第46話

アメリカ陸軍 


「前線チームは敵部隊を撤退させました」


「敵駐屯地に砲撃を開始、奴らが帰る頃にはクレーターだけにしておけ」


敵部隊に多大な損害を与え撤退させたが、敵の物資と拠点は未だ健在である。


相手は情報によればこのヨアピス大陸の半分以上を領有する国家だ。兵士はすぐさま補充できるだろう。


さらに偵察衛星の情報を解析したところ、膨大な物資とテント群が確認され、補充されるであろう兵士は数週間程度で再び森へと攻撃できる体制を整えられるだろう。


「了解」


ヘリコプターで運搬したM777 155mm榴弾砲が森の中から砲身を上へと向ける。


「発射!」



ダァン!ダァン!ダァン!ダァン!ダァン!



無数の155mm砲弾は放物線を描いて飛んでいき、9km程離れた位置にあるファストナ帝国軍の駐屯地を襲った。


今回アメリカ陸軍が持ち込んだ砲弾はM107 155mm榴弾だ。新型のM795が既に登場しているが、まだ完全に更新できておらず、幾らか在庫があったものを処分するという理由でこちらが選択された。


M107の炸薬は14.6ポンド、約6.6kgになり、破片と爆風で人員及び非装甲物へダメージを与える代表的な榴弾である。


そして、近代の戦場では中世以来、装甲という概念は長らく廃れていた。


そんな場所に、近代のTNT火薬でたっぷりの榴弾が命中すればどうなるか?



ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥ



「なんだ?」



ボォン!ボォン!



当然、爆風とそれによって加速された破片を防御することができず、多大な被害を被る事を覚悟しなければならない。


現在駐屯地には少数の憲兵と、後方支援を専門とする者しか居ない。


「うぁぁぁぁぁぁっ!?」


「あがっ、ぐぁがぁぁっ!」



ボォン!ボォン!ボォン!



155mm砲弾は無慈悲に落着を続け、テント群に降り注いだ砲弾は次に物資へと目標を変える。


そこには食料、衣料品、医薬品、その他生活必需品、そして武器と弾薬がところ狭しとそれぞれの容器に詰められ貯蔵されている。


食料などは砲弾が当たっても台無しになるだけで大した被害はない・・・しかし、弾薬はという物はそうはいかない。



ボォン!バァゴォォォォォォォォォン!!!



「クソ!一体どこのどいつに砲撃されてるんだ!?」


弾薬に引火し、集積されていた物資類は全て爆炎で吹き飛び、木箱や布袋といった大量の可燃物に引火し、大火災を引き起こす。


数十分の砲撃で駐屯地は壊滅状態となった。



アメリカ陸軍


「戦果確認はどうやるんだ?」


「衛星とエルフにやって貰う予定だ。エルフは魔術で身を隠せるが、俺達はそうはいかないからな」


「あの地形と時代だと、俺達の服装は逆に目立つだろうな・・・」


森の表層から外は平野が広がっており、現代軍の服装では逆に目立ってしまう。


揚陸艦からヘリコプターを送るという手もあるが、ヘリコプターの空対空戦闘能力は低いと言わざるを得ず、万が一撃墜される危険性を考え投入されないこととなった。


そのため、時間はかかるものの正確な偵察衛星と、正確な戦果報告が受け取れるかは不安があるものの、すぐに確認できるエルフ達に頼ることとなった。



"森のエルフ"偵察部隊


「足元に気を付けろ、なにか踏んだりしたら最悪だ」


精鋭中の精鋭から10名が選抜されて編成されたこの部隊は、アメリカ陸軍からの依頼を受けて、駐屯地へと向かっていた。


できる限り草が生えているところや、森に近いところを、隠蔽魔術を使用しながら慎重に進む。


隠蔽魔術は人体から発せられる僅かな音や、気配というものを察知するのに必要な情報、そして魔力などをある程度遮断できる物であり、視覚的なステルス状態になるわけではない。


