Different World War

全てをかけた戦い

第81話

哨戒機は昼夜を問わず多数が監視活動を行っている。境界線が広くなりすぎて人工衛星による監視網はかなり穴だらけになっており、哨戒機による監視も必要になったのだ。


「こちらポセイドン隊6番機、定期報告、異常無し」


『こちら司令部、引き続き監視活動を継続せよ』


「了解」


アメリカ海軍が冷戦期から使われているP-3Cの代替として導入しているP-8ポセイドン哨戒機は、8,700kmと前任機よりも長大な航続距離を生かして広範囲を監視していた。


P-8は戦闘行動半径だけであればP-3Cよりも小さいが、今回の任務はただ海面を見ているだけでよいため、問題ではない。


「それにしても、随分広がったもんだ。最初は1キロもなかったっていうのにな」


「指数関数的という言葉の恐ろしさだな。山場をこえた途端に爆発的に大きくなってく」


プロペラを回すターボプロップであった前任と違い、ターボファンエンジンのキーンという甲高い音を撒き散らしながら、P-8哨戒機は飛んでゆく。


「うん・・・?洋上に影を確認!」


「敵艦隊か?」


「遠くてちゃんと確認できん。3時の方向に向かってくれ」


数分後、P-8哨戒機の搭乗員の眼下には、無数の帆船がひしめいていた。


彼らを守るように展開している金色のバリアは、非常に小さくなっていた。もはや艦隊の1割も守れていない。


「司令部、司令部、こちらポセイドン隊6番機、目標を視認、繰り返す、目標を視認」


遂に地球圏の存亡をかけた戦いが始まった。



カナダ連邦 ガンダー空軍基地


第2波に備え、東方海に最も近いガンダー空軍基地は、大規模に拡張され、膨大な戦力を受け入れていた。


ホームベースとしているカナダ空軍に、アメリカ空軍はもちろんの事、メキシコ空軍もいる。あらゆる兵力を総動員しての迎撃体制である。


「ポセイドン隊が目標を発見しました」


「直ちに攻撃隊を出動させろ、出し惜しみは無しだ。弾薬は気に止めるな」


基地中のあらゆる航空戦力が滑走路へと搭載できるだけのミサイルを積んで管制塔の指示に従い離陸してゆく。


P-8やP-3Cといった大型機から、F-16等といった小型機まで勢揃いで出撃である。


『オライオンリーダーから司令部、攻撃地点まで残り・・・』


「ファルコンチーム、貴隊の攻撃方位は・・・」


司令部は各隊からの定期報告と誘導でてんやわんやしている。莫大な戦力を動かす大規模紛争が鳴りを潜め、小規模な低強度紛争が続くばかり、そして転移後での最大級の軍事作戦でも、動いたのは今稼働している戦力の1/10に匹敵する程度だ。


久方ぶりとなった冷戦期級の部隊運用を前に、オペレーターは振り回される事となった。



??? ???


「ああ、素晴らしいね、僕の文明を前に、傲慢なあいつらは擂り潰されていくんだ」


偉大な神である僕がわざわざ呼び出してやったというのに、僕の世界の規則に従うどころか、僕の作り上げた美しい世界に勝手にメスを入れる始末。


こんな自分を僕と同じ神だと勘違いしている傲慢に育ってしまった文明は真の神である僕が天罰を与えなければならない。


以前の戦力ではどうやら彼らにぶつけるには少し物足りなかったらしい。


今度は僕自身に加え、以前の2倍以上の戦力を用意した。これなら、彼らが開発しているよくわからない新兵器の開発は遅れに遅れて僕への攻撃はないだろうし、できても僕たち神に効果があるわけがない。


「ん・・・?」


おかしいな。僕の忠実な兵士たちにはきちんと結界をつけてあげたはずなのに。どうして彼らの飛行する槍が当たっているんだ?


結界発生装置は僕の作り出した偉大な物質、魔素を周囲の空間から吸って自働で動き続けるはずなんだけど・・・。


うーん、すこし魔素の濃さを調べてみようか。もしかすると、彼らのいた世界は魔素が薄い世界なのかもしれないしね。


・・・・・・あれ?魔素が全くない?どうしてだ?



