燃え盛るコール大陸

第51話

スチームー帝国 帝都ガヌ・ピピア


「聞いたか?ドラゴネストにケールの船が止まっているらしい」


「ああ、しかも神聖府の船らしいな」


「ドラゴネストがここのところおとなしかったのは魔物の大量発生って所か」


神聖府はケール王国の打ち祓い師等を統括している政府組織であり、各国に打ち祓い師を派遣しているのもこの組織である。


基本的に彼らが派遣される事例は魔物の大量発生や極めて危険な特級魔物の出現であり、特級魔物は非常に出現しにくいため、大抵は大量発生の際に出動要請が出ることが多い。


「異常なまでに消極的な体制は、ただでさえ国内で魔物が大量発生している現状、戦力をいたずらに失いたくないから、ってとこか」


「大量発生の情報が流れてこないのは、まぁ弱みを見せたくないっていう強がりだろうな」


スチームーはここ数ヶ月もの間、ドラゴネストが急におとなしくなった原因を突き止められなかったが、ケール王国の神聖府船が発見された結果、結論が出た。


ドラゴネストは戦争準備を行っていたわけでもなければ損害が過大となってこちらへの攻撃をやめたわけではなく、ただ国内で魔物が暴れていただけであったのだ。



ドラゴネスト 第2空中都市


「この船は神聖府の所有する中でも、創造神様から授けられたアーティファクトを装備する最上級の船の1つとなっております」


「噂に聞くアーティファクト、か。一体どのようなものなのじゃ?」


「光属性の魔力を、アーティファクトで生成された聖なる力を纏わせた魔力弾を獣人族の目でさえ追うことのできぬ速さで発射するものです」


ダランマの目の前には、一見すると木造帆船に見えるが、空中に浮いており、甲板には3つの謎の紋様の描かれたパラボラアンテナのような物が並んでおり、明らかに通常の帆船ではない事がわかる。


ケール王国の保有する船の多くは、浮遊魔術を持続的に発動させる魔石によって空を飛ぶ事ができる。


この神聖府の船の装備しているアーティファクトはケールの中でも特別格で、軍で大量に運用されている船には威力が低く、聖なる力も纏わせられないものの、その代わりに小型軽量でかつ魔力消費量を低減させた模倣品を載せている。


「今回はことの重大さを鑑み、ケールからは打ち祓い師100人、そして5隻の神聖府船と、ケール王国軍の一等級浮遊戦艦10隻が派遣されています」


「素晴らしい、これで邪悪なる悪魔を利用する奴らを倒せるのじゃな」


長年の仇敵スチームー帝国と、神に選ばれし種族たる竜族を無視し、勝手に空を飛ぶ機械を作ったにとどまらず、世界の敵、悪魔を呼び入れた地球圏とやらを滅ぼさなければならない。


他者に頼るというのは、強者であるはずの竜族としてのプライドにさわるが、相手が悪魔である以上、極めて強力な対悪魔能力を有するケールに頼らざるを得ない。


ドラゴネスト単体では、高い防御力、極めて高い魔力を有する強大な悪魔に立ち向かうには少々力不足である。



スチームー帝国 シュル港


「こいつが新型砲とやらか。結構砲口がでかいな」


「軍はロシアの規格に合わせた砲弾を使うらしい」


「ま、これまでは規格が何個もあって面倒臭かったんだ。これでいちいちあれ、これと選ばなくて良くなって助かるよ」


クレーンによって輸送船から運び込まれているのは、旧ソ連が開発したML-20 152mm榴弾砲を改良し、性能の低下と引き換えに工作精度や信頼性を向上させ、値段も下げたML-21 152mm榴弾砲だ。


これまでのスチームー陸軍の砲兵部隊には、少い部隊でも4種類以上、多いと10種類以上と過剰なまでの砲弾規格が存在していた。


これはスチームーの砲に関する技術力が順調な進化をし続けていたために、新しい技術的特徴を備えた砲が次々と開発されていったためであり、継続的に性能向上ができていたという点では喜ばしいことではあったものの、現場の兵士や、消耗品の調達を行う部署からは不評が続いていた。


