第50話

ファストナ帝国 皇軍先遣隊


先遣隊は順調に任務を遂行していた。森には強力な幻惑魔術がかけられており、これらを突破して地形や必要な情報を収集していた。


「うむ、これだけ森について解れば、本隊はスムーズに進めるだろう」


先遣隊は森の調査と偵察の任務が大方完了したと判断し、本隊の為の駐屯地建設の基礎工事を行っていた。



パタタタタタタタタタタタタタ・・・



「なんだ?どこのだれがサボっていやがる?」


「あっちから聞こえるぞ!」


「お、おい、なんだありゃ?」


兵士の1人が指差した方向には、4枚のローターを高速回転させ、30mmチェーンガンとハードポイントに装備された武装を見せつける物体が居た。



アメリカ陸軍 攻撃ヘリコプター隊


「アルファチーム各機、攻撃体制に移行」


飛行場はまだ完全に完成していなかったが、幾つかの発着場と整備場の建設が終わったため、陸軍のアパッチ・ロングボウ攻撃ヘリコプター部隊が空軍に先行して投入された。


そして今回、ファストナ帝国先遣隊が駐屯地の建設工事に取りかかったという報告を受けて、アパッチの異世界での試運転を行おうという話になった。


先遣隊の上空に到達したアパッチの集団は、2手に別れる


一方は野営地に、もう一方は工事現場へと飛んでいく。


「攻撃開始!」



ドンドンドンドンドンドン!



アパッチ・ロングボウの機首下部に取り付けられたM230 30mmチェーンガンが火を吹いた。



ボン!ボン!ボン!



30x113B弾が地面にむけて勢いよく飛んで行き、突き刺さって爆発する。


装甲化どころか土嚢の類さえ少しも配置されていない先遣隊のテントや立て掛けられた武具は爆風に吹き飛ばされていった。


「!レーダーに機影!」


地上目標が固まっており、また装甲車両が存在しないため、機首のアローヘッドのみで照準可能とされ、ローター軸上のロングボウ・レーダーは、固定翼の戦闘機部隊が展開できていない事も考慮して対空モードで稼働させていた。


「IFF応答は?」


「なし、ワイバーンの可能性が高い」


「スティンガー用意!」


最も機影に近い1機が体勢を変え、ハードポイントに搭載されたスティンガーを敵に向けて発射できるように動く。


「目標確認、ワイバーンと判明だ」


「スティンガー発射!」



バシュゥゥゥ!!



FIM-92 スティンガーMANPADSの派生型、AIM-92、またはATASは、原型スティンガーもしくは改修型のRMP型を元に、ヘリコプター等の航空機が自衛用に装備可能に改造された小型のミサイルである。


ワイバーンは攻撃時を除き、ジェットエンジンと比較できるような大胆な赤外線を出さないが、最新のRMP型を元にしたタイプは単純な赤外線誘導ではなくIIR、赤外線画像誘導であり、事前にワイバーンにも対応できるように改修が加えられていた為、正確にワイバーンを捕捉して飛んでいった。



ファストナ帝国 皇軍先遣隊 ワイバーン


先遣隊は空からの偵察と、万が一偵察に行った部隊が遭難した際の捜索の為のワイバーン1騎が加えられていた。


相当な低空を低速で油断しながら飛びでもしない限り、そうそう落とされはしない。まぁ、ハリアー同様、攻撃されるはずのない味方からの攻撃なんかでは致命傷だが。


「なんとも珍妙な奴らだな・・・」


当然だが、この世界にはヘリコプターと同様の見た目をした生物は存在しない。


が、ワイバーンに跨がる竜騎兵は、一目で彼らがワイバーン程の機動力を持たないことを見抜いた。


「覚悟しろっ!」


そう彼は相棒の速度を上げた時、目標の珍妙な物体が何かを射出した。



シュゥゥゥゥゥ、バァン!



不幸なことに、彼らはスティンガーと真正面からぶつかることになり、名前の通り毒針のように突き刺さり、毒薬の代わりに炸薬が爆発する。


「ぐぁぁっ!!」


爆風に吹き飛ばされ、また1人名誉の戦死を遂げたものが増えた。


「クソッ、手酷くやられたな。こりゃ壊滅だ」


嵐のような攻撃が去ったのち、運良く生き残った魔術師や兵士達が、生存者を確認する。


あれだけの攻撃を受けたにも関わらず、生存者は比較的多い。あの連中は人員より設備を優先していたらしく、ほとんどを破壊したのち、森の方へと飛び去っていった。


「直ちに本隊に報告し、戦力増強を具申せねばな・・・」



ファストナ帝国 ブターニ


「何!?先遣隊が壊滅だと?」


先遣隊が壊滅的な物的損害を被ったという報告を受け、皇軍の参謀部は驚きに包まれる。


「一体どうやって?先遣隊は少数とはいえ、単独での戦闘力の高い魔術師主体なのだぞ」


「それが・・・良くわからない空を飛ぶ物体から放たれる魔術によって攻撃されたと、詳細は不明です」


「この辺境のエルフどもにそんな大層なものは作れん筈だ。もしや神聖ケールが絡んでいるのか?」


神聖ケール王国はエルフが主体の国家だ。当然国外での自民族、自国民の為、攻撃されていたり、差別されていれば介入する。


"森のエルフ"に介入していないのは、ひとえに彼らの存在を認知していないからであり、彼らが外交的なパイプを一切有していない為であった。


「いや、可能性は薄いだろう。奴らなら堂々と外交ルートを通じて抗議してくる筈だ」


「つまり相手は謎の存在とでもいうのか?」


参謀部に静寂が訪れる。先遣隊を壊滅させた敵が謎なので、情報収集に時間をください、とは言えない。


皇軍がたかがエルフごときにビビったと言われない為というのもあるが、皇軍はとにかく維持運用にバカみたいに金がかかる。


所属している者達への給料に始まり、膨大な魔石を消費する結界魔術師、さらには高価で精密な武具の数々。


平時なら、結界魔術師はほとんど魔石を消費しないし、高価で精密な武具も、木と布で作った模擬戦用を使うので、錆びたりしないように定期的に油を塗ったりするだけで良いが、出動となると、話が変わる。


