第77話
国連安保理
戦争体制に移行して以後、両大陸国連軍の軍事連絡会議として機能している安保理では、1つの大きな議論が行われていた。
核兵器の使用に関する議論だ。敵の生産能力を破壊し、戦争継続を困難とするという戦略的破壊という考え方は第二次世界大戦で一定の効果を持つということが判明している。
ドイツへの連合軍による昼夜の戦略爆撃はドイツ産業にダメージを与え、それに加えてルフトバッフェは重厚な戦略爆撃機が組むコンバットボックス相手に疲弊していった。
核兵器による攻撃はもっとも効率的な戦略的破壊といえるだろう。極めて広範囲の、修復困難な物理的破壊、及び放射線による一定期間の汚染。
極めて優秀だ。しかも、第二次世界大戦時に爆弾を運んだ重爆撃機と違い、じんt弾道ミサイルや長距離巡航ミサイルといった
「しかし、本当に核兵器を使用すべきかね、倫理的には・・・」
「相手はただのたんぱく質の塊だ。ミサイルで顔も見ないうちに殺すのと同じではないか」
「核兵器の使用する自体に倫理的な問題がある!」
「この非常時に少しでも我々が生き残るための行動をとるべきだ!」
結局最後までこの日も結論が出ず、結果は次の日の投票に持ち越しとなった。
しかし、その前に大きな事件が発生する。
「こちらが4時12分の、そしてこちらが4時13分の写真です」
「なんだこれは?巨人か?一体何者なんだ?」
「それだけではありません。こちらは例の巨人が確認されてから13分後に撮影されたものです。ご覧ください」
スクリーンの写真が切り替えられる。その写真は中央はまるで爆発したかのようなクレーターが映り、周りには海が広がっている。
「ん?これは・・・クレーターか?こんな地形があったか?」
「あったとしてもこんなに大きなものは異常ではないかな」
「それで結局、このクレーターは一体?」
「前後に各地の衛星が確認した映像、画像を解析した結果・・・例の巨人から何らかの『攻撃』によってクレーターとなったと考えられています」
「攻撃?具体的には一体どういった?」
再びスクリーンが切り替わる。今度は映像のようだ。最初に見えているのはかのフィルッツの首都、ケルトランが存在している島。
時刻が4時12分50秒と表示された時、画面左、西側から巨大な光源が島へと投射され、4時13分4秒にはフィルッツは消滅していた。
「これは、そう言うことか」
「敵にも戦略兵器が存在していたのか、それもこれほどの」
フィルッツの存在する島を完全に破壊するためには、かの有名なツァーリ・ボンバでも5発は必要だ。
たったの一撃、しかも、映像を見るに極めて短い時間で攻撃が到達している。
この事実は安保理に大きなショックを与え、その後の投票で、「即座の核攻撃」が決定された。
アメリカ合衆国 某地
巧妙に偽装、防御が施された巨大なミサイルサイロの内部で多数の人員が動き回る。
何世紀も動く予定はなかった筈のミサイルには既に核弾頭が搭載され、発射命令に備えて点検が繰り返し行われる。
そしてついに大統領からの命令がやってくると、指令室ではオペレーターが確認を行い、それが始まる前に作業員は退避した。
そしてオペレーターたちが確認を終えると、発射に際してかけられている全てのロックが解除され、遂に最終段階へと向かう。
ガコン、ヴァーブー・・・
ミサイルサイロの蓋が開けられ、そしてスイッチが押される。
バァヴォヴォォォォォォォォォォォォ!!!!
