第48話
ヨアピス大陸南西端沿岸
陸軍部隊の陸揚げ地点から少し離れた位置を飛行場建設地として、陸軍工兵の手によって急ピッチで進められていた。
しかし、それなりの時間はかかるため。暫くは増援部隊の輸送を兼ねて派遣された強襲揚陸艦がAV-8Bと海兵隊の攻撃ヘリコプターでもって航空支援を行う事になっている。
「あんな広大な土地がこんな速さで・・・」
「あの巨大船は一体どのように作られたのだ?」
監視塔から毎日ファストナ帝国海軍の襲来を警戒しつつ、アメリカの工事の様子を伺っていたエルフ達は、陸軍工兵の手際のよさと、彼らの使う物に驚愕していた。
埋め立てを行うとは聞いていたが、あれほど大規模に行うとは思っていなかったのだ。
巨大な船から注ぎ込まれる砂利やコンクリート、長大な鋼材を一度に何十と動かすクレーン車、そして見ている間にいつの間にか工程が進んでいる工事の速さ。
ログハウス1個作るにも苦労している自分達と比べて、どれだけ技術が進歩しているか、彼らはその目に焼き付けられていた。
ファストナ帝国 皇軍
「どうだ?いけそうか?」
「遠すぎます。この距離だとかなり時間を使うことになります」
皇軍はエルフ征伐の命を受け、意気揚々と出陣したわけだが、早速足止めを受けることが確実となってしまった。
"森のエルフ"征伐軍と比べると兵力で2倍になり、贅沢に魔術道具がが配備されており、さらには膨大な魔石を消費する結界魔術師まで抱えている為、現代軍程ではないにしろ、いわゆる補給が「重い」部隊に分類される。
近年になって本格的な開拓や開発が始まったばかりのこの地域のインフラと供給能力には限界がある。
それを理解していた征伐軍は膨大な物資を蓄えておいていたわけだが、残念ながらこれらは155mm砲弾によって全て吹っ飛ばされている為、再度物資の貯蔵を行わねばならない。
皇軍は地位が高い。ある程度物資は優先されるだろうが、インフラの悪さと根本的な輸送能力の低さは権力でそう簡単に覆せるものではない、かと言って強引に軍を進めれば物資不足に陥り戦闘能力が低下してしまう。
「暫く足止めか。面倒だな」
とはいえ、この時代では物資の輸送が滞るのはそう珍しいことではない。多少の時間の遅れは許容するものだった。
しかし、彼らはこれから相対する現代軍相手に、少しでも時間を与えると言うことの危険性を知らなかった。
アメリカ海兵隊 森上空
AV-8B+ ハリアーⅡ艦上攻撃機は、イギリスのホーカー・シドレー社によって開発された世界初の実用VTOL軍用機ハリアーを、アメリカのマクドネル・ダグラス社が中心となって改良を施した機体である。
素材の変更による軽量化、エンジンを改良型への換装など、様々な改良が行われているが、中でもアビオニクスは数多くの箇所に手が加えられている。
冷戦期から長らくアメリカ海軍の強襲揚陸艦に載せられてきたが、流石に老朽化が進んでおり、同様にVTOL能力をもつF-35のファミリーであるB型によって更新が進められている。
今回はコストの関係もあってAV-8B+が派遣された。ステルス機は調達コストはもちろん維持コストもこれまでの機体と比べてバカみたいに高いので、AV-8B+を使えるだけ使うということである。
そんなAV-8B+を、森から睨む者達がいた。
「アメリカ・・・!」
そう、風精霊の巫女達だ。風精霊がアメリカの物を好まないというので、上空をパトロールするハリアーにも憎悪を飛ばしているのだ。
巫女達にとっては精霊の意思は最優先すべき事だ。どれだけの犠牲・コストがかかろうとも、世界を守護する精霊の意思なのだからやるべき事なのだ。
しかし、アメリカは、奴らはそれを平気で断った。
なんて罪深い事だろうか。今すぐにでもアメリカという者共は滅ぼす為に、呪いの儀式をしなければなるまい。
しかし、水精霊の巫女達は消極的とはいえ賛成してくれたが、火精霊と土精霊の巫女達は反対した。
火精霊も土精霊も、別に彼らのことは気にしていないとのことらしい。
それよりも、世界樹がどうされるかわからない今、アメリカを追い出すべきではないとまで主張している。
「ぐぬぬぬぬ・・・」
こんな現状は認められない。今すぐにでも何か奴らに制裁を課さねばなるまい。
「ん・・・?」
先程頭上を通りすぎた鉄竜がこちらに進路を変えている。
好機だ。あの素早い鉄竜を落としてやる。
「~~xotdlfdjrzlyflyxjt!」
ヒュンヒュンヒュン
いくつものベクトルを持った空気の塊が、円錐形になって2機のハリアーⅡへと高速で向かって行く。
ガン!ゴォン!ボォァァァン!!!
