浮かび上がる真実
妖精族戦争
第61話
ウズベキスタン 首都タシュケント
ウズベキスタン外務省のオフィスの一角で、数枚の外交文書に職員達が向き合っていた。
その文書の送り主はフィルッツ隷従国。他国との関係は必要最低限しかなく、緊急時の対応等の体制は普通に整ってはいるものの、それ以外では極めて排他的であり、国交交渉にも応じなかった。
「フィルッツから?式典に参加しろと」
「ええ、これまで国交を求めてもうんともすんとも言わなかったあの国がです」
「妙だな。何か裏があるように感じる」
何か裏があるのは確実というか、これほどまでに排他的であったのに、いきなり何を行うかも書かずに何らかの式典に参加してくれというのは怪しすぎる。
「とはいえ正式な文書だからな。特段外交関係はないが・・・」
「あのベールに包まれた国家の調査がてら、式典に参加してもいいだろう」
地球圏各国は協議の結果、数名の外交官とその護衛をあわせて数十名程を送り込むことを決定。
多くの各国外務職員達は、軽い気持ちでこれをさばいていた。
鎖国していたとはいえ、特段悪い噂はない。徹底的な秘密主義の元、いくつものカーテンの内側に隠れてた旧ソ連も、ヨーロッパへは徹底した入国管理等を活用して鎖国体制を強いていた幕政日本も、多くの情報が外部へと漏れている。
すると、フィルッツは単に歴史的背景なり、他の何かで他種族、他国への警戒心が強く、今回何らかの理由で国外からも参加者を募ったという事だろう。
「道中で変なやつに襲われなきゃ良いがな」
サヴァール共和国
南と比べて比較的最近にクタルに征服され、抵抗運動が激しく、支配階級の大半が処刑されていたために、殆どが共和国と化したフィルタ大陸北方の国家が結成していた北フィルタ同盟各国にも、フィルッツからの使者は訪れていた。
「フィルッツからか・・・」
「派遣しても良いのでは?式典そのものよりも、我々には世界中からやって来るであろう外交官僚達の方が重要です」
フィルタ大陸の各国は独立して間もない。クタルは周辺ではその拡張主義から嫌われ者だったが、世界的に見ればその限りではない。
国是として最終的な世界征服を目指してはいたものの、すぐにそんなことが達成できないことは誰の目にも明らかであり、遠交近攻の原理に基づいて第1~3魔術文明圏へは融和的な姿勢を見せ、貿易での利益を上げていた。
そのため、フィルタに新しく誕生した幾多もの国家の存在を良く思っていない国家や、関係が薄くなってしまった国家も多数いる。
そういった国家との関係改善等を行うにはいい機会である。
「そうだな。同盟各国とも連絡しよう」
神聖ケール王国 王都エフラエン
この世界に住むもの達にとって、一般常識としてもっとも栄えている都市として必ず名が上げられるエフラエンにも、フィルッツの使者は訪れていた。
「フィルッツか、正直非文明圏や第3魔術文明圏の野蛮人どもと方を並べるのは嫌だが・・・」
「神に選ばれし3種族として行かない訳にはいかんな。適当な誰かを選出して向かわせよ」
「はっ」
神聖ケール王国は神に選ばれし3種族の1つ、エルフの国家。
それが特に急務なく3種族の1つである妖精族の国家であるフィルッツからの誘いを断ったとなると、何か悪評が出てもおかしくはない。
神に選ばれし種族の間で仲違いがあったのか、と。
現在ケール王国は片手間が二度手間となった国際問題を抱えているが、ケール王国は列強と呼ばれるだけの経済力、生産力を有しており、この程度でどこかの式典に出席できない程、追い詰められてはいない。
神聖ケール王国の世界統制府も数名の外交官と護衛を送る事に決定した。
フィルッツ隷従国 首都ケルトラン
ケルトランの中階層に存在する巨大ホールに、各国から集められた外交官や上級貴族、その他高位にある人物は、式典ということで用意された軽い食事を各々の国やグループ毎に配置されたテーブルに座って食べる。
「ブラジルの料理に似ていますな。塩味がきいている」
「まぁ、同じジャングルに囲まれているようですからね」
ホールの奥、ステージでは先程から数人の・・・奴隷と思われる者が何らかの準備を続けている。
「何を目的にした式典なのでしょうな」
「できればろくなことであって欲しいな。例えば新たな巨大建築物の御披露目とか」
少しずつ食事を食べ、しばらくして殆どの出席者が残りわずかしか皿の中に残らなくなっていた頃、奴隷は作業を終えたらしく、壇上から消えていく。
そして、1人の初老の妖精族の男性がステージのすぐ前の演台に立ち、話し始める。
「本日、皆様に集まって頂いたのは、我が国が提唱する。新たな世界秩序に加わっていただく為です」
この発言を聞いて参加者達は色めき立つ。ずっと鎖国政策を続け、国際関係に全くといっていい程関与してこなかったフィルッツの世界秩序?
「我が国は長い間、鎖国の中で繁栄を続けました。しかし!世界では毎日のように戦争が起き、人々が死んでいる!我々は次第にこの悲惨な世界秩序に心を動かされました」
鎖国に徹していた国家がよくそんな事を言えるな、という目を多くの中小国の参加者が向ける。
「そして我々は決意しました!完全に平和な世界秩序を作る為、勇者召喚を行ったのです!!」
彼のその言葉と同時に、ステージに19個配置された台に、少年少女がステージ裏から現れ、各々の武器を掲げる。
ホールがどっと騒がしくなる。
「バカな。1000年前に途絶えたとされる勇者召喚を再現できたのか!?」
「かつてに地上に跋扈していたという強大な悪魔を、それも国1つを容易く滅ぼす奴らを相手に戦い、全滅させたという勇者達を召喚したというのか!?」
「これは・・・すぐにフィルッツとの付き合いを変えねばならぬな」
三者三様の反応を各国の指導者が見せるなか、目を見開き、口を閉ざす事のできない人間達がいた。
「あ、あれは・・・」
「誘拐された19人ではないか!」
「誘拐したのは奴らだったのか!」
「こうしてはおられん。すぐにフィルッツ外務局に会談を入れろ!」
「了解!」
そう、同じ日時、同じ手法で誘拐された19人は、勇者召喚という魔術でフィルッツが行っていたのだ。
地球圏の外交官達の動きは早かった。すぐさまフィルッツ外務局へ出向き、アポを取ると、資料をまとめる作業に移った。
翌日、フィルッツ外務局の一室で、会談が始まった。
「本日は我が国の提案する新世界秩序への参加の為にいらしてくれたのですね。まずはこちらの書類n」
ドン!
メキシコから派遣されたガタイの良い外交官がテーブルを叩く。
フィルッツ外交官の言葉が止まると、直ぐ様リトアニア外交官が話し出す。
「あなたは、自分の子供が誘拐され、どこかの別の国で兵士に仕立て上げられる・・・という経験はありますかな?」
フィルッツ外交官が言葉に詰まると、今度はカナダの外交官が19枚のA4用紙を取り出す。
「この19人は、今まさにその状況にいる。数週間前、我々19ヶ国に1本ずつ光の塔が刺さった」
A4用紙にプリントされた・・・フィルッツの言う「勇者」の写真を見て、彼女は目を見開く。
「一体どこでこれをーー」
「言っただろう。貴国は魔術的手段を用いて我々から19人の少年少女を誘拐し、兵器にしたたてあげた」
フィルッツ外交官の問いに、カザフスタンの外交官が直ぐ様答える。
「我々の忍耐力を試すような考えはしない方がいい。今すぐに19人をこちらに引き渡せ」
「さもなくば、どうなるかは想像にかたいはずだ」
ロシアの外交官とアメリカの外交官が最後に警告を通達を発する。
「・・・わかりました。上層部にこの事は報告します。返答にはそう時間はかからないでしょうがいくらかの時間をもらうことになると思います」
「なるべく早くでな」
最後にフィンランドの外交官が釘を刺す。
そのまま彼らは部屋を出て、フィルッツの外交的は上司のもとへ、地球圏の外交官達はホテルへと向かった。
アメリカ合衆国 ニューヨーク 国連安保理
事を受けて国連総会に終結した19ヵ国の首脳の元へ、フィルッツに派遣されている外交官達からフィルッツの返答が届く。
「決まりだな」
フィルッツの回答はノー。神聖なる儀式で呼び出した勇者達は貴様らごときのものではない。という内容であった。
「国連軍の結成に関する決議を行う!」
19人の各国首脳が直ぐに投票を終える。結果は誰もが知っていた。
「賛成19、反対0、棄権0、よって、フィルッツへの国連軍の派遣は可決されました!」
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