特に結界魔術師とワイバーンが厄介だ。結界魔術師は前述の通り大量の魔石を消費し、ワイバーンは(一般的な家畜と比べ)大量の餌と、今回は温帯な地域への出兵な為不要だったが、一部地域ではワイバーンの為の環境維持の為の魔術を長期間発動するための専任魔術師まで必要だ


「本件は、エルフによる大規模な攻撃を受けた結果と報告する。いいな」


この報告の結果、先遣隊は壊滅的被害を被ったものの、エルフもまた大きな被害を負っていると判断した皇太子は、予定通りにブターニから出陣し、"森のエルフ"へと向かっていった。



"森のエルフ" アメリカ軍飛行場


ファストナ帝国皇軍が出陣した頃には、アメリカ軍の飛行場は7割型完成しており、既にF-16が5機運用可能な状態になっている。


「傾注!偵察衛星により、ファストナ帝国の大部隊が迫ってきていることが判明した!前回まで存在した部隊と違い、ワイバーンを有することがわかっている」


「陸軍のスティンガーやアベンジャーシステム、ヘリコプターでは、固定翼機に近い特性を持ち、機動性に富むワイバーンが複数相手となると分が悪い。そのため、我々の任務はこれらワイバーンを粉砕することだ」


スティンガーや、それを車載化したアベンジャーシステムは、陸上から発射するというのも相まって、木々が生い茂るここでは防空範囲を著しく低下せざるを得ない。


ワイバーンさえ無視できれば陸軍だけでも敵陸上部隊は排除可能であるため、空軍の主任務はワイバーンの排除となった。



ファストナ帝国 皇軍


「ふむ、たしかに激しい攻撃を受けたようだな」


数日間を経て、先遣隊が攻撃された地点にたどり着いた皇軍は、先遣隊の受けた攻撃を後を尻目に、森への攻撃準備にとりかかる。


そして、一通り野営地を設営し、攻撃体制を整えた皇軍は攻撃を開始する。


「ワイバーン隊は森の一部を焼き払え、エルフどもを混乱させるのだ」


その命令を受け、森に侵入するべく小部隊に別れて前進する歩兵や魔術師達の上空を勢い良く通過する。


そしてそのまま少し飛行して、幾らか森の奥地にワイバーンの火炎弾を叩き込む。


簡単な仕事だ。極めて。ここの文明を持たぬエルフには体系化された対空攻撃はないだろうし、相手には航空戦力は居ない。


「あれは・・・」


はるか遠くの空から点がどんどん迫ってきている。あれは一体なんだ?


不意に、点から光が放たれる。そして数秒後。



ボォン!ボォン!ボォン!



「なっ!」


数騎が一瞬の間にこちらまでやってきた光によって粉砕される。


その数秒後には、やじりのような先端部を持つ飛行物体が通り抜ける。


「あいつがっ!」


目にも止まらぬ速さを前に、なす術がない。飛行物体が光を放つたびに、それに絡めとられ、ワイバーンは次々に墜ちていった。


「一体どういう事だ!?あの飛行物体は一体?」


いきなり現れ、轟音を鳴らしながら光を放ち、ワイバーンを落としていく飛行物体に、地上部隊は怯える。


「怯むな!我々にはまだ結界魔術師達もいる!」


士官が声を上げて兵士を鼓舞する。多少は落ち着きを取り戻した彼らは、結界魔術師を中心にして前進する。


綺麗に並んで前進する自分達を見て、いくらかの士気の回復できた彼らが森が目の前まで見えたというその時。



ボォォン!



戦列の中央に超高速の光が放たれ、結界表面に大爆発を起こす。


森の中から105mmの砲身を伸ばしているのは、転移前、戦略の変化や老朽化、使いにくさ等で退役予定だったM1128 ストライカーMGSだ。


アメリカ陸軍は自分達の存在を認知して貰うことも任務の1つであった為、多少危険だが森の表層での迎撃を実行した


大爆発に混乱する最中、MGSと共に展開する装甲戦闘車両の周りに伏せるアメリカ陸軍歩兵による激しい銃撃が叩き込まれ、MGSが数発の105mm榴弾で飽和され、急速に消滅していく結界を尻目にファストナ皇軍はその兵力を湯水のごとく切らしていく。


「てっ、撤退だ!撤退だ!」


総司令官たる皇太子は、命惜しさにすぐに撤退命令を出す。


敗走した皇軍の戦力は、その名に反する、圧倒的弱軍であった。



スチームー帝国 皇城


「不穏だな。ドラゴネストの連中がそう簡単に諦めるとは思えん」


「国境部をさらに強化し、戦争に備えろ」


「備蓄弾薬を増やせ!兵士も士官も予備を増やすんだ」



神聖ケール王国 王都


「なんと、そこまで大規模に悪魔が!」


「これは一大事、多くの者を派遣せよ!悪魔をこの世界にのさぼらせてはならぬ!」



フィルッツ隷従国


「ケールの情報です。悪魔が発見されたそうです」


「何、それでは少々間が悪いな。予定を延期して、悪魔の討伐が確認されてからにしろ」


「はっ!」

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