裏が空洞の金属に物体が衝突したときの特有の音が甲高いエンジン音を一瞬だけかき消して鳴り響き、その直後に大爆発が発生する。
アメリカ級強襲揚陸艦
『司令部、こちらホテルⅡ、ホテルⅠが対空攻撃を受けて撃墜された。ホテルⅠは脱出できている』
場は一気に騒然とする。ハリアーが落とされた?この地域にはSAMも敵機もいないはずだ。
「こちら司令部、ホテルⅡは直ちに帰還せよ」
『了解』
海兵隊はすぐさま救出作戦に入る。しかし今回は陸軍部隊の輸送を目的にやってきた為、海兵隊の実戦部隊をつれてきていない。
「というわけで、海兵隊航空部隊の支援のもと、我々が直接現地に赴く」
陸軍の部隊がヘリコプターに載せられて現地へと投入されることとなった。
「本来は専門の人員と戦闘救難員が投入される場面だが、今回はこの場に居ない。何が潜んでいるかまだわかりきっていないこの森の中でパイロットを放置するのは極めて危険であるため、我々が投入される」
地図を広げ、手持ちの墜落地点と周辺の情報を精査し、海兵隊から受けられる支援を確認する。
パタタタタタタタタタタタタ
UH-1Y ヴェノム輸送ヘリに乗り込み、現地へと向かう。
彼らの後をハリアーⅡと攻撃ヘリAH-1Zが追い抜き、先行して墜落地点へ向かい、降下地点の安全を確認する。
「こちらズールーⅠ、墜落地点付近は安全。降下可能です」
『作戦を開始する!降下開始!』
数機のUH-1Yから次々と歩兵がロープをつたって降下する。
「警戒!何が出てくるははわからんぞ」
降下した歩兵は周囲を警戒し、ひとまずなにも居ないことを確認すると、パイロットが居るはずのパラシュートへ向かう。
「こちら司令部、パラシュートの地点より100mの地点に到達」
『降下チーム、パイロットは居るか?』
「パイロットは居ます・・・何人かの女性に木に縛り付けられていますが」
『距離をとって女性達に警告を発し、パイロットを解放させろ。解放しなければ交戦を許可する』
「了解」
歩兵達は静かに身を潜めながら配置につき、1人が手をメガホンがわりにして警告を発する。
「そこの集団、直ちにパイロットを解放しなさい!」
ヒュンヒュンヒュンヒュン
女性達はアメリカ兵の存在に気づくやいなや・・・全方位に向けて魔術を放つ。
ダダダダダダン!
それにたいし、アメリカ兵も反撃するが、謎のバリアに阻まれ、銃弾は女性達に到達しない。
「ズールーチーム、敵集団に対する航空支援を要請する」
『了解、攻撃態勢に移る』
「敵の近くには救出目標が存在する。うまく判別してくれ」
AH-1Z ヴァイパー攻撃ヘリが機首のM197
20mmガトリング砲を女性達へと的確に発射する。
20mm弾はバリアを容易く貫通し、アメリカ兵を攻撃する女性達を襲い、撃破していく。
やがてバリアが消滅し、アメリカ兵の銃撃で最後の1人が撃ち殺される。
アメリカ兵は木に縛り付けられたパイロットに近づく。
「救出目標確保!」
パイロットは気を失っていたが、息はあった。
直ちにヴェノムが急行し、即席で作られた担架付きロープを下ろしてパイロットを回収する。
アメリカ兵も他のヴェノムに回収され、帰還していく。
ファストナ帝国 皇軍
「皇太子殿下!」
「どうした?」
「ギルドの者が話をしたいと」
「ギルドだと・・・?」
ファストナ帝国でのギルドの影響力はあまり大きいとは言えない。
物流に関わるギルドなら、規格や規制等の面である程度影響力を持つが、そんなポンポン変えられるものではないので、影響力として行使することは難しい。
「とりあえず、話は聞こう」
数分後、討伐者ギルドの職員制服を着た者が皇太子の元へとやってくる。
「ご機嫌麗しゅう、皇太子殿下」
「世辞はよい。用件はなんだ?」
「今回・・・皇軍がエルフを攻撃すると聞きまして、一つ、取引を持ちかけさせに参りました」
「ほほう」
「皇軍は数も多く、そして高い質も持ち、強い。しかし、皇太子殿下も知っての通り、少々皆様は大食いです。その為、エルフの森つくまで少しここで腹ごしらえが必要なようです。しかし、エルフはこの間にも戦力を回復させているかもしれません」
「もっともな事だが、ようは何がしたいのだ?」
「皇軍の出動した頃から・・・少々暗い奴らに声をかけました。こやつらは少し報酬を高望みしますが、エルフを疲弊させるための当て馬にするには十分な戦力です」
「なるほどな。では条件を増やそう。エルフの女を拐い、私に献上したならば、膨大な報酬をやろう。無論、貴様にな」
「ありがたきお言葉」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます