第59話

スチームー帝国軍 北西方面軍


北西方面軍の前線部隊の1つである第8自動車化師団は、比較的後方に配置されていたために兵力の多くが残存していたドラゴネスト軍の部隊との戦闘に入っていた。



ダダダン!ダダン!



ボォ!バッ!



スチームー軍の銃撃に対し、ドラゴネスト軍から火の玉が飛ばされ、ある場所では銃剣と魔術具が激しい白兵戦を繰り広げる。


「敵の主戦力は下層民からの徴兵された連中か、通りで数が多いな」


「司令、後方の第11砲兵旅団が配置につきました」


「よし、一時後退して砲撃支援を待て」


堅牢な防御を見せるドラゴネスト軍に対し、後方の砲兵による火力で突き崩しにかかる。


「第8自動車化師団、後退完了とのこと」


「砲撃用意、奴らに砲弾の雨を降らすぞ」


馬から切り離されたスチームーの数的主力野戦砲、Y6 78.4mm砲が射撃位置につき、砲身が上げられ、砲弾が装填される。


「撃て!」



バァン!バァン!バァン!バァン!



無数の78.4mm砲弾が空を飛ぶ。78.4mmというと少し小さく感じるだろうが、地球の第一次世界大戦で用いられら各国軍の75mm砲は戦場を穴ぼこだらけにし、第二次世界大戦中に用いられたソビエトの76.2mm砲ZiS-3はいくつもの戦歴を残しており、第一次世界大戦前夜ほど、種類によっては二次大戦級の砲技術を有するスチームーの製造する砲は優秀だ。



ドラゴネスト軍 第54歩兵団


第8自動車化師団と戦闘を繰り広げた第54歩兵団は、疲弊した兵員を癒すため、陣地に戻って治癒魔術による治療や、食事に入っていた。


「どうにか退けられたな。だが、こちらが不利な状況は変わっていない」


「司令部は追加の兵員と部隊が到着するまで後退しつつも、山岳地帯まで敵を到達させてはならないとのことです」


「クソ、追加の人員と部隊はいつなんだ。結局」


「司令部からはなんとも」



ヒュゥゥゥゥゥ・・・



「なんだ?誰か口笛でも吹いてるのか?」



ドォン!ドォン!ドォボン!



「何事だ!?」


次の瞬間、第54歩兵団を率いていた上級兵は死滅した。テントに78.4mmの砲弾が直撃し、爆発で一瞬の間に吹き飛ばされた。


各地に残存するドラゴネスト軍を排除し、平野部を席巻したスチームーは、遂にドラゴネストに対して和平案を叩きつけた。



ドラゴネスト 第2空中都市


「ぐ、ぐぬぬ、スチームーめ、このようなっ!」


ドラゴネストに第3国を通じて送られたスチームーの和平案は、彼らにとって耐え難いものであった。


スチームーは平野部の割譲、賠償金の支払い、ケール王国軍の退去、そして戦争犯罪人・・・いくつかの痛ましい事件を起こした将兵の引渡しを要求した。


「劣等種族ごときが、悪魔の力を少し使いこなせたからといって調子にのって・・・!」


「しかし、戦況は我らが不利・・・軍の再建の目処は?」


「全く。竜士団が手酷くやられたのが痛い」


竜士団を構成する上級兵は上層民からの志願兵であり、肉体的特徴での分類のため、一般的な封建制国家の貴族階級よりは遥かに層が分厚いものの、そもそもドラゴネストは人口が少ない。


そして訓練にも時間がかかるため、今回負った壊滅的な被害は一朝一夕で再建できるものではない。


「受け入れるしかないのか・・・!」



ケマーティ ケール王国軍防衛ライン


「腹が減ったなぁ、食料はないのか?」


「後方からさっきいくらか届いたよ。全部ケールの連中が取っていったけどな」


「クソッ、飯抜きかよ!」


ケマーティの地上には各地からの撤退に成功した徴用部隊が集結し、その上空にケールの浮遊艦隊が展開した。


非文明圏派遣軍はすでに本国に増援を要請しており、遅くとも2週間程で到着予定である。


現地ケール王国軍としてはこの大損害は奇襲によるもので、万全の体制で迎え撃てば殆んど損害は出ないものと考えられていた。


実際、当初のハープーンによる攻撃では、初めて見るタイプの攻撃に多くの部隊で対応が遅れたものの、的確な判断を取った部隊では僅かな被害にとどまっており、現在ならば凌ぎきる自信があったのだ。


「手に入れた情報によれば、敵地上部隊は相応に強力らしい。地上への攻撃は重要だ」


「結界の状態には注意しろ、悪くなったら後方に回って回復と魔石交換に徹しろ」



アメリカ空軍 B-52編隊


「爆弾槽開放」


「攻撃地点まで47秒」


B-52の編隊がケマーティの上空に展開するケール王国浮遊艦隊の更に高高度から爆撃航路につく。


彼らが搭載しているのは多数のMk82爆弾。ケマーティにはまともな集落はないため、無誘導で投下し、地上部隊と浮遊艦隊両方に損害を与えるという作戦である。


無論、無誘導であるからには大した数命中しないと考えられ、残った連中は後から戦闘機からの誘導爆弾とM777 155mm榴弾砲の砲撃で破壊する。


「投下開始!」



ガコンガコンガコンガコン



機内と機外、双方あわせてB-52戦略爆撃機1機から発のMk82が投下されていく。


「投下完了、帰投する」


B-52の投下したMk82は、甲高い音を上げながら落下していき。


「なんだ?あr」



ボガァン!バァン!ビゴォン!



