第47話

ヨアピス大陸南西端沿岸


「うーむ、森を削って作るのは得策じゃないな」


ペンタゴンは現地において飛行場の建設プロジェクトを開始したが、早速問題にぶつかっていた。


それは建設場所だ。当初は沿岸部の森を伐採し、海岸に燃料や弾薬等を搬入するための簡易的な港を設けたものが設計者の間では考えられていたが、地図や実地の状況を研究したところ、沿岸部の形状があまり良くなく、まっすぐな滑走路と相性が悪かった。


そのため、沿岸部の緩い地盤を固めることを考えると、森をいくらか伐採するより、むしろ埋め立てを中心にした方がより時間短縮につながりそうであり、こちらが選択された。


「滑走路は2本でいいだろう。大した能力は必要ないだろうからな」


「燃料タンクとか格納庫も最低限で十分だな」


ワイバーン相手に大型で複雑な戦闘機やステルス機は過剰性能と判断し、アメリカ空軍は軽量で安価なF-16を中心とした部隊を派遣することとなっていた。


F-16は日本でも運用されているF-15の計画に対して不満を持っていたアメリカ空軍のジョン・ボイドという人物が秘密裏に研究開発を開始した事で誕生した軽量・小型の戦闘機だ。


F-15は当初、多数の空軍戦闘機を全て代替する予定だったものの、インフレや高い性能の為に不可能となり、その穴を埋める安価で使いやすい戦闘機がACF計画という名で開発調達されることとなり、このACF計画によって誕生したのがF-16だ。


これは余談だが、ACF計画ではYF-16(Yは実用試験機を意味する)の競合機としてYF-17という機体が提出されているが、これは後にF/A-18として海軍に採用されることとなる機体である。



ファストナ帝国 帝都ベマニン


「エルフどもに負けただと!?」


「ありえん!あれだけの兵力と装備だったんだぞ!」


ファストナ帝国の首都、ベマニンの軍務局はてんやわんやと混乱の中にいた。


いまやヨアピス大陸で"森のエルフ"を除きファストナ帝国の直接支配下にないのは東部のファストナ帝国従属小国家群と南部の文明を持たない狩猟民族だけであり、"森のエルフ"さえ帝国に屈服すれば、完全な大陸の征服が完了するのだ。


既に帝国は外へと目を向けており、つい最近フィルタ大陸に従属を迫る使節を送ったばかりだ。


尤もこの使節団は不幸にも大きな嵐にあってしまったらしく、全くもって応答がなく、喪失したものと見られ、現在より優れた航海、船舶技術の研究や、輸入の検討が行われている。