巨大なミサイルが勢いよく空へと向かっていく。
地球で最も破壊的で、残虐で、無慈悲で、恐れ忌むべき兵器が、遂に使用された瞬間だった。
神聖ケール王国跡地 大聖堂跡
かつてこの世界で最も強力な国家で、圧倒的な国力を持っていたとされていた神聖ケール王国の大聖堂・・・の瓦礫の上に、巨大な1体のヒューマノイド型生命体がたたずんでいた。
「クソクソクソ!どうしてお前らはこんな無能なんだ!あんな無力な連中なんて簡単に消せる筈だろ!」
その体躯とは裏腹に、彼が発している声は一般的な小学生男児程の、声変わりする前の音階の高い声だ。
「お前らが・・・お前らがしくじらなければ、僕はあいつらに笑われることもなかったのにっ!」
どうやら彼の部下か、それに類する何かがミスを犯し、それによって彼は同僚か何かに笑われてしまい、それをひどく気にしているようだ。
「何度見てもイライラするっ・・・!僕の許しもなくあれほどに繁栄しやがって・・・!」
彼が地団駄を踏む度に地球では大規模地震と形容されるほどの揺れが発生する。
怒りを隠せず、一通り周囲を破壊したところで、感情が多少収まったのか破壊行為を終える。
「適当に作った連中は簡単に追い返されちゃったし、もっと強力なのを作って送らなきゃな・・・」
ぶつぶつと次の行動を彼が考えていると、そこへ小さな物体がマッハ20を超える速度で落着していく。
考え事にふけている彼はその物体に気づかない。
ドバボブァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!
次の瞬間、1つの巨大なキノコ曇が莫大な熱と爆風と共に発生する。
その3分後に更にもう1つ、同様に大爆発が発生する。
そう、核攻撃だ。
アメリカのミニットマンⅢとロシアのトーポリMの2つのICBMによって投射された両国の最大規模の核弾頭は、寸分狂わずに目標である彼に命中した。
ロシア連邦 国防省特別戦果確認室
核攻撃に際して、その効果を確認するために特別に設置された戦果確認のための部屋では各国の将官たちが緊張した面持ちで現在はなにも写っていないスクリーンを眺めていた。
あと数分もすれば、偵察衛星の1つが爆心地を写す予定だ。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
度々腕時計を見てはオペレーターに視線を移し、そしてすぐに苦い顔をしてうつむく。
「・・・映像、来ます!」
オペレーターのその声に、全員がスクリーンに目をすぐさま移動させる。
そこには、核爆発のあとに発生する円周状の爆風と爆熱によって発生した模様が写し出されていた。
「目標は破壊できたのか?」
「煙でよくわからんな」
「もう少し画角が動くのを待ちましょう」
偵察衛星はゆっくりと、もどかしいほどに遅く動き続ける。その間にも、爆煙の隙間から収集できる情報を彼らは解析する。
「煙が晴れ始めたな」
「ポジションもいい感じに移動したな。ズームしてくれ」
「了解」
オペレーターが要望に従って映像を拡大する。そこには、驚くべき物体が鎮座していた。
「なっ、核爆弾の直撃を受けたというのに、無事なのかっ!?」
「どういうことだ!?核でも破壊不可能なのか」
部屋中が一気に騒がしくなる。人類の決戦兵器たる核が一切通用しなかったのは、軍人たちに大きなショックを与えた。
巨大な脅威を取り除くことができなかった上に、それは明らかに地球圏を破壊可能な戦闘能力を持っている。
危機だ。まさしく、滅亡という大きな危機が向かってきている。
その場の全員が唖然とした。
アメリカ合衆国 国防総省
「どうするんだ!?核兵器が通用しなかったら、一体どうすれば・・・」
核兵器が全くもって効果がないとなると、もはやSF的超先進手段を現実のものとするしかない。
各国の軍人たちは科学者を総動員して利用可能な手段を探していった。
おそらく核兵器が通用しなかった理由は、相手が実体を持っていないのだろう。そのため、物理的接触が不可能であり、核兵器も意味をなさなかったのだろう。
科学者たちは考えを巡らせるうちに、1つの希望にたどり着いた。
「陽電子爆弾、反物質兵器か。可能なのか?反物質なんて特に実現が難しそうだが」
「爆弾として利用できるほどの陽電子を発生させるには粒子加速器が必要ですが、コストを度外視して大きなコンテナに使い捨てで搭載し、着弾の衝撃で発生したばかりの陽電子をぶつければ・・・と言ったところです」
ようは研究所に設置されている巨大な粒子加速器をどうにかして飛ばせるようにすればいいのだ。
「困難だが、できないわけではないと言ったところか」
この日、極めて短期間での製造が要求される、人類史上最も技術的に困難な兵器開発が始まった。
集められるだけの科学者が集められ、無制限の予算と資材の元で陽電子爆弾の開発が開始された。
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