着弾。浮遊艦の結界に命中したものは空中で爆風を吹き出し、地上に命中したものは爆炎と巨大なクレーターを作り出す。


「ぐあぁっ!」


「がぁっ!」


地上に展開していた塹壕どころかまともな結界すらない徴用部隊は、戦略爆撃機の圧倒的な投射火力に焼かれるばかりである。


『こちら測量班、B-52のMk82は景気よく爆発してる』


「B-52はきちんと仕事をしているみたいだな」


「今度はこっちの番だな」


彼らの眼前に配置されるはM777 155mm榴弾砲。ストライカー旅団戦闘団に配備される中型ヘリコプターでの輸送に対応している軽量榴弾砲である。


「撃て!」



バァン!バァン!バァン!バァン!バァン!



何発もの砲弾がマズルブレーキによって左右へと噴出した排ガスを尻目に、浮遊艦隊へと殺到していき、ジリジリと結界を削り取る。


そして、最後に照準ポッドとペイブウェイを装備した戦闘機隊による精密爆撃によって止めを指しにかかる。


「投下!」


「レーザー誘導開始」


順次投下されていくペイブウェイは、照準ポッドから照射されるレーザーの反射に向かって一直線に向かっていく。


コックピットにはカメラ越しにいくつものペイブウェイが着弾する映像が流れる。やがて次々に結界が限界を向かえた浮遊艦たちは爆炎へと沈んでいく。


「目標破壊。ミッションコンプリート」



スチームー帝国 ドゥラール


つい数ヶ月前、地球圏の大使達と神聖ケール王国の外交官が言葉でぶつけ合った古城の、かつてこの地域が封建領主のものだった時代に作られた荘厳な鏡の間において、幾つものカメラを向けられながら、2つの国の代表が文書にサインする。


戦力が払底し、再建の目処もたたないドラゴネストはスチームーの和平案の回答をどうにか遅らせることで時間を稼ごうとしたが、スチームーは中々届かない回答に業を煮やし、全面的に受諾しなければドラゴネストへと更に奥深く侵攻すると脅した。


回答を引き伸ばしてなお状況が変わらない現状に、ドラゴネストはスチームーの要求に従うしかなかった。


ドゥラール条約によってドラゴネストは大陸西部山脈までの領土を割譲し、莫大な賠償金と戦争犯罪人の引渡し、そしてケール王国軍の撤退をスチームー帝国軍が監視することが取り決められ、スチームーはその「敗戦国」の立場に終止符をうち、ドラゴネストは「戦勝国」の立場がガラガラと崩れていった。


条約締結の翌日、帝都ガヌ・ピピアでは、壮大な軍事パレードが執り行われた。


ピッチリと制服を身につけ、小銃を手にした兵士たちが行進し、その後ろを砲を牽引しながらトラックが続き、それらの上空をLa-7Sが編隊を組んで飛行する。


「なんとか勝てましたな、陛下」


皇帝はそう話しかけてきた宰相に、パレードの列から顔を移す。


「だが、地方の被害は甚大だ。それに奴らがまた仕掛けてこないという保証はない」


平和は次の戦争への準備期間にすぎない。第1次世界大戦終結時、フランスのフェルディナン・フォッシュ元帥は「これは平和などではない。たかだか20年の停戦だ」と話し、その実、第二次世界大戦は第一次世界大戦の終結から約20年後に勃発した。


彼らに油断する暇は与えられていない。今回の戦争において、独力では勝利できなかったのは明白であり、地球圏各国からの援助がなければより国土奥深くに踏みいられていただろう。



アメリカ合衆国 ホワイトハウス


「大統領、軍はマンター大陸からケールの勢力を完全に叩き出すことに成功しました」


「うまくいったか。現地の様子は?」


「ケール側に味方した現地国家の王族などの多くは外国に逃げてしまったようで、政治的空白を埋めるため、現在は我が軍が軍政を行っています」


「王族を連れ戻すのは・・・無理だな」


「前のように国家再編が必要になりますな」


米軍の進撃を阻む戦力が消滅し、山脈の突破を許したケール非文明圏派遣軍司令部は、もはや逃亡すら失敗し、戦争犯罪人として捕らえられていた。


ケール王国軍の駐屯にともない発生した王国兵の横暴に、王国軍の駐屯費用の負担と、ケール王国軍という武力がなければ反乱必須の状態であり、多くの貴族や王族は逃亡した。


米軍による軍政ののち、これら北西地域には共和国が打ち立てられ、新たな歴史を踏み出していくことになる。

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