「敵は本当にエルフどもだけなのか?」


「残存した連中によれば魔力を感じなかったという・・・一体どうやって爆裂魔法を使ったというのだ?」


目下疑問とされているのはエルフどもの新しい魔術または兵器と見られるものだ。


「炎を吹き出して煙を引きながら飛んで行き、そして爆発する・・・そして一切の魔力を使っていない・・・」


ファストナ帝国にとって全く未知のものだ。サンプルも、実行した捕虜も居ない為、詳細はチリの1片も不明だ。


「謎だな・・・」


ひとまずは兵力と兵種の増強と偵察活動の強化でお茶を濁す事に決まったが、いづれエルフを屈服させる作戦をたてねばならない。



スチームー帝国 バトチス要塞



ブゥーン・・・



「あれが飛行機とやらか」


「本当に空を飛んでる。すげぇなぁ」


彼らの頭上をエンジン音を鳴り響かせながら通りすぎたのはつい最近配備されたばかりのLa-7Sだ。


前線飛行場は簡素な設計である事もあって既に完成しており、最初の部隊が配備された。


La-7Sは編隊を組んで訓練を兼ねたパトロール飛行を行っていた。


ある時期からドラゴネストの連中は越境しなくなり、国境線付近を巡航しているだけになっている。


「やはり不気味だな。あの自尊心の塊がこうも簡単に引き下がるものなのか?」


「ショックがでかくて自尊心を支えきれなくなったんじゃないか?」


「そうなら楽なんだがな」


スチームーはロシアから砲弾や銃弾等のライセンスの購入に成功し、前線に備蓄される弾薬は少しずつだがロシア製から国産へと切り変わっていた。



スチームー帝国 シュル港



ボォー!ボォーーー・・・



シュル港では帆船から現代的なコンテナ船まで幾つもの商船が出入りを繰り返していた。


「良い景色だ」


「仕事がなきゃ、ずっと眺めてたいぜ」


「ああ」


労働者達は軽口を叩きながら、慣れた手つきで機械を操作し、船へと貨物を積み込んでいく。


スチームーの工業生産高は急速に拡大していた。


技術革新と経営手法の刷新が相次ぎ、より効率的に、かつ低コストで大量生産を行う段階に入った。


生産された製品は大量に国内外に販売され、その利益によって更なる拡大が進んでいた。


売れ筋は軍需製品だ。機械文明圏と第2魔術文明圏はドラゴネストとスチームーの国境線の延長線を境に別れており、その境界線は紛争地帯として有名だった。


技術と国力の発展に国民全てが関わり、競争の繰り返しによって発展する資本主義にまで到達した機械文明圏に対し、個人に技術と国力の発展が強く依存する魔術文明圏では、封建制度と階級社会が存続していた。


このような国家体制の大きなズレは、次第に対立を生み出し、スチームーを中心とした機械文明圏と第2魔術文明圏は冷戦状態にあった。


そんな情勢下では武器と消耗品は無限に近い需要がある。これまでは生産力にそこまで自信がなかったため、紛争が激化している地域や、友好国に集中しての売却しかしていなかった。


しかし、工業力の増大に伴い供給能力に自信がついた。そこで販売範囲を一気に広げたのだ。


その結果、大量生産によって値段が下がったこともあって飛ぶように売れていた。


「最近は静かだな・・・」


「ああ・・・」



ファストナ帝国 帝都ベマニン


ヨアピス大陸に冠たる大帝国の帝都にそびえ立つ巨大な宮殿の一室。


中世の騎士のような鎧に身を包んだ大男が1人のきらびやかな衣装を身につける人物に膝まづいていた。


「このような事態のため、残念ながら新しいエルフの奴隷は獲られておりません」


「エルフどもはどうやら多少は事の重大さに気づいたらしいな」


「いかがなさいますか。現在現地軍の損耗は激しく、次の入荷は当分先となってしまいます」


「僕が軍を率いる。準備をせい」


「はっ」


帝国の皇太子は軍事的才能に溢れ、十分な実力を持つ魔術師だったが、残忍で欲深い人間として有名であった。


出陣すれば必ず虐殺を行い、例えどんな小さな村であろうと気分しだいで火をはなち、女を攫い男は奴隷に落とす。


そんな彼の最近の楽しみはエルフの女だった。見た目が美しい彼女らは多くが忌みものにされていた。


定期的に征伐軍が捕虜としたエルフを送ってきていたが、今回の征伐軍壊滅に伴い、一時的にそれが滞ることを受け、彼は自ら直接"森のエルフ"を攻略することを決断した。


そこに何が待ち構えているかも知らずに。



ベマニン郊外 皇軍駐屯地


伝統的にファストナ帝国軍は3つに分けられる。


軍務局が管理し、帝国上層部からの命令で動く帝国本軍。


帝国上層部や皇族、その他VIPの護衛を主にしつつ、いわゆる汚れ仕事も行う帝国近衛兵団。


そして皇帝や皇太子をはじめとする皇族によって管理される皇軍である。


皇軍は精鋭の兵士と魔術師で固められた部隊なものの、現代で言えば特殊部隊とSPの合体形である近衛兵団に比べ、より前線に出て敵と張り合う部隊だ。


「皇太子様より出陣の準備との事だ!仕事にかかれ!」


彼らは表上実力のみで集められているが、実際には貴族やそれに近しい家柄等が優先されている。


とはいえ、さすがに無能はおらず、どれだけ能力の低いものでもそこらの徴兵された兵士よりかは優秀な者が集められている。


士官達の目には、また輝かしい戦果をあげる皇軍の姿が写っていた。


ファストナ帝国の繁栄は、いつまでも続くように彼らには思えていた。

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