エストニア アマリ空軍基地


かつてNATO軍の航空基地であったアマリ空軍基地は、現在はかつてとうってかわってロシア空軍が借り受けていた。


転移に巻き込まれたNATO軍は軒並みアメリカにかっさらわれていってしまったが、どのみちロシアと付き合わなければならないバルト三国はロシアのあしらい方をわかっており、旧ソ連構成国と友好関係を作ろうと融和的な態度となったロシア側の動きもあって、特に使用者交代も起こらず、アマリ空軍基地は数年後に封鎖される事になっていた。


しかし、異世界全てとの戦争はこれら全てを吹き飛ばし、アマリ空軍基地はユーラシア国連空軍の重要拠点の1つとされ、多数のロシア空軍機をはじめとする各国の空軍が集結していた。


「哨戒部隊から通報、敵船団を認める!」


「全部隊を戦闘態勢へ!どんどん出撃させろ!」


エストニア、リトアニア、ラトビアの3国の空軍は作戦機を保有していない。しかし、地上の機材は元々NATO空軍の基地であったことで多数存在する。幾つかロシアやウクライナに発注して変えなければならなかったものもあるが、強力な基地能力を持っている。


Tu-22MやTu-160をはじめとする大型の爆撃機が次々に出撃していく。空中給油機が少なく、十分な給油作業ができないため、スホーイやミグは航続距離を延長できないのでまだ出撃しない。


Tu-160はKh-55系列の巡航ミサイル、Tu-22MはKh-32またはKh-15を装備して出撃した。前回同様、Tu-22Mの搭載する高火力・高貫徹力・高破壊力のミサイルで重装甲艦を浮き飛ばした後に、比較的低威力の巡航ミサイル・対艦ミサイルで残りを吹っ飛ばす作戦である。


「しかし、随分と重装甲の船が増えたようだな。厄介なことだ」


「問題ありませんよ、未だに結界のなかにいるのを除けば、我々のミサイルが破壊できないものはありません」


「最大の問題は陸戦だな・・・」



??? ???


あいつらの世界に魔素がないのには驚いた。一体どうやって僕たち神々が創造した魔素なしで世界が維持できているのか。


いや、そんなことは今はどうでもいい。魔素不足で結界は小さくなっているけど、以前よりも遥かに優れた僕の創造物を持ってきたんだ。あいつらの槍も今回は1つとして僕のモノを傷つけることはできない。


おや、どうやら遂に槍を撃つらしい。無駄なことなのに、健気なことだ。


「なっ・・・!」


そんなバカな、あの船は最も分厚い鉄板で守られているんだぞ。あんな簡単に破壊されるなんてあり得ない!


あんな・・・あんなちゃちな速いだけの槍が、僕の、僕の文明が作ったものを破壊できるわけがない・・・!


そ、そうだ、きっと東に向かっている連中は魔術師が少ないから迎撃できていないだけ、西の方にはたくさん魔術師を乗せてある。こいつらなら・・・。


「そ、そんな・・・」


どうしてだ!?あいつらの言うれーざーとやらすら出せる魔術師をたくさん乗せているというのに、どうして撃ち落とせないんだっ!


なぜだっ!



ハワイ 国連太平洋艦隊


ハワイに集結した米露連合艦隊は、南極を通っての任務は、南極からジリジリと迫りくる巨大ヒューマノイドの護衛を破壊し、ハワイに設置された陽電子爆弾搭載のミサイル発射システムが巨大ヒューマノイドを消滅させる道筋を開けることである。


ハワイからは住民の疎開が進んでおり、代わりに軍事拠点は大幅に強化された。軍艦が停泊可能な港湾は大きく拡張され、疎開にともない顧客を失ったホテルの多くは軍人のために提供された。


艦隊司令部では何度にもわたって作戦会議が行われ、どのようにしてあの巨大ヒューマノイドの護衛を粉砕するか議論していた。


「最大の問題はあのバリアの性能が良くわからんということだ」


「東西から大攻勢してる連中とは違うやつなんだろう?性能が高いのか低いのか。できれば低い方が都合がいいが」


仮に性能が高くても、既に付け入る隙は既に見つけている。何故かはわからないが、バリアは水面を防護していないことがわかっている。


ちょうどいい位置から潜水艦発射型のミサイルを発射すれば、結界内部にミサイルを忍び込ませることができる。しかし、攻撃を担う潜水艦はただで済むかわからない。


わざわざロシア海軍が通常動力のラーダ型潜水艦をつれてきたのはその為だ。原子力潜水艦は撃沈された場合、放射性物質を撒き散らすことになるが、ディーゼル・エレクトリック方式のラーダ型はディーゼル燃料で済む。


「一先ずは対艦ミサイルと巡航ミサイルによる飽和攻撃を試すしかないな・・・」


彼らのための装備は各地から航空機で送られてきている。燃料備蓄もハワイにはたっぷりある。決戦のための準備は着々と進められていった。

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