしく、三木先生いわく「失敗する方が難しい」そうだ。


「まずは、ビーカーに水を入れて…」


俺が蛇口をひねったと同時に、教室にある内線電話がなった。


三木先生が応対する。


「はい。三木です。」


1分ほど話した後、三木先生が言った。


「すまん、みんな。ちょっと先生職員室行かなきゃ行けなくなった。簡単な実験だからそれだけやって、ノートにまとめて待ってて。」


そう言うと、三木先生は理科室を出て行った。




実験を終え、ノートにまとめた俺たちは片付けをしていた。隣では、朱莉がビーカーを洗っている。


「三木先生、どうしたんだろうね?」


朱莉が聞いてきた。


「分かんないけど…クラスで早退する人とか出たんじゃない?」


「あぁそうかもね。うん。」


「うん」のところで、朱莉は大きく頷いた。


言い忘れていたが、朱莉は結構かわいい。


綺麗と言うよりは、かわいいの部類に入るのだろう。目もクリっとしていて、薄い茶髪にはほんのりウェーブもかかっている。


そして見た目だけじゃなくて、今の「うん」みたいな仕草なんかもかわいい。実際結構モテるらしい。


え?俺はどうかって?今は内緒にしとこうかな。




そんなこんなで雑談をしつつ片付けを終えると、何やら「ウィィーン」というモーター音のような音がし始めた。


どうやら、新設された火災報知器からの音のようだ。


「変な音だね〜。」


火災報知器を見上げながら朱莉が言った。


火災報知器は丸い形状で色は白、中央に赤いランプが灯っている。


ふとモーター音が強くなったかと思うと突然、教室中が眩しい光で満たされた。


それはもう目を開けられないレベルだ。


不意をつかれた俺は、思わず倒れ込んでしまった。


「なんだこれ!」


「うわっ!目がっ!」


クラスメイトも、何が起こっているのか分からない状況だ。


目を閉じていても、光が眩しい。


相変わらず、モーター音はうるさく鳴り響いている。


何だこれは。何なんだ。


激しい光に思考も停止してしまい、何も考えられない。


頭にあるのは「何が起きているんだ」という疑問だけ。


その状態が3分程続いたのだろうか。


あるいは30秒だったのかもしれない。


ただ一つ言えるのは、固く瞑っていたまぶたを開いても眩しさを感じなくなったということだ。


モーター音は止まり、教室を満たしていたあの光は消えていた。


そして代わりに、灰色が理科室中を覆っていた。

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