第67話
スチームー帝国 ドゥラール
「会談を開きたいとは、奴らついに抵抗を諦めたのか?」
「そんな事がありますかね?新世界秩序だとかいうイカれた構想を言う連中だ。簡単に諦めるとは思えませんが」
地球圏がスチームーを介してフィルッツへ4回目の回答の催促を送ったところ、ドゥラールで会談を行いたいと返答が来た。
スチームーの仲介でドゥラールのスチームー外務省出張所の一室を借りて、フィルッツと地球圏の会談が持たれた。
「我々からの要求について、貴国内でようやく結論が出たのですかな?」
「ええ、我が国の政院で厳重に審議しました・・・その結果」
ニヤリと笑みを浮かべつつ、フィルッツの代表は1枚の紙を取り出す。
「貴国に対し、宣戦布告する!!」
宣戦布告文書をテーブルに叩きつけ、フィルッツの代表はずっと笑っていた。
スチームー帝国 ターガ国際空港
『こちら管制塔、バシーリー1、離陸を許可する』
「バシーリー1、これより離陸する」
キィィィィィィン・・・
Tu-160のNK-32エンジンは、外見の似たアメリカのB-1Bが搭載するF101エンジンのアフターバーナー使用時出力にドライ出力で匹敵し、さらにアフターバーナーを使用すれば、その出力は80%近く増大する。
このハイパワーエンジンと機体を一体的に設計し、性能の向上を図るブレンデッドウィングボディによってTu-160はB-1Bを上回る大型機にも関わらず、マッハ2以上のスピードとより巨大なペイロードを有している。
巡航ミサイルKh-55を腹に抱えたTu-160は高速でコール大陸から離れていき、やがて攻撃目標をKh-55の射程圏内に納める。
迎撃機ーーーフィルッツ側のワイバーンの航続距離圏外からの一方的なアウトレンジ攻撃である。
「発射用意・・・発射始め」
ガコン・・・ガコン・・・ガコン
ロータリー式の爆弾槽から次々にKh-55が投下され、それぞれがGLONASSからの情報を受信しながら目標へと突き進んでいく。
フィルッツ隷従国 ナマーク港
先の戦闘から復興が進み、地球圏侵攻のために拡張されたナマーク・マケネス両港。
今も新たな部隊と補給物資を送り出すため、大量の船舶が泊まっていた。
「長い航海だったな」
「ああ、やつらを懲罰し、勇者を取り戻すためとはいえ、きついものだ」
港では戦時中であるにも関わらず、どこか牧歌的な、のんびりとした時間が流れていた。
一度戦場となったが、今度戦場となる地域は遠い。再びここが戦場となることはないだろう。
ヒュッ、ボォゴォガァン!
「うわぁぁぁぁ!」
「攻撃だ!また攻撃されたんだ!」
「一体どこから!?」
牧歌的な雰囲気は、Tu-160のKh-55の着弾によって地獄へと変化した。
もう二度と戦場にならない筈だった。港は、その港湾能力を奪う為に綿密に計算された箇所を攻撃され、みるみるうちに奴隷をたゆまなく働かせて復興した筈の港は破壊されていった。
「み、港が、物資が・・・」
桟橋や埠頭は爆発とそれに続く火災でどこにあったかすらわからない。物資が貯め置かれていた巨大な倉庫は天高く黒い煙を空へと吐き出している。
「ば、バカな、奴らにはこれほどの距離から攻撃する手段があるのか」
フィルッツの掴んでいる情報の中で、最もフィルッツ本土に近い地球圏の軍事拠点がある場所はスチームーで、これ自体は事実だ。
しかし、近いとは言ってもそれなりに長い航海を経なければフィルッツまでは到達できない。この世界でケールを除いて長距離の航空航行が可能な国家はないものと信んじられていた。
もはやそれは過去のものとなっているが、基本的に情報が広がるのが遅い上、人々は自分の常識の範疇の外にある事について信じない。
航空機については広く知られていないのが現状だ。スチームーでも一般に公開されているものの、まだ生活に直結しない以上、詳しくは知られていない。
トヴァル王国 フィルッツ=ケール連合軍
「何!?本国に攻撃だと!?」
