第76話

東方海


アメリカ海軍第2艦隊を中核とする国連軍東方海方面艦隊は、東から迫る巨大な津波、冷戦期予想された赤い津波ではなく、黒く、どす黒い津波を打ち倒すべく、その戦力を広く展開した。


空母2隻以下、50隻を超える水上艦が極めて効率的な虐殺計画にしたがって動いていた。


膨大な帆船艦隊の殲滅作戦の中核に据えられているのはRGM-159 SASM対艦ミサイルである。


通常型の射程は12km程で、艦艇向けに改良された射程延長型はキャニスターに同梱されているカタパルトのような発射補助装置と追加されたブースターによって22km程度の射程を持っている。


海空軍からのRGM-159の大量発射での敵艦隊殲滅というのが作戦だ。


空母艦載機の中心戦力であるF/A-18E/F スーパーホーネットは6発を一まとめにした物をパイロンに搭載する。自衛用のサイドワインダー4発とともに24発のRGM-159を1機で発射できることになる。


空母2隻、合計100機以上のF/A-18E/Fを搭載しており、数千発のRGM-159が敵艦隊に襲いかかることになる。


空母だけではない。周囲に展開している通常艦艇にも24発のRGM-159が搭載されている他、一部の艦艇のVLSには、RGM-159によって破壊不可能な敵艦に備え、トマホークといった従来の大型ミサイルも装備している。


「まずはMCMを装備したEA-18Gが先行して突入し、デタラメバリアを張る魔術師どもを無力化する」


EA-18Gは前任の電子戦機であるEA-6 ブラウラーの後継として、F/A-18E/Fを元に改造して電子戦に特化した機体だ


「その後で、まずは船の密集ぐあいが薄い右翼の連中を狙う。敵は混乱して・・・と言いたいところだが、相手はロボットのようなもんだ。敵陣形の破壊は不可能だろうが、気にする必要はない。全部吹き飛ばしちまえば関係ないからな」


スーパーホーネットの行動半径に敵艦隊が入ると、艦隊は攻撃態勢に入った。2隻の空母のカタパルトは次々に飛行機を打ち出していく。



東方海 ???



ヴィィィィヴァァァァァァァ・・・



大量の帆船に対し、EA-18Gに電子妨害用の装備に変わって搭載されている指向性音響発生装置から、大音量で人類にとっては不快な音波が指向される。


音波が届くと、艦隊各所で展開されていた淡い金色のバリアは次々に消滅していき、そして再展開もされない


「随分と簡単に消えていくな・・・見えるぐらいのバリアを作るエネルギーがあるのだから耐えるものかと思っていたが」


「あのバリアは特定周波数の音波をぶつけただけで吹っ飛ぶよくわからん物質を使ってるらしいからな。脆いものだ・・・」


EA-18Gの乗員は不思議に思いつつ、後続の航空隊に、バリアの無力化が完了したことを報告する。


報告を受けた後続は攻撃地点ににまで進出すると、続々とRGM-159を発射。


RGM-159は徹底的な簡素化が行われており、コスト減のために、ハープーンなど通常の対艦ミサイルに普遍的に装備されているポップアップ機能をはじめとした敵艦に対し、より威力を発揮するような機構は排除されており、愚直に真っ直ぐ敵艦に向かっていくようになっている。


相手は鬼のような何段階もの防空網を張る旧ソ連海軍ではないし、なにより帆船ごときにそんな高度なシリコンの塊を使いたくない。


「ミサイル、順調に敵艦隊に着弾している模様。迎撃は皆無」


空母のCDCでは海兵達が次々に状況を報告し、次の行動に向けて情報が蓄積される。


「ベイカー隊より戦果報告、ミサイル攻撃の効果を認める」


EA-18Gは電子戦機で、詳細な戦果報告が可能な偵察機ではないが、SAMが飛んでくるわけではないのでのんきに敵艦隊上空を旋回していても落とされる心配なく、音波妨害を行いつつ、目視による戦果報告を行っていた。


「第何次攻撃で全滅するかな」


「5回ぐらいで⅔は消えるだろうが・・・やっぱりとんでもない数だな」


しばらく撃破報告が続く。それから数時間もすれば、航空隊が続々と帰還し、武装の再装填と点検にはいる。


戦争はまだ始まったばかりだ。どう転ぶかはまだ見えない。



カナダ ニューファンドランド島



パタタタタタタタタタタ・・・



「オーライ!オーライ!」


カナダの東のはしっこに存在するニューファンドランド島に、大型輸送ヘリコプターによって多数の火砲が運び込まれる。


彼らの任務はすぐ近くにまで迫っている怪物を吹っ飛ばすことだ。怪物は哨戒機の投下した爆雷や魚雷をかわして接近しており、


以前カスピ海から上陸した際は、戦車を全面に出し、重厚な航空支援と砲兵火力によって撃破したが、ニューファンドランド島にすぐに駆けつけられる重機甲戦力がないため、ヘリコプターによる迅速な移動が可能な軽装部隊、特に砲兵が運ばれた。


「すぐに射撃位置につかせろ、時間がない!」


「弾薬はどこだ!?」


「ヘリコプターから下ろす場所を開けろ!」


続々と砲兵達は上陸予想地点を囲むように展開し、その上空に観測ヘリコプターがつく。


数十分後の上陸時にはアメリカ空軍機も攻撃に参加する予定だ。


『観測チームより地上砲班、目標の出現を確認、修正座標を送信した』


「修正座標入力、射撃開始!」



バァン!バァン!バァン!バァン!バァン!



M777 155mm榴弾砲から砲弾が次々に発射され、空気を切り裂いて怪物に向けて飛んでいく。


現代の極めて優秀な観測システムによって割り出した座標情報に基づき発射された砲弾は、正確に海面から顔を出したばかりの異形の怪物に命中していった。



キィィィィィィィン!!



「ヤンキーのお出ましか!」


砲兵の上空を特徴的なエンジン配置と軍用機では珍しい直線翼の2機の航空機がフライパスして怪物へと向かっていく。



ブルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!



やってきたのはA-10攻撃機だ。機首に備えられた30mmのGAU-8 アヴェンジャーを乱射し、多数のハードポイントに取り付けられた対地兵装で地上穴ぼこだらけにする強力な攻撃機である。


低速でMANPADSも打ち返してこない怪物はA-10攻撃機にとって格好の的であり、旋回を繰り返して攻撃を重ねる。


砲兵の射撃とあわせてその大部分が傷ついた怪物は生命活動を停止し、浜辺の手前で倒れた。


回収された怪物は、以前のものと同様に、再び国連軍に衝撃を与えた。


この怪物は以前のものと比べ、大きさは大して変わらないが、防御力は大きく向上しており、また心臓などの内臓が複数かつ分散配置されており、ダメージコントロールという点でより優れた構造となっていた。


研究者の間では、複数の臓器の構造・大きさ、接続されている血管その他の要素が微妙に異なっていることから、この怪物はいわゆるキメラであるという見方が強まっていた。


この怪物という兵器は進化している。この事実は沿岸の警備と海中の監視をより厳しくしなければならないということだ。より強力な機雷をバラまき、哨戒機の密度を高めなければならない。



大西洋 ロシア爆撃機隊


地平線まで続く雲海を、大西洋方面国連軍の切り札たるTu-22M3爆撃機が飛んでいた。


彼らの任務はKh-35と言った比較的低威力の対艦ミサイルの攻撃をしのぎきった戦艦や重装甲の巡洋艦を海の底に沈めることだ。


Tu-22Mの腹には、マッハ4のスピードで飛行し、1発で確実にアメリカの空母と戦艦に致命傷を負わせるために開発されたKh-22の改良型であるKh-32が3発取り付けられている。


「投下地点まで3分、再度点検」


「・・・異常無し」


3分後、Tu-22Mから発射されたKh-32は高度を取り、目標へと高速で接近していく。


やがて自身のレーダーで目標を発見すると、急降下に適切な位置まで移動、そして一気に降下する。


戦艦や巡洋艦からは弱々しい対空射撃が行われる。弩級戦艦以降であっても、対空装備の本格的な装備はより後になってだ。


今発射されているのは大方むりやりマウントをつけて持ってきたのだろう。


しかし、たかが機関銃数丁ごときでマッハ4のスピードで迫る1tの爆薬を抱えたミサイルを止めることはできない。



バァゴォガァギャァン!!!



重量と速度にまかせて甲板装甲を貫通したKh-32の大爆発で次々に残存している大型艦の大半が破壊された。


わずかに残った小型艦と大型艦も、大西洋方面艦隊が対処することとなっている。これが完了すれば、西からの第一次攻勢は凌ぎきることができたこととなる


しかし油断はできない。既に第2波と思われる敵が生産されていることが偵察衛星によって判明している。


未だ地獄は続いているのだ。

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