それに加え、枝を踏んで鳴った音などは大きすぎて遮断しきれず、それ故通常の隠密技術とあわせて使うことが重要な魔術だ。


「そろそろ見えてくるはずだ。警戒を厳となせ」


焦げた匂いがし始め、全員が緊張している。今歩いている場所は背の高い茂みで視界が非常に悪い。


「!」


隊員の1人が腕を振って停止と合図をする。どうやら茂みが切れているようだ。


焦げ臭い匂いが充満している。いつも森の中できれいな空気を吸っている彼らにとっては極めて不快な匂いだ。


アイコンタクトとハンドサインで確認を取り、数名が茂みから顔を出す。


「!!!」


その光景は彼らからすれば地獄としか言い表すことのできないものだった。


バレないよう慎重に進んできたのもあって、ここへはアメリカの持ち込んだ魔術道具が爆裂魔術を放ってから1日ほどかかってしまった。


しかし、未だに可燃物が燃え続け煙を上げ、地面は黒く焼け焦げている。


「こ、これh・・・」


思わず声がでるが、すぐに今の任務と状況を思い出し、口をふさぐ。


駐屯地への砲撃は、成功したと報告された。



"森のエルフ"世界樹の寺院


巫女達が世界樹を通して精霊達の意思を受け取る場所、それがこの寺院だ。


石と木材で建てられており、小さい住みかの多い"森のエルフ"からすると、4大精霊それぞれの巫女を住まわせることを考えてもかなり大きい建物だ。


質素ながらも、長い歴史を持った神聖な寺院である。


そんな寺院の中では、今も風精霊の巫女と火精霊の巫女が言い争いをしていた。


「これは風精霊の意思なのですよ!」


「単に好き嫌いなだけで精霊達に直接的な害はないでしょう!」


「精霊の好き嫌いなのですよ!優先すべきはこちらです!」


「それで世界樹を害する者達を阻む必要はないと?」


気がよく変わる風精霊を祭る巫女は彼らを満足させることがどれだけ難しいか知っている。


強い不満を感じるとされたアメリカ軍は、即刻排除されるべきなのだ。


一方で、最後には必ず消えてしまう火を司る火精霊を祭る巫女達には、現実という物が見えている。


仮に風精霊を今一時的に満足させたとして、そのあとにやってくるファストナ帝国軍が世界樹をきちんと保護してくれるかは怪しい。


例えどれだけ精霊が不満を持とうとも、そればかりを優先しては彼らの力の源が危なくなってしまう。


それでは本末転倒どころか、事態は世界にまで波及してしまう。


「彼らは簡単には満足してくれないのよ!」


風精霊の巫女達には現実が見えているのか?どうも妄信的になってなにも見えていないように見える。



アメリカ合衆国 ペンタゴン


「派遣部隊は無事作戦目標を達成しました」


「とりあえずは現状の装備でもやっていけそうだな。だが、できればより重火力の兵器を前線に持ち込みたい」


ペンタゴンでは、"森のエルフ"にファストナ帝国軍の興味を引き付けつつ、なおかつ手出しさせない為の手を計画していた。


「アヴェンジャーシステムではやはり能力に限界がありますな」


「飛行場を建設するべきだな。航空機は連中の興味も引き付けるだろう」


ペンタゴンはファストナ帝国の興味を森に引かせるために、航空戦力を投入する事を計画した。


この世界の航空戦力は今のところ確認できてるだけでワイバーンと竜だけだ。


エルフからはワイバーンしか見たことがないという情報を受け取った。


ワイバーン程度であればA-10のような機動力の低い攻撃機どころか、そこらの高等練習機に武装を施したものでも十分に圧勝できる。


そして、航空戦力は彼らにとって貴重であることはほぼ確実といっていいだろう。ワイバーンという生物で構成されている以上、すぐに補充が利かないだろうからだ。


そんな貴重なワイバーンを一方的に狩ることができ、さらに地上部隊に大損害を負わせられる戦力があったら?


侵攻されないためにも大部隊を張り付けつつ、さらに大損害を被るだろうから攻撃自体はできない。


これ程厄介な上、常に注意をしなければならない存在はないだろう。


計画は実行に移された。

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