「はい、ナマーク港とマケネス港に攻撃を受け、両港はほぼ壊滅しました」
現在のトヴァル王国は第二次世界大戦時の1944年頃、オーヴァーロード作戦のために膨大な兵力がかき集められ、巨大な軍事拠点となったブリテン島を彷彿とさせるようであった。
多数の兵力が1つの作戦のために集まり、参謀たちが緻密な計算に基づいて計画を立てる。
あの時のブリテン島と違うところを言えば、駐屯しているのは陽気で笑顔の絶えないアメリカ兵や、祖国解放に燃えるフランスやオランダ、ベルギーにポーランド等の自由政府軍、そして世界各地から集められ、各々の特徴的な軍服を見せ会う英連邦軍ではなく、傲慢な態度で市民に貢ぎ物を求めるケール兵と、そこらの人々を平気で奴隷として連れ去るフィルッツ兵であることと、集積されている物資が比べ物にならないほど少ないことだ。
物資は戦闘行動を行わないなら1ヶ月、そうでないないならば1週間程で尽きてしまう。
トヴァル王国はそう大きな国土を持っている国家ではない。食料と生活必需品の生産量は必要最低限に過ぎず、外部からの軍隊を養えるほどではない。
打って出ず、トヴァルという橋頭堡の維持に努めるか、それとも危険と物資不足に陥ることを承知で打って出るか。
「1ヶ月以内にナマークかマケネス、どちらかの港が再建でき、物資を再び届けられるようになるか?」
「不可能でしょう。さすがに両方の港が完全に破壊されたわけではないでしょうから、小型の輸送船による輸送は今すぐにでも可能かもしれませんが、焼け石に水でしょう。前回の軽微な損害でさえ再建には時間がかかりました」
「ふむ・・・では打って出るとしよう。賊軍が到着するまでにいくらかの防御陣地は築ける筈だからな」
フィルッツ軍は打って出る事にした。座して死を待つより打って出るべし、とは少し違うが、物資不足でまともに動けなくなってから上陸を仕掛けられ、抵抗もできずに殲滅されるよりは、こちらが上陸して物資を略奪しつつ幾らかの占領地を確保し、防御姿勢を整えて本国からの増援と物資を待つ。
これならば、仮にトヴァルへと強襲されてもその頃には全軍がマンター大陸側に上陸済みだろうし、以前よりも強化されたケール艦隊には期待が持てる。
彼らは行動を開始した。
デメレト連邦 グレーメン市
グレーメン市の中心街、アメリカや周辺諸国からの投資によって経済発展が進み、以前とは大きく違った景色となりつつある中の、少し古めかしい手法で建設された国防省のオフィス。
「長官、ホッレース半島へのフィルッツ軍は大規模強襲上陸が確認されました」
「規模は2万人、ケール浮遊艦隊の支援も受けているようです」
ホッレース半島、デメレト連邦の最北方に位置する半島だ。ついにフィルッツのクソ野郎共とケールの思い上がり共が大挙してやってきた。
ケールが地球圏へと宣戦布告したという情報は既に手にいれていたが、経済的に重要な主要港と主要都市へ部隊を集中配備することを政府と議会が望んだため、軍の半分近くは内陸と港に配置されている。
無論、ケールの浮遊艦隊を利用した空挺作戦は警戒しなければならないから、内陸や港にもある程度は配置すべきだが、軍としてはより多くの部隊を沿岸に置きたかった。
「すぐに周辺の部隊を全て投入して防衛ラインを引け、周辺住民の避難も行うんだ」
デメレト連邦軍は基本的には第二次世界大戦時のアメリカ軍の装備を有しているが、いくつかの装備は異なる。
通信機器はその筆頭格だろう。簡易的ながらも現代的な通信システムが各国軍で整備されている。
命令は数時間もしないうちに伝達され、各地の兵士たちは真新しい軍服に大量の弾薬といくつかの手榴弾、そしてタバコとトランプを入れ、銃を持って
トラックに戦車、装甲車に飛び乗って移動する。
マンター大陸を再び戦火が包もうとしていた。
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