規格の統一や、幾つかの特性の近い規格を統合する話は何度も出ているが、製造会社側の圧力や、上層部の意見の不一致により長らくお流れになっていたが、地球圏との交流の開始により、その状況は崩れた。


各種規格はいわゆる旧東側規格へと移行することになったが、十分な性能を持つ新規格に対応した新型砲の開発と量産には少々時間がかかるため、ロシアが輸出向けに製造を開始していたML-20をいくらか導入してお茶を濁そうというわけだ。


国産の新型砲ができた後はML-20が部品の関係で浮いてしまうわけだが、それは後々後方の訓練部隊送りにしてしまえばいい。


「そういえば、ターガ平原にデカイ飛行場ができたらしいな」


「ああ、ロシアの協力で作られたらしいな」



ターガ平原 ターガ国際空港


「建物は完成したが、中身の整備はまだまだだ。作業中は安全第一で行動し、少しでも不審な箇所を発見したらすぐに報告すること。作業開始!」


ターガ平原で建設が進むターガ国際空港は、8割がたが完成していたが、まだまだ内部には建設機材が居候しており、稼働には程遠い状況だ。


ターガ国際空港の建設事業は、主に政治的、軍事的側面が強いものだが、経済的にも大きな挑戦である。


スチームーにとってこの国際空港は経験したこのない程大規模な建設プロジェクトであり、大手から零細まで、数百の会社や団体が工事に挑んだ。


空港の航空旅客事業が1発当たれば、大きな利益を見込める。既に民営企業の先走りとして国営の航空旅客会社が設立され、幾つかの地球圏企業も参入が決まっていた。


現時点のターガ国際空港は、地球の一定以上の国土と国力を持つ国家の国際空港と比べるとかなり小さく、地球基準では地域専門の空港といった印象を受けるだろうが、周辺国には空港は無い事と、最初からより巨大な空港に増築することを考慮した設計にすることで、将来的な拡張性を確保した。


「スチームー初の巨大空港だ。失敗は許されん」



ドラゴネスト 第7空中都市


第7空中都市、郊外の上空では、多数の竜士団が訓練に励んでいた。


『放て!』



ボォ!ボォ!ボォ!ボォ!



多数の火炎弾が放たれ、徐々に小さくなりながら数キロ先で霧散する。


彼らは復讐心を胸に、猛訓練を重ねていた。


仲間を奪った忌々しい地球圏とやらのヒコウキを木っ端微塵に破壊し、神をも恐れぬ奴らに神罰を与え無ければならない。


基本的に上流階級出身の者が多く、そして竜族が特別であると聞いて成長し、実際各地で華々しい戦果をあげてきた彼らの自信は相当なものである。


野蛮な非文明圏が神に逆らって作ったヒコウキなど、鎧袖一触で落としてくれる。その意気込みで訓練を重ねた。


「うむ、みな成長しておるな。スピードは特に速くなっておる」


地上から、もう戦争には出られない老齢の者が呟く。


竜族の平均的な最高飛行速度は400km/h程度で、体力と魔力を維持しつつの場合は300km/h程度となっている。


場合によっては450km/hにまで到達する者もいるにはいるが、それはいわゆるアスリートが出す数字であり、実用的なものではない。


地球圏まで襲撃しにいき、各国の迎撃から運良く逃げ切った者の大半が、相手の速度がこちらより速かったと報告したため、速度をあげるための魔力をより効率良く使う訓練と翼の動かし方、スピードが上がった結果、火炎弾の攻撃チャンスが減る事を予想しての、火炎弾の生成訓練。


これらを繰り返し行い、質を高めていた。


尤も、アスリートが出すような数字でも、現代の戦闘機はおろか、スチームーに輸出されたLa-7Sでさえも追い付